第340話 生きてていいんだ
希望のダンジョン・最奥。
グラスは魔王フリフライによって宝のありかまで連れてこられた。
大樹の中には一軒の木の家と一本の木、そして家の前の切り株には宝箱が鎮座していた。
「人間とは愚かだ。いかなる希望を残そうと、誰も手の届かんところにおいては意味がない。そしてこの魔王フリフライの手に届かない物はない」
フリフライ、羽毛のような服装に両手は翼の形をした袖の手、襟元が大きく開き、羽根飾りの耳に、炎の様に逆立つ広い髪に赤い髪が混じる。そして鉄のマスクを口元に着けたいた。
「働いたなグラス、全人類の希望……お前の我欲のおかげで奪ったぞ。お前はもう自由だ」
「で、取り引き成立だな?」
フリフライと共に目の前の宝箱を見るグラス。
「解放しよう、だが、お前が取らせた今回の手間と損失、どれぐらいだと思っている? 全ては誰が原因でこうなった」
「――――!?」
ズガッと翼の裾から出る本物の翼に腹を射抜かれたグラス。
「奪ったな、この魔王の物を許さん」
血反吐を吐くグラス。にらみつける魔王フリフライ。
「命を置いて自由になれ」
突き刺した翼を上に掲げる。グラスの足は宙を浮いていた。
「くっ……」
グラスは口角を吊り上げた。
その時――
「グラス来たぞ!!」
ロードが現れた。そして現状を確認したロードが愕然とする。
「オレの勝ちだ。ざまぁみろ、かかしやろーー」
笑いながらロードの姿を最後に目に焼き付けた。
ロードはすぐさま魔王フリフライに向かって走り出す。腰に提げた青い剣に手を掛ける。そして抜剣する。
フリフライはグラスを刺してない左の翼で、ガキンと甲高い音を鳴らせロードを弾き飛ばした。
フリフライは刺していたグラスを捨てた。そして首を傾げる。
「ボクネンジンはどうした?」
フリフライが訊くが、ロードは倒れたグラスの方へと急ぎ足で向かう。
「オレの前で自由に動くな」
ギロリとロードをにらみつける。
右の袖を振ることでロードを木の壁まで飛ばす。
「がはっ!!」
壁に激突したときロードは肺から息を吐きだした。だが目は倒れるグラスを見ている。
「ミチル!!」
精霊の名を叫び飛ぶ斬撃でフリフライに攻撃する。しかし右袖を振りきったフリフライは今度は、左袖をバサッと振ることで突風を生み、斬撃諸共ロードを飛ばす。
「――ぐっ」
倒れるロード。
「低いな意識が……」
更に袖を振り、ロードを壁にぶつける突風を生み出す。
「がはっ!!」
ロードが再び壁に激突する。
「その程度ではこれには届かないな。所詮、翼もない不自由のくさびを持つ者たちだ」
宝箱に振り返り言うフリフライ。
「グラス……」
二本の剣を構えたロードが立ち上がる。
グラスは意識を失っていた。
「オレは届く、自由に届く、全てに……」
フリフライがその手を宝箱に近づける。その時――
まったく予想だにもしなかった、一軒の木の家から木の葉が舞い込んできた。フリフライを襲っているようだった。
「――――!! この葉は何だ!!」
バサッと両腕を広げるフリフライ。
「――――!!」
家の中から緑色の服装をした人の姿が現れた。その人の顔には謎の紋様が彩られていた。
「何者だ。いつからここに居た……」
フリフライが緑色の襲撃者に訊く。しかし何も答えない。
「誰か知らないが早くグラスを――」
ロードが隙を伺う。
緑色の襲撃者は袖口から葉っぱの剣をシャキンと出現させた。そして語り出す。
「ゴスベージャス大王の宝に近づく者を確認……これより排除を行います」
緑色の襲撃者がフリフライを襲うが、フリフライは飛んで攻撃を躱す。
「届くまい。オレの独壇場だ」
空に舞い木の葉を散らし、上から見下ろすフリフライ。
攻撃が当たらなかった緑色の襲撃者はバサッと木の葉を自分の周囲に集める。そして数百枚の木の葉が緑色の襲撃者の翼となり、フリフライより高く飛び上がった。
「その力、先に宝に届いたか……お前、命を落とせ」
緑色の襲撃者とフリフライは空高く飛んで行った。
ガキン!! ガキン!! と上空で武器と武器のぶつかり合う音をロードは聞いた。
「グラス!!」
即座にグラスの元へ駆け寄るロード。
(まだ息はある。まず鍵だ)
ガチャガチャッと腕の拘束器具を外していく。
そしてグルグルと包帯を傷口に巻き止血する。
(止血の次……オレの生命力を注ぐ)
包帯の上からじわっと血がにじむカ所に生命力を送り込み治療する。
(とにかく、グラスの命を繋ぐ。魔王と戦えなくなるかもしれないが、言ってる場合じゃない)
(オレはグラスを救いに来た)
(勝負に負けてもいい、お前が正しくてもいい)
(だから死ぬ必要なんかない。生きてていいんだ)
ロードはグラスの命が助かるよう祈りながら治療する。




