第363話 人間にビビるトンガリ
ロード、ハズレ、グラスは、スワンが一匹のデフォルメスライムと話し込んでいるを聞いていた。
そしてスワンとトンガリの自己紹介も終わり、他の3人も名前を認識した。
「それじゃあ、トンガリに質問するんだけど、こんなところで何をしていると? いきなり襲い掛かってきたように見えたけど……」
襲い掛かってきたことに責める気配もなく聞く。
「えっと魔物と戦ってレベルアップするためだけど……」
トンガリは水色の透明感のある身体をしていた。身体の内側には泡らしきものが見えた。
「あなたって戦えるの?」
「やっぱりスライムが戦うなんて無理かな~~やめとこうかな~~」
俯くトンガリ。
「魔物が魔物と戦おうとするのはどういうことだ?」
ロードがスワンの耳元でささやく。
「今から聞くから」
「そうか」
「どうして戦おうと思ったの? デフォルメスライムってフツーみんな戦わないでしょ?」
スワンが切り込む。
「う~~~~~~」
唸なるトンガリはとける。
「?」
言う言わまいか迷ってるトンガリを見てきょとんとするスワン。
「その……オレ、魔王になるのが夢なんだよね~~」
その答えを聞いた瞬間――
「――――止めて!!」
スワンは叫んだ。
「――――!!」
剣を抜いたロードはハズレとグラスに行動を止められた。
「ひぃ~~~~剣!!」
トンガリは驚く。
「何で止める魔王だぞ! もうあの魔王だぞ! 有害確定じゃないか!」
取り押さえられたロードが言う。
「待て待て、よく見ろ、これだぞ? これが言ってるんだぞ?」
ハズレがさとす。
「ごめんなさい、さっきはオレが悪かったよ~~」
トンガリは涙目になっていた。
「お、落ち着いて何もしないから」
「……………………」
珍しく冷や汗をかき、口角を下げるロード。
「スワンもっと話を……」
ハズレが促す。
「うん、トンガリどうして魔王になりたいの?」
「えっ? 皆の憧れじゃないか……」
「魔王になって何をするつもり?」
「う~~ん、そうだなぁ~~、魔王になったら、いい世界を作りたいな~~」
「「「――――」」」
ロード、ハズレ、スワンはどういうことか疑問を持った。
「それはーーやっぱり全てを支配して逆らうものを殺し尽くすとか? 極悪最強のスライムになるとか?」
「そんなわけないだろ、何そのヤバい奴、全然いい世界じゃないし、そんなのになりたくない。魔王はオレたち魔物の王だぞ強くてかっこいい皆の憧れ……皆を守って、皆の幸せを考えるんだ。先代の魔王カンムリ様はそういう方だったぞ」
トンガリが意思を主張する。
◆ ◆ ◆ ◆
ただの丘の上。
話しを終えたスワンが皆と相談していた。
「取りあえず危険はなさそうなんだけど……分かってくれた?」
スワンが訊く。
「色々可笑しなことを言っていたが、俺たちの知ってる魔王とアレの知ってる魔王が全然違うみたいだ。世界が変わると魔王の定義も変わるらしい」
ハズレがドルフィーナを観察するトンガリを見て言う。
「ようは何だ? いい奴になりてーって言ってんのか?」
グラスが簡単に言った。
「そうだ」
「ダメだやはり魔物だから納得いかない」
ロードが主張する。
「大丈夫、何年かけても私が納得させるから……」
スワンが言う。
「うわ~~~~助けてスワン!!」
トンガリがスワンの足元まで走って来た。
「ど、どうしたのトンガリ?」
「食べられる……アイツに食べられる!!」
「アイツってドルちゃんの事?」
「舐められたオレ食べられる!?」
「大丈夫……友達になりたいからそうしたんだと思う」
「本当か? 味見じゃなかったのか? あーー怖かった」
「けどお前ら変わってる、皆背が高い。スライムに見えないぞ……」
4人を見てそう言うトンガリ。
「私たちはスライムじゃなくて人間って言う」
「にんげん? えっ!! 人間!! ヒューマン!! ヒューマンなのか!! 嘘だ~~いる訳ないだろそんなの……?」
