第338話 恐るべき攻撃、木づくり村
希望のダンジョン・木で作られた町。
ワーーーー、ギャーーーーと盗賊たちと魔物たちが叫び殺し合っている。
その中でハズレは、眷属使魔ボクネンジンを相手にしていた。
「木づくり矢!!」
シュガガガガガガガガガガガッと無数の矢が連射され、逃げまどうハズレを追う。
ハズレは地面を走り、屋根に飛び乗って走り続ける。その後を追うように木の枝のような矢が刺さっていく。
ハズレは屋根から飛び降りると、走る進行方向に木の矢が刺さっていく。ボクネンジンに行動を先読みされたのだ。ハズレの動きが止まる。
「そこだぁ!! 木づくり槍!!」
ズオッと木の腕から突き出る槍がハズレに向かう。
振り返るハズレはギンッとした目で槍を見据え身体の上半身を反らして避けていく。
この時、
(目を逸らさずに見る)
ハズレは迫りくる槍を見切った。
「当たあらん!!」
ボクネンジンは槍を突き出し続けるがその行動がまずかった。木の槍はダンジョンの罠である木の家の扉を突き破った。そして中から触手が伸び、木づくり槍を絡み取っていく。
「――――むっ!!」
家の罠に気づいたボクネンジンは槍を絡まれ動けないでいた。そこをハズレは隙と読みついた。
「炭か、家か、好きな方になれ!」
ハズレが炎の剣を持ってボクネンジンに迫る。
「木づくり槌!!」
違う腕から丸太を出現させるボクネンジン。それは向かってくるハズレを攻撃するために出したのではなく――
自分の突き出した槍の根元を叩きおるために出したハンマーだった。
ベキッと槍と繋がっていた腕をハンマーの攻撃によって叩き折る。
叩き折った槍の方はズルズルと家の中に吸い込まれ。ハズレの炎の剣の攻撃はさらに上空へと飛ぶことで剣の一振りを躱す。
「どっちにもならん!!」
ハズレは空中で身動きが取れない。底をつくかのように、
「ふん!!」
ボクネンジンは左腕のハンマーでハズレを叩きつけた。しかしハズレは利き腕である右腕を左腕でガードした。
「うっ、あぐっ!!」
ハンマーの強烈な一撃により、ハズレは木の屋根に激突し、そのまま地面へ落ち、転がっていく。
この時、
(利き手にも当たらんか)
(これでは消費物程の価値しかない人間とは思えん)
ボクネンジンは思っていた。
「いっ」
ハズレは剣を持った右手で左腕を抑える。
「危険は容赦せん!!」
木の家の屋根に着地したボクネンジンは4本の腕をハズレに向けた。
この時、
(何か来る!)
ハズレは直感した。
「木づくり村!!」
4本の腕から細長い枝が飛び出してきた。それは幾重にも枝分かれし、ハズレに向かって行く。
ズガガガガガガガッと地面時の家に突き刺さる木の枝。ハズレはボクネンジンから逃げるように走って行って回避する。
この時、
(枝!? 伸びる速度が速い)
(奴から隠れれば……)
そう思い木の家の影に隠れるハズレ。
しかし、ピシシシシッと家の壁面が音を立ててハズレは気づく。
「――――!! なっ!?」
何とボクネンジンの枝は木の家を貫通して伸びて来たのだった。
この時、
(家の中を刺し進んで来ただと――)
ハズレは驚いた。
そして、
「うわぁーーーー」「ボ、ボクネンジン様ーー」「お、おやめくださいーー」
魔物たちにも無差別に木の枝が突き刺さって行った。
この時、
(無差別か……)
ハズレは木の枝に刺さって霧散化していく魔物たちを見た。
ズガガガガッと木の家を貫通して来る枝。ハズレは屋根の上を走って逃げていた。
(屋根まで広がるのか、というかいつまで伸びるんだ。終わらないぞ、アイツからは極力離れるわけには)
