第325話 スワンVSクウィップ
スワンは大気中の水分を集めて、水のサーフボードを作り出し移動し始めた。
「――水霊の槍」
スワンの手から水の槍がうち放たれる。しかし、どんな仕掛けかクウィップはまたも一瞬でその姿を消した。
その背後にあった木のパイプに貫通する水の槍。
クウィップが移動したのは、またも10メートルほど上の木のパイプの上。
この時、
(また避けられた……)
(皆は逃げられたけど)
(あの魔物が諦めるわけがない)
(ここで倒さないと……)
スワンはサーフボードに乗りながら考えいた。
「あなたはいいの? 逃げなくても……さっきの燃料は後でいくらでも補充が利くのよ」
クウィップが話しかけてくる。
「――――!?」
「でも、あなたみたいなキレイな子はなかなかいないのよ……私に捕まえて欲しいの?」
スワンはクウィップの言葉を無視して、バッバッと水の槍を両手から放った。
フッと消えるクウィップ。水霊の槍はまたも木のパイプを貫通していくだけだった。
「九の蛇!!」
7メートルほど上からクウィップが9本のツタを伸ばしてくる。
「くっ!!」
スワンは9本のツタを躱していくがさすがに数が多かったのか、追尾されたツタに両腕を絡ませる。
「ほら捕まえた……」
ビンと動かないツタ。
「くっ!!」
スワンが引っ張ってもビクともしない。
「今日からあなたは私のサンドバックよ。いい声で鳴いてね」
「水霊の鱗!!」
それはかつてスワンのとっておきの技だった。身体の水分を汗に変え拘束された状態から滑りやすくし、抜け出す技だった。
「あの時の様にはいかない」
スワンがすぐさまフラスコを取り出して、ふたを開け中にある水分を身体にゴクゴクと補給していく。
「私は誰の手にも捕まらない」
この時、
(水分補給は5回分)
(あと4回だけなら抜け出せる)
(その間に決着を付けないと)
スワンはそう考えていた。
「いけない子、そんなに反抗的な態度だと捕らえてしまっては、少しイジメたくなってきてしまうわ。そのキレイな瞳を怯えの色に染めてあげる」
タンと木のパイプの上から飛び降りるクウィップ。
「――――!!」
「――九蛇苦のムチ!!」
乱雑に振るわれた9本のムチが、バシン、バシンと辺りの木のパイプに当たってへこませていく。
スワンは向かってくるクウィップに対して下がっていくことにし、距離を取って水の矢を連射していく。
ベキキと木のパイプをへこませていくムチと、水の矢を難なく回避していくクウィップを見たスワン。
この時、
(あの動き)
(あの力)
(眷属使魔だ)
(絶対)
(水霊の矢が当たる気がしない)
(それにあんな立体的に動かれたら)
(動きの先読みが出来ない)
スワンは冷静に分析した。
クウィップの動きは特殊だった。ムチを木のパイプに絡ませて、ターザンのように前へ進ませるものだった。
「――――!?」
その時、スワンはクウィップの隙を見つけた。
ビシシとスワンの背後にある木のパイプに一本のツタを絡ませたのだ。
この時、
(今なら切れ――)
水霊の剣を出し、9本ある内の1本のムチを切ろうとしたが、
(――違う!!)
とっさの判断で手を引っ込めてムチから離れた。
すると残りの8本のムチが、今さっきスワンがいた場所に全て通り、背後の木のパイプにドドドドドドドドッと突撃した。
「よくできました。おりこうさん」
へこみを入れた木のパイプに降り立つクウィップ。
この時、
(危うくいかにもなエサにつられるところだった)
スワンはこう思った。
「とにかく、もっと水を――!!」
スワンの腕から水の矢が飛び出して、木で出来た貯水タンクを突き破った。
そして大量の水が溢れ出し、水はある形へと変貌していく。
「――水霊の手!」
水の手がクウィップを捕えようとしていた。しかし、クウィップの動きは普通ではない。居たはずの所を伸縮自在のムチで巻き付けた場所に縮むという命令を下して、水の手を避けたのだった。
「いけない子、私たちの水を使うなんて……」
ゴボッと掴んだと思った水の手を華麗にかわす。しかし、
この時、
(水の手に気を取られている今なら)
(見えてない!!)
スワンの一瞬の機転で死角から水の矢を撃ち放った。
クウィップは背後の追ってくる水の手に対処していたから今なら水の矢が当たると思ったのだ。
「いけない子。いたずらなんて」
背後を向いていたはずのクウィップが、突然前を向き水の矢を躱したのだった。
「――――なっ!? (水霊の手を後ろに見ていたのに何で攻撃が避けられたの?)」
スワンは何故、攻撃が当たらなかったか分からないが、思考はそこまで、水に乗って逃げ回るしか生き残る方法はなかった。
この時、
(フフフ、分からないって顔してるわね)
(水の手の水面にあなたの姿が映っていたからよ)
(もちろん攻撃してくる瞬間もね)
(いけない子)
クウィップはそう考えていた。
恐るべき眷属使魔だった。




