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第285話 盗賊以外の生き方を知らない

 団長はジョッキ一杯の酒を飲み切って、ジョッキを置いた。


「さてと……俺たちの自己紹介がまだだったな」

「オレはこのツルバシセン団けんこの町チュードオリの団長リョウだ」


 そのワイルドな男はリョウと名乗った。


「そんでもってこいつは――」


 隣に座るオールバックの男を紹介しようとした時――


「副団長のスワリオだ」


 先に本人に名乗られた。


「それでエミさんはどうだ? 今どこで何してんだ? 元気にしてるか?」


「ああ、タチクサって町で複数の子供たちと一緒に住んでいる。元気だと思う」


 ロードがエミさんを思い出しながら言う。


「タチクサだとあそこは確か……」


「ああ、魔王ってのが襲ったと聞いている」


 リョウの問にスワリオが答える。


「安心してくれ、俺たちがその町へ行ったのは魔王の攻めた後だ」


「そうか無事か……」


「その後、魔物が住み付いていたみたいだったが、それも倒してきた。当分は安全だろう」


 ハズレがトカシボウを思い出して言う。


「本当か? そいつは礼を言わせてくれ!」


 笑うリョウ。


「しかし魔王があんなところにまで……」


 スワリオが呟く。


「くそっ! エミさんに危害を加えやがって、魔王だか何だか知らねーがぶっ潰してやる!」


 リョウは拳を握り締める。


「ところでこのバッチは何なんだ? エミさんに持って行ってくださいと言われたが、ある盗賊団はこれを見て逃げ出した。あんたたちにとっては逃げないし、意味が違うのか?」


「ああ、それか……そいつはオレたちツルバシセン団結成時のメンバーバッチだ。ここにいる古株は皆持っているものなんだ」


「アンタたちの団のバッチ」


「エミさんは盗賊だったのか?」


「いや、そいつは違う俺たちツルバシセン団は結成前イリガルって国の奴隷だった」

「オレたちはそこで反乱を起こした」

「起こす前の前日まで準備を進め、覚悟を決め、バッチを付けて戦った」

「そして勝利した」

「イリガルを滅亡させオレたちは自由を手にした」

「死んだ奴も多かった」

「そのバッチはあの戦いを死んだ仲間たちを忘れず」

「その時の仲間を一人も無くさないようにするための目印なんだ」

「エミさんはオレたちの仲間だ」

「戦っちゃいねーが、奴隷の頃からケガを見てくれたり、優しくしてくれたり」

「オレたち全員を支えてくれた恩人なんだよ」

「人を傷つけずに暮らすって言って」

「盗賊になるオレたちから離れちまったが」

「そうか子供たちと暮らしてんのか……エミさんらしい」


 長々とリョウは語った。


「何故アンタたちは盗賊なんだ? エミさんの様にはなれないのか?」


 ロードが意見する。


「さぁーな、分からねーな」

「奴隷以外の生き方を知らねーからなー」

「外へ出たはいいが何をしたらいいのかわからねーし」

「生きる為には他から奪ってくるくらいしかできなかった」

「気づいたら町が出来た」

「色んなやつも増えた。それだけだ」

「何も盗賊になりたかったわけじゃねーが」

「これしか知らねーんだよ俺たちは……」


 エミさんの話題が出て機嫌良さそうに話すリョウ。


「なりたくなければ、エミさんの奴隷になればよかったのに……」


 スワンがツッコむ。


「ハハハ、まったくだ、が、もうおせーなこの町は捨てられねー」


「しかしエミさんがそのバッチを、お前たちにやったということは何か助けがいるのか?」


 スワリオさんが訊いてきた。


「助けと言うか。話を聞きたい」


「なんだ?」


「魔王のこととアリバレーというところ」


「――!!」


 団長と副団長の表情が変わる。


「魔王は知らないが、アリバレーなら知っている。このフォックスグリード……チュードオリから少し遠いが東にある。しかし盗賊ドリドリム団の拠点なので近づけない」


 副団長スワリオが答える。


「盗賊が……」


「そうだ」


「アリバレーに何しに行くんだ?」


 団長リョウが訊いてくる。


「旅の手がかり、足がかりになればと思って」


「ほーーーー……よし! 案内してやろうじゃねーか! オレが直々に!!」


「「「――!?」」」


 三人が驚く。


「おい! リョウ!? お前は団長だぞ! ドリドリム団のアジトに近づくやつがあるか!」


「だからこそある!! こいつら三人だけじゃ身ぐるみ剥がされて終いだろうが! ツルバシセン団団長のリョウさまがついてりゃー簡単には手出しできねーよ!」


「だから簡単に手出しされるかもしれねーから行くなって言ってんだ!」


「スワリオ……オレはわかったんだよ! こうしてエミさんのバッチを持って来たこいつらを見てな!」

「エミさんは今も仲間だ! 恩人だ! 今でもあの笑顔は忘れない」

「そんなエミさんはオレたちを頼ってくれたんだぜ! 自分の友人を助けてくれってな」

「だったら決まってんだろ! エミさんに恩を恩で返す! ツルバシセン団総力をもってして!」

「それがオレたちのルールだろうが!」


 拳を振り上げて高らかに声を出すリョウ。


「むぬーーーーーー」


 スワリオはバツの悪そうな声を出した。そして――


「分かった行こう」


「決まりだな!」


 リョウは振り返って酒場に集った団員たちに言う。


「お前ら決まったぞ!」


『『『――!?』』』


「えっ何が?」「さぁ―な、また何かすんだろ」「よく分かんねーがいいぞ」「やってやるぜ!」


 奮い立つ盗賊団。


「何を勝手に、こっちは何も決まってないけど!」


 スワンはムカついていた。


 その時――


「ちょっとどいてくれ! 団長、団長はどこだ!」


 一人の団員が酒場に入って来た。


「――!! どしたオレはここだぞ!」

 

 椅子の上に立つリョウが言う。


「団長聞いてくれ! 広場でグラスの奴がやらかした!」


「――何!!」


「――――!!」


 ロードの心は震えた。


「ロード」


 ハズレが立ち上がり、


「行ってくる」


 ロードはすぐさま酒場の内部を通り抜けた。


「わ、わたしも――」


 続くスワンだった。


(一体何をやらかしたグラス)

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