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第358話 正しく育てて見せます

 タチクサの町。

 魔王フリフライを破ってから数日後。

 エミさんと子供たちは苗を植えた畑に居た。


「エミねぇーーちゃーーん」


 ドタが客人を引き連れて叫んでいた。


 客人とはロード、ハズレ、スワン、スワリオ、マテヨ、オテダシ、フセル、フリスビのことだった。

 荷船を牽くドルフィーナもいる。


「あっ、おねーちゃん、こんにちわ」


 カチューシャの子供が言う。


「こんにちは、私のこと覚えてる?」


 スワンが挨拶する。


「覚えてるよ、キレイ」


 ぬいぐるみを抱く少女が言う。


「ありがと……」


「よし勝負するぞ」


「ダメダメ10年経ってないじゃないか、相手にもならない」


 子供たちを軽くあしらうハズレ。


「何をーー勝負しろーー一発入れてやる」


「ロードさん、それに皆さんも!!」


 思わぬ再会に喜ぶエミさん。


「エミさん……久しぶりだ……スワリオだ……覚えているか?」


「も、もちろんです。スワリオさん、マテヨちゃん、オテダシさん、フセルさん、フリスビくん」


「本物だ、本物のエミだ……会いたかったぞ」


 エミを抱きしめるマテヨ。


「マテヨちゃん変わらないね」


 抱きしめに抱きしめで返すエミ。


「ロードさん、バッチはお役に立ったようですね」


「ああ、ありがとう。これは返すよ」


 エミに錆びたバッチを返すロード。


「差し上げたつもりだったのにわざわざすいません」


「ねーちゃん」


 子供が大勢の大人を前に怯える。


「大丈夫よ。この人たちは私の友達だから何もしないよ」


 エミさんなだめる。


「そう言えばリョウさんは元気ですか?」


「「「……………………」」」


 静かになる盗賊たち。


「エミさん、落ち着いて聞いてくれ、リョウは――」


 スワリオが語る。


 その答えにエミは両手で口を覆い、一滴の涙を落とし、腰を下ろして泣いていた。


「オイ! 何エミねーちゃん泣かしてんだ!」


 ドタが言う。


「悪い奴だな……やっつけてやるぞ!」


 レジが言う。


「う~~~~、う~~で、出てけ」


 ミノが言う。


「……………………」


 スワリオたちは動かない。


「やめて皆違うの……ちょっと悲しいことがあっただけだから……」


「ねーちゃん」「おねーちゃん、どうしたの?」「泣かないで」


 子供たちがあやす。


「ごめんね不安にさせちゃって……もう大丈夫だから」


 エミさんが立ち上がった。


「エミさん、魔王は倒してきた」


 ロードが口にする。


「本当ですか……ならもう安心ですね。ありがとうございます」


 ぐすんと鼻をすすり、涙を手の甲で拭うエミさん。


「エミさんこれは?」


 スワンが畑を見て訊く。


「ああ、それは畑です。種があったので……バラバラなんですけど、育て方の本を読んで皆で育てているんです」


 畑からはいくつか芽が出ていた。


「ロード、ここに来て正解だったみたいだな」


「ああ」


「ここに何か?」


 エミさんが尋ねてくる。


「エミさんこれを……」


 ロードがエミさんの手のひらに零したのは星形の豆ホープスターだった。


「豆、ですか?」


「それはホープスターと言ってこの世界の希望なんだ」


「希望?」


「それを一つ食べれば心と身体に元気が満ち、人間の持つ欲望を希望へと変換する作用があるらしい」


 ハズレが説明する。


「皆に食べさせれば、いずれこの世界を救ってくれるはずだ」


 ロードが断言した。


「なんだか凄そうな話ですけどこれを私はどうすれば……」


 エミさんが訊く。


「残念ながらそれはこの世界に一つきりしかないんだ」


 ハズレが言う。


「えっ! それは貴重ですね」


「だから、それを起点に植えて育てれば数年後には数千、数万と増えていき、この世界の人たちにも行き渡るはずだ……これにその育て方を書いて貰った本があるから……えっと字は読めるか? エミたちにこの希望を託したい」


 しらべ隊が書いてくれた本を差し出す。


「そ、そんなこの世界の希望だなんて、そんな大役私には……失敗したら取り返しがつかないですよ! もっと別の人とか……」


 取り乱すエミさん。


「いや、エミさんに頼みたい」


 ロードが言う。


「どうして……」


「子供たちと一緒だ。正しく育ててくれる。それにここには必要だろ……自分たちのやっていることが、この世界にとって正しいんだと思える行いが、生きる為に希望を信じる何か、それをその手助けにして欲しい」


 ロードは再び本を差し出す。


「分かりましたロードさん。この子たちと一緒に、正しく希望を育てて見せます」


「託したぞエミさん」


 ロードの言いたいことは終わった。


「エミさんどうだ? フォックスグリードで暮らさないか? ここより安全だ」


 スワリオが提案する。


「ああ、俺たち町を作ったんだ」


 オテダシが言う。


「色々揃ってるっス」


 フリスビが言う。


「絶対楽しいぜ」


 フセルが言う。


「有難い申し出ですけど、お気持ちだけで結構です。何もなかったここから私たちは始めたいんです」


 エミさんが断る。


「そうか……ならこいつらを使ってやってくれ、きっと役に立つ」


 スワリオが親指で後ろを差す。


「頼むエミ」


 マテヨが言う。


「盗賊や魔物が来るかもしれねーからな、俺たちがやっつけてやる」


 フセルが言う。


「ああ、ここにいる間はエミさんのやり方に従うぜ」


 オテダシが言う。


「役に立てると思うっス」


 フリスビが言う。


「いらねーよ」「そうだそうだ! 悪い奴だろ」


 子供たちが言う。


「ダメよ、好意に対してそんなふうに言っては、悪い人たちなら私たちでいい人にしましょう」


 エミが子供たちをなだめる。


「うーーーー」「わかったよ」


「ではこれからよろしくお願いします。マテヨちゃん、フセルさん、オテダシさん、フリスビくん」


 エミさんは4人を歓迎した。

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