その時ハズレは背後を見た。枝は広範囲かつ天井にまで届くほど膨大に魔物や盗賊たちを貫いていた。魔物たちと盗賊たちの断末魔が聞こえる。
▼ ▼ ▼
「――――! うごっ!?」
木の枝に貫かれるドリドリム団の幹部シリウス。
「おのれ……」
それだけ言って身体の数十カ所を貫かれ死亡した。
ズゾゾゾゾゾゾゾゾゾっと木づくり村が枝分かれしながら伸びていく。魔物たちと盗賊たちはこの攻撃で全滅した。
▼ ▼ ▼
「ぐあっ!!」
逃げていたハズレもとうとう左腕を木の枝に刺される。即座に炎の剣で木の枝を切り落とすが、左足にも刺さり体勢を崩す。
「――うっ!! まずっ!!」
ハズレの眼前まで枝が伸びてきたが、そこでピタリと止まった。
「――!! 止まった?」
この時、
(枝の距離がやっと限界になったのか? 今の内に奴の背後に回り込んで……)
足に刺さった枝と左腕に刺さって枝を抜きながらハズレは考える。
(いや、これは隙だ)
その時、伸びていた枝が戻っていくのが見えた。
(戻っていく)
(奴がこの枝を使用した意味を考えろ)
(あの腕から出したのが槍ではなく枝だ)
(あの魔物が放つ木製の武器)
(それら全てはおそらく、この枝と同じ無尽蔵ではない)
(だとするとあらかじめ奴の質量に含まれる身体の一部と考えられる)
(この枝の限界を見るに、奴の武器として出せる質量はここが限界)
(だとすると本体の重量がこの枝の重量をギリギリ支えられているから今は空を飛べない)
戻っていく枝を見てハズレも走り出した。
(矢のように飛ばさず、向かってくるように仕向けるのは)
(この武器を使いまわすため、失えば奴はそれまでなんだ)
(槍でも同じことは出来るだろうが細く数が多い方が命中の確率は上がる)
(それに広範囲に展開できる)
(万が一オレに当たらずとも、周囲の盗賊もまとめて始末できる)
(仲間の考慮なんて奴らはしないだろう)
(オレに逃げられたとしても、自分からは確実に遠ざけられる)
(だったら奴の考えは、オレを遠ざけ、逃げ道を狭めつつ、追い込んで一気に枝で逃げ道ごと串刺しにすること)
(ならばここは前に出るしかない)
ハズレはボクネンジンの目の前にやって来た。
「――――!?」
予想外の顔をするボクネンジン。
「その技は失敗だ。枝が視界を埋め尽くして、オレが近づいてくることに気づかない」
ハズレが宣言する。
「失敗はキサマだこの枝を押し戻し串刺しとさん」
ザッと伸びていく枝。
「失敗はもう一つある。武器となった枝先は身体の一部ではないから気が付かない」
ハズレが炎の剣を突きつける。
「火薬玉を刺し込んだことに……」
火薬玉の刺さった枝を狙ってハズレが炎を飛ばす。
ドゴーーーーンと大爆発が起きた。
「うっ――!!」
爆風を受けるハズレ。そしてもろに爆発を食らうボクネンジン。
「うあああああああああああああ!! お、の、れ~~」
ボクネンジンが最後の言葉を言う。
「断じて燃料には、薪にはならん。終わらん!! オレはフリフライ様の眷属使魔!! 倒れん!! くじけん!! 討たれん!! 滅ぼされん!! それが親衛隊長……ボク、ネン、ジン」
最後のセリフを吐き出して、翼もなく、腕二本と足一本のボクネンジンが倒れていく。そして霧散化が始まった。
「…………どうにか、やったか」
ハズレは炎の剣を鞘に納める。
この時、
(そういえば周りも静かだ。もう生き残りはいないのか)
(足と手をやられたが急がないと……)
(ロードとグラスを救うんだ)
ハズレなりに急いで歩いていく。
これにて眷属使魔ボクネンジンとの戦いは終わった。