「あのさー人間見たことないのか?」
ハズレが訊いていた。
「誰お前」
逆に問い返される。
「あーーハズレだ」
「見たことないよ、って言うかアレは空想上の生き物だろ……たまに見たって言う人は居るらしいけど、誰も証明できない。でも言われてみればお前らヒューマンって感じの見た目なのかな? おとぎ話の格好と一致するし」
「空想上……」
ロードが呟く。
「人間という種がいない異世界なのかしれないな」
ハズレが答える。
「本当に人間?」
トンガリが尋ねて来た。
「ん?」
「ああ」
ハズレが答える。
「これも人間?」
「ああ」
グラスが答える。
「スワンも人間?」
「うん」
スワンは喜んで頷いたが、
「ぎゃああああああああああああああああ!! 人間だあああああ!!」
「何だいきなり……」
突然叫ぶトンガリに肩を落とすとハズレ。
「トンガリ? どうしたの!?」
スワンが突然の変貌に驚愕する。
「に、人間だぁ~~!! 殺される~~!! 誰かーー助けてーー動けないよーー!!」
「どうしよう」
スワンが困る。
その時ロードが動き出した。
「お、おいロード」
ハズレが声を掛ける。
「ぎゃああああ、こっちくんな! こっちこないでーー!!」
「どうして、オレたち人間がお前を殺そうとすると思う?」
ロードが尋ねる。
「だ、だってオレスライムじゃん! 人間はスライムを皆殺しにするんだろ! 絵本で読んだぞ! さっき剣を抜いたのもそうだったんだ!」
近づいてくる人間に対して焦るトンガリ。
「お前何か悪いことしたか?」
ロードはしゃがんでトンガリに尋ねた。
「た、玉遊びしてたら窓ガラス割ったとか、食べ物の好き嫌いしたときか、ご、ごめんなさーい、た、たすけてーー」
泣きながら助けを求めるトンガリだった。そんなスライムにロードは手を置いた。
「大丈夫だ。お前は殺されない。もしそんな人間がいたらオレがお前を助ける」
「本当か? 助けてくれる?」
「ああ、必ず助ける」
「うーー」
「さっきは済まなかった。もうお前に剣は向けない。だから泣かなくていい」
「そっか、人間にもいい奴はいるんだな~~、ところでお前誰?」
「名はロードだ」
ロードはデフォルメスライムを撫でていた。そして抱きかかえて立ち上がる。
「もう納得した?」
「ああ、オレが倒すのは人を苦しめる魔物だ。人を見て苦しむ魔物じゃない。こいつはオレが守るべき命だ」
「よかった……」
スワンが安堵した。
「こいつ、いつもこんなのなのか?」
グラスがハズレに問う。
「ロードは本来倒す側じゃなくて助ける側だからな……」
答えるハズレ。
「怖い思いをさせたお詫びに住みかまで送ろう。どこに住んでる」
ロードが提案する。
「えっ? オレはまだ帰れないぞ? ホルンの角を取りに行ってないんだから」
「ホルンの角?」
「この先の山に生息してる魔物だよ。オレはそれを取りにここまで来たんだからな」
「魔物の角? お前では危険だ……」
「うーー分かってるけど、取りに行かないとレベルアップできないよ~~」
トンガリのボヤキに対し、ロードは後ろを振り返った。
スワンたちは文句なさそうだった。
「分かった。オレたちも行こう」
ロードはトンガリにそう提案した。そしてトンガリはロードから飛び降りた。
「ケケケ山を甘く見るなよ! 一歩間違えれば死ぬんだからな! 行くならそれなりの覚悟とオレの言うことをちゃんと聞くんだぞ! いいな!」
「分かった指示に従おう」
皆を代表してロードが了解する。
「よしついて来い」
ピョンピョン跳ねながら進んで行くトンガリ。
「何なんだアレはさっきから」
グラスが言う。
「随分感情の起伏が凄い」
スワンが言う。
「あんな魔物今まで見たことないな……」
ハズレが言う。
「行こう」
ロードが歩き出すと他の皆がついて行く。
目指すはホルンという魔物が居るケケケ山。




