第293話 ガキを舐めるな
ロードの蹴りが炸裂した地点にはテンロウの姿はなかった。
「――――!?」
そして土煙に紛れてテンロウが蹴りを繰り出し、ロードはそれを手の枷で防ぐ。
タタタッと後ろからメリケンサックを備えたワーと、大剣を持って来るダイシンの姿があった。
「ぐらああああああ!!」
大剣を右から左へと振り被ったダイシン。その一撃をロードは手の枷で防ぐ。そのままダイシンはタックルをかますが、ロードはこれを避ける
「ワーパワー!!」
避けた先にワーがロードに殴りかかっていく。これをロードはカウンターの蹴りを繰り出して止めようとしたが、
「へっ!」
ワーは殴るのをやめてロードの足を掴み動きを制限する。
そこへ、そり曲がった剣で突き刺しにかかる目つきの悪い男ハイエ。ロードは足を掴まれた状態から身体を起こして避ける。
更に、別の足を使って掴まれた足とフリーの足でワーの腕を挟み込んだ形にすると、力を入れてグキッと音が鳴りワーの腕の骨を折った。
「ぐおっ!!」
この攻撃にワーは足を掴んでいた手を解放せざる負えなかった。
そしてロードはワーとハイエ、両者の頭に蹴りを放つ。
「こいつ~~~~」
ダイシンが言う。
「ガキのくせしてよく動き回る」
蹴りを受けてなお立ち上がるハイエが言う。
「おじさんとも遊んでくれよ」
はだけた服を着るノロシが刀を持ってロードに向かってくる。
ロードは足元にあった剣の柄を蹴り上げて、歯でガッチリとそれを噛むと、ノロシの刀にガキンと音を鳴らせて対抗した。
ガキキキキキキキキキキンと剣と剣がぶつかり合う鉄の音が響く。
「やる口だね~~~~」
ヒューッと口笛を鳴らすノロシ。
「――――!!」
ノロシが剣戟をやめて後ろへ下がった。
そこでロードは気が付いた。盗賊たちが弓矢を持ってロードを狙っているのだ。
「射貫け!!」
シリウスの号令で一斉に弓から矢を放つ盗賊たち。
ロードはタタタッと走り、ガガガッと地面に付き刺さる矢を避けて行く。
「行き先を狙え!!」
シリウスが盗賊団員に指示を出す。そしてロードの正面に矢が射抜かれていくと、ロードは上にジャンプして避ける。
「――――!?」
ロードは目を見開いた。
「宙に足場なし!!」
シリウスが矢を放った。バシュンッと撃ち放ち、宙にいるロードの左足に矢が刺さる。
ズザザザザッと地面を滑るロード。バシュシュシュンッと弓矢が射抜かれる。
ロードは口で加えた剣でガキキキキンと矢を弾いていくが、そのすべては凌ぎきれず、腕に二本の矢が刺さり、肩に足にと次々矢が刺さっていく。
「くっ……」
矢の雨が終わる。
「もう冷めちまったか……テメーの怒りは……」
テンロウを筆頭に盗賊たちが並ぶ。
「……………………」
ロードは痛みに耐えていた。
その時――
「う……」「うあ――」「ぐああ!!」
盗賊たちの後ろの方からうめき声が聞こえて来た。団員たちが誰かに倒されていっていたのだ。
「!」
テンロウが振り返る。
倒した盗賊を足蹴に襲撃者は告げる。
「そいつはオレの獲物だ。横取りすんじゃねーークソオヤジ共」
現れたのは両腕を背中でガッチリ拘束されたグラスだった。
(グラス、何故ここに――)
「ちっ、来たねーネズミが一匹逃げてやがる」
ハイエが舌打ちした。
「アイツもやっちまうか頭!!」
腕が折れたはずなのに元気なワーが訊く。
「殺せ」
テンロウはそれだけ言う。
すると、グラスは足元にあった剣を三本蹴り上げる。
「――死ね!!」
グラスは宙に舞った三本の剣を再び蹴り出すと、剣はまるで円盤のように回転し前へと斬り進んで行く。
テンロウを含めた盗賊たちはそれぞれ避けて行く。そして――
その回転する剣はロードにまで向かって行く。
「――――!!」
口元の剣で回転する剣を弾くロード。
「アイツを狙ったのか?」
シリウスが言う。
「オレたちはどうでもいいってか?」
ノロシが言う。
「ぐおぉっ!!」
グラスは盗賊の一人の顎を蹴り飛ばして前へ進んで行く。
「邪魔だ!!」
タタタタタタタッと走り出すグラスは、ロードへと一直線に向かって行った。
そしてロードの元へ辿り着き、足技を食らわせるが、ロードも足技を使って受け止めていく。
「やめろ!! グラス今は!!」
「テメーは奴らには殺させねーオレが殺す!! ぶっ殺す!!」
(こんなときまで……一途な奴だ)
ロードは笑顔を作り出していた。
「チッ、何笑ってやがる!! かかしがぁ!!」
グラスは渾身の蹴りを食らわしてロードを吹っ飛ばす。
ズザザザザッとロードの身体が地面を滑る。
「――――!!」
ロードは殺気を感じた。倒れ伏せた頭上にはテンロウがいたのだ。
「命は無料だ……」
螺旋拳いわゆるドリルをロードの顔面に叩き込む。が、
テンロウはその顎をグラスに膝蹴りされて、下から吹っ飛ばされて行く。
「ごっ!!」
「オレの獲物に手を出すなつってんだろ」
「このガキがぁ!!」
起き上がったロードがテンロウの腹を蹴る。
「命は手に入れるものではない」
ロードが教えを説く。
「大人を舐めるなガキ共がぁ!!」
両腕の螺旋拳がロードとグラスに襲い掛かる。が、
「「大人が何だ!!」」
ロードとグラスが渾身の蹴りを放ち、テンロウを岩壁まで吹っ飛ばす。
土煙の中、テンロウのサングラスが宙を舞い割れる。
「「ガキも甘く見るな」」
ロードとグラスは同じセリフを言う。
「頭無事か!?」
ハイエが聞きに行く。
「あらら、ぶっ飛ばされちゃって……」
ノロシが笑う。
「近寄るなハイエ! さすがにキレているぞ!」
ダイシンが忠告する。
ガラガラと瓦礫から這い上がるテンロウ。
「何してんだドリドリム団!! 殺して奪え!!」
ロードとグラスは盗賊たちに取り囲まれた。
「大ピンチか……」
「テメーを仕損じたせいで、クソが……」
「安心しろ……お前の命はオレが必ず守る」
「テメーは必ずオレが殺す」
ロードとグラスはかみ合わない会話をする。
「殺せ!!」
テンロウが叫ぶ。
『『『オオオオオオオオオオオオオオ』』』
飛び掛かっていく盗賊たち。
身構えるロードとグラス。
その時、天井がピシシッとひび割れて、
瓦礫の山が降り注ぐ。
『『『――――!!!?』』』
その場に居た誰もが驚いた。何せ突然天井が割れて瓦礫が降って来たからだ。
「流石我が嗅覚、力強き人間共をこれほど簡単に探り当てたか。これだけあればあの方の為にもなろうな。まさしくここは命の山だ!!」
土煙の中から出て来たのは、獅子のような姿をした岩の魔物だった。




