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第360話 旅に出る一匹のスライム

スライム編始動します!

 そこはスライム達の住む異世界だった。

 広々とした空き地で数匹のスライム達が玉遊びをしていた。

 その姿はまるで水まんじゅうのようだった。


「いったぞ~~~~トンガリ~~!」


 玉に体当たりして飛ばしたニット帽を被ったスライムがいた。


「よ~~~~し! 飛ばすぞ! 挑戦してレベルアップだ!」


 向かってくる玉に奮い立つトンガリ帽子を被ったスライムが言う。しかし、飛んできた玉に体当たりをしようとしたのだったが、その身体は玉には当たらず、トンガリと呼ばれるスライムは空ぶった。


「オイオイ! トンガリ~~また外したぞ~~」


 帽子を逆に被ったスライムがやれやれぎみに言う。


「あ、あ~~またレベルアップできなかった~~」


 あらぬ方向へ飛んで行った玉を拾いに行くトンガリ。


「運動音痴にもほどがあるだろ~~」


 ニット帽を被ったスライムが言う。



 ▼ ▼ ▼



 そして日は落ちて遊んでいたスライム達が集まってくる。合計5匹いた。


「じゃあまた明日遊ぼうな~~」


 ニット帽を被ったスライムが言う。


「ごめん、オレとうぶんは遊べない」


 トンガリと呼ばれるスライムが切り出す。


「なんでだよ」


 帽子を前後ろ逆に被ったスライムが訊く。


「魔王祭に出るためにホルンの角を取りに旅に出るんだ」


 トンガリが堂々と言い放った。


「「「……………………」」」


 呆気にとられたスライム達。数秒経って、


「「「ははははははははははは」」」


 スライム達はトンガリの言った言葉に笑いを漏らした。


「お前が魔王祭だって?」


 デカい帽子を被ったスライムが言った。


「レベル1のくせにホルンの角が取れるかよ」


 ニット帽を被ったスライムがあざ笑う。


「魔王祭にレベルは関係ない、出場資格さえあれば誰だって出られるんだ」


 トンガリが弱さを否定したいがために言う。


「まぁ頑張れよ、くくく、じゃあな」


 角のついた帽子を被ったスライムが帰路についた。


「おう、応援してるぜ、くくく」


 笑いをこらえるニット帽のスライムだった。


 スライム達はそれぞれ自分の家に帰るためその場を後にした。


「何も、笑わなくったって……」


 涙ぐみそうになるトンガリだった。身体を前のめりにして落ち込むトンガリだったが、友達が皆帰ったことで、自分も家に帰るのだった。



 ◆ ◆ ◆ ◆



 次の日の朝。

 トンガリの家・玄関前。

 トンガリは荷物を風呂敷に包み木の棒にくくりつけた。中には色様々な雑草やお花が入っていた。それはスライムにとっての食糧だった。

 旅支度を済んだトンガリは両親に見送られようとしていた。


「魔王祭が終わるまで帰って来ないんだって? 大丈夫かね~~」


 トンガリのママが言う。


「レベル1だし無理することないぞ……」


 心配そうにパパスライムが言う。


「いや、オレは魔王になって帰ってくる。そして皆を見返してやるのさ。オレはやればできるスライムだってね」


 トンガリは堂々と宣言した。


「そう、くれぐれも気を付けて行っといで……」


 ママスライムが旅立つスライムの身を案じる。


「危ないと思ったらすぐに帰ってくるんだぞ」


 パパスライムが旅立つスライムを心配する。


「大丈夫、大丈夫、それじゃあ行ってきます」


「「いってらっしゃい」」


 スライム一家が別れる。一方は旅路の第一歩目を、もう一方は無事に帰ってくるのを願いながら、別れていく。


 両親スライムがトンガリを見送ってその姿が見えなくなると、


「きっと立派になって帰ってきますよ」


 ママスライムが言う。


「そ、そうかな~~オレに似て臆病なところがあるからな~~」


 パパスライムが歯切れ悪く言う。


 取りあえず両親スライムは、トンガリの見送りも済ませたので家の中へ入って行った。



 ◆ ◆ ◆ ◆



 村から外れた一本道。

 一匹のスライムが旅に出た。その名をトンガリという。その名に似合う小さなトンガリ帽子を頭に被り、木の棒にくくった荷物を粘着性の身体に張り付ける。


「よく考えたらオレ、村の外へ出たことないや……」


 一人になった途端、不安になるトンガリ、旅の最先は不安である。


 しかし、この時このスライムが待ち受ける冒険は、決して生易しいモノではなかった。

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