第354話 葉っぱたちの感謝
木の家の中。
集まった、ロード、ハズレ、グラス、ガシラ、アマノだった。
「もう時間はない。貰った生命力が無くなれば、オレはまたゴスベージャスの道具だ」
アマノがさらりと言う。
「だったらもう一度生命力を渡せばいい」
ロードが一歩前に出る。
「それはやめといた方がいい。この呪いが本当に生きてるうちにも発動しないとは限らない。眠っただけ、気絶しただけで、発動しかねないかもな……それに一度死んだせいか、オレの身体は少しおかしい。またいつ発動してもおかしくない」
首のカメレオンの呪印を指差しながらアマノが言う。
「どうにもならないのか?」
ロードが納得できないような表情で言う。
「気持ちだけ取っとくぜ……」
アマノは穏やかに言う。
「……………………」
黙り込むロード。その肩に手を置くハズレ。
「そうだ、名前、まだ聞いてなかったな」
「ロードだ」
「ロードか優しい奴だな。お前で……よかった、気に病むことはないぜ、ずっとこんなところで夢見て退屈だった。友人も、恋人も、皆先に逝っちまった世界だ。むしろ……今から会いに行けるような気がする。オレを待ってくれているような、そんな気がするだからいいんだ」
アマノはそう言って会話を打ち切った。
◆ ◆ ◆ ◆
希望のダンジョン・最奥・木の家の前。
皆で木の家の周りに葉っぱを敷き詰めた。
「皆下がってくれ、準備が終わった」
ハズレが促す。
「うむ」
ガシラ先生が了解する。
「生きる伝説が終わるときですか」
ヂカラが覚悟を決める。
「さっき握手してもらった」
モトが手を大切にしている。
「ハズレこの人も一緒に……」
ロードが担いできたのはドリドリム団の頭テンロウだった。口から血を流し安らかに眠っている。
◆ ◆ ◆ ◆
木の家の前にテンロウの遺体を安置して、葉っぱを被せていった。遺体が見えなくなるくらい葉っぱが掛かったところでことを終える。
「じゃ……点火するぞ」
ハズレがマッチ棒を擦る。火がついて葉っぱの上に落とす。シュボッと葉っぱが燃えていく。
「下がれ枯れ葉だからすぐに広がる」
ハズレが言う。ロードたちの集めた葉っぱは生命力を失った枯れ葉だった。
「ああ」
ロードが名残惜しそうに下がる。
ゴオォーーーーーーと木の家の周りにある葉っぱが燃えていく。
メラメラと揺らぐ炎がテンロウの遺体を燃やしていく。
グラスは離れた場所にあった木に背を預け燃えていく家を見ていた。
◆ ◆ ◆ ◆
木の家の中。
メラメラとした炎がアマノの足元までやって来る。
この時、
(何だろうな……この安心感……暖かい、暖かいなーー)
(あーーーー思い出す奴隷になる前……こんな小さな家で過ごした時の事……少しだけのこと)
(確かあんな顔だったかなオレの親)
(クサナギ、アイツも連れてこればよかったかな……)
(蹴り倒して悪かったなーー向こうで謝ろう。きっと許してくれる)
(カワノ……長い間、一人にさせちまったか、泣かせちまったか)
(それともオレのことは忘れたか、オレはずっと憶えてる。ずっと変わらず)
(不思議だ幸せそうなお前が見えるよ)
(子供を抱いてるお前が……)
アマノの背後はもう燃えていた。
(ホープスターでも食っちまったのか? そんなわけないよな、ちゃんと託したよな、ロード)
(オレは手にしたんだ。ずっと欲しかった希望の星)
いつの日か見た一番星を思い出す。
(世界の皆の希望……これから、きっと変わっていくんだ)
(オレは届いたんだ)
(ハハ、ハハハ、ハハハハ)
アマノは燃えていた。
(見たか、強欲王ゴスベージャス、オレは世界を奪い取ったぞ)
(取ったぞ)
燃えていく中眠りにつくように意識を失っていった。
◆ ◆ ◆ ◆
希望のダンジョン・最奥。
ロードたちは全焼する木の家を見ていた。
そして異変が起きた。フワッと地面に敷き詰められた木の葉が舞い上がったのだ。さらにロードたちも浮いていく。
「――――!!」
「何だ!!」
ハズレが驚く。
「葉っぱが浮いていきます」
ヂカラが言う。
「私たちも浮いてます」
モトがフワリと浮いていたので言う。
「――――!!」
グラスの背にしていた一本の木も葉っぱになって舞いあがっていく。
「希望の宝は託された……もう、このダンジョンは必要ない!! 役目を果たした葉っぱたちが地上へ戻ろうとしているのだ!!」
ガシラ先生が説明する。
「地上に?」
ロードが訊く。
「ご親切にこれで帰れるって訳か……」
ハズレの口角が吊り上がる。
バササササササササササササササササササササっとダンジョンの最奥が葉っぱに戻って舞い上がっていく。
トロイアのいた場所も、木で作られた町も、ドリドリム団の幹部たちが死んでいた場所も、池と木彫りの人形がいた場所も、全てが葉っぱに戻って舞い上がっていく。
その時、ロードは確かに聞いた。
『アマノを助けてくれてありがとう』
それは葉音が作りだした幻聴だったかもしれない。しかしロードは忘れていなかった。この声は、
(もしかしてここに来る前の助けの声は……葉っぱたちか)
ゾアーーーーーーーーッとどこまでもどこまでも舞い上がっていくロードたちだった。




