第362話 スライムエンカウント
ロードたちの目の前に来た魔物は一匹のスライムだった。
(いやいや、魔物は魔物だ)
「斬る」
ロードは現れたスライムに向かって走り出した。
「えっ!? えっ!? えっ!? ええ!?」
突然走り出して来るロードに驚くスライム。
「倒さないで――――!!」
その時スワンが叫んだ。
ロードが鞘から抜いた竜封じの剣を振りきる前、スライムに触れるギリギリのところでピタリと止まった。
「へっ?」
スライムは何が起きたか分かっていなかった。だが――――
「何何何何何何何何!!」
後ずさって茂みに隠れるスライム。
スワンがロードの横に並んで茂みに隠れたスライムを観察する。
「どうしたスワン?」
「……………………」
スワン一緒に見るとソーーーーっとこちらを覗き込むスライムがいた。
「何だ魔物じゃなかったのか?」
ハズレが訊いてくる。
「いや魔物だ……」
ロードが答える。
「倒さねーのか?」
グラスが言う。
「いや、スワンが止めてきて――」
ロードが二人と話し込んでいると、
「アレ、デフォルメスライムじゃない?」
スワンが答えを言った。
「何だい? そのデフォルメ……?」
ハズレが問いかけてくる。
「やっぱりスライムなのか?」
「そう」
「魔物大図鑑で読んだがスライムって言うのは形が崩れていてぬめぬめしているって」
ハズレが心に思い出しながら言う。
「オレは絵本で読んだ可愛いスライムを連想したが……」
ロードが愛読書を思い出す。
「たぶんハズレが言ってるのはリアルスライムのことだと思う」
答えを知ってるスワンが言う。
「リアル?」
「フツーの気持ち悪い奴」
「デフォルメスライムは違う。見た目が可愛くて、人に人気があるし、何より魔物なのに人には全くの無害だって聞く。他の異世界なんかには愛好家なんかがいて一緒に暮らしたり、専用の育成場所を作ってたりする」
スワンが説明する。
「魔物と同居って変わった異世界もあるもんだ」
ハズレが感想を言う。
「本当に無害なのか?」
ロードが確認する。
「無害、精霊の世界でもそう、私も見たことがある。魔物無害認定を受けたデフォルメスライムは私たちの隣人としてむしろ保護してあげないとならないって言われてる」
スワンの説明を聞いてロードは剣を鞘に納めた。
「止めてくれてありがとうスワン、危うく無害な命を斬ってしまうところだった」
「うん、私も知っていてよかった」
ホッと一息つくスワン。
タンタンとステップ音が聞こえてくる。それはスライムがとび跳ねて着地したときの音だった。そしてスライムはロードたちの前に現れた。
「よーし勝負だぁ!!」
スライムがロードに向かって勝負を宣言した。
「――!!」
ロードが驚く。
「…………」
ハズレが発言内容を分析する。
「え?」
スワンは聞き間違いだと思った。
「倒すぞーー、倒してレベルアップしてやるぞーー」
スライムは堂々と道端で宣言した。
「スワン倒すぞって言ってるけど……」
ハズレがツッコむ。
「無害じゃないのか?」
ロードが確認する。
「あ、あれ?」
スワンが困惑した。
「くらえーーひっさーーつ!!」
スライムが突撃して来る。
「間違えたのか倒すぞ……!」
ロードが剣の柄を掴む。
「やめてやめて、間違えていないはず」
スワンがロードの魔物退治の表情を見て焦る。
「体当たり!!」
ロードに向かって突撃するスライム。
「うげっ!!」
バシンと水風船が当たるようなポヨンと音がした。スライムがロードに突撃したのだ。しかし――
「うあああ!!」
ポムンと跳ね返るスライム。体当たりを受けたロードは全くの無傷だった。
「「「弱……」」」
そのスライムに対して誰しもが思った。
「う~~~~」
起き上がろうとするスライム。
「なるほどこれは無害だ」
ハズレが納得した。
「な、何がしたかったんだろう」
スワンが不思議がる。
「う~~~~やっぱりオレには~~う~~~~」
ロードたちに背中を見せ、いじけるスライム。
「おいスライム一体お前は何なんだ? 有害なのか? 無害なのか?」
ロードが一歩歩み寄る。
「えっ、今喋った? オ、オ、オマエ、魔物なのに喋れるのか?」
驚くスライム。
「(近くで見るとますます可愛い、けど魔物は魔物)スワン……侮辱された有害かもしれない」
「ちょ、ちょっと待ってこの子何か言った?」
スワンがロードに駆け寄る。
「オレが魔物だって――」
「分かった、私が話をする。ロードは口出ししないで」
スワンが一歩前へ出る。
「斬るべきだと思ったらすぐに言ってくれ」
ロードが言い捨てる。
「少し話を聞いてほしいんだけど」
スワンがスライムの前にしゃがみ込み話をし始める。
「話し? い、いいけど、何で魔物が喋ってるの?」
スライムが訊く。
「魔物じゃないんだ」
「そうなんだ、ごめんな魔物だと思って攻撃しちゃって……」
「ああ、うん、あなたこそ怪我はない?」
「うん、大丈夫」
「私の名前はスワン……あなたはデフォルメスライムであってる?」
「えっ、見ればわかるだろシンプル族だよ、オレの名前はトンガリって言うんだ」
それがロードたちとトンガリの出会いだった。




