第281話 馬と鳥とイルカの追走劇
馬に乗った男たちにグラスがさらわれた。
「――追うぞ! 皆!」
ロードが急ぐ。
「水雲鳥!!」
スワンが水の鳥になる。速攻で動き出した。
そしてロードとハズレは水の精霊ドルフィーナに跨って荷船を牽きながら追いかけていく。
「わたしが先行する! ついて来て! ドルちゃん!」
「クパパパパパパパパパパパ」
馬に追いすがるスワンを追いかけるドルちゃん。その速度は荷船を牽いていても馬並みに速かった。
▼ ▼ ▼
丘の道。
難民たちのいるテント群から出て行くと二本の分かれ道に到達する。グラスを担いでいった男たちは左に曲がって行った。そしてスワンも後に続き、ドルちゃんも左に曲がる。
「ロード、今の内に俺の生命力を持って行ってくれ」
「いいのか?」
「遠慮するな」
「なら……オレの手にお前の手を重ねてくれ……」
ロードはドルちゃんの手綱を握った手に目を落とした。ハズレはその上に覆いかぶせるように手を置く。
「これでいいか?」
「ああ」
シュウウウウウウウッと生命力を少しづつ吸収していくロード。見る見るうちにさっきまでやせ細った顔も戻っていった。
(これでいつでも戦闘できる)
(しかし奴らは何者だ)
(裏切りの瞳が反応しなかったのなら)
(グラスを狙う魔王フリフライの手先ではなく人間か)
(あそこにいる二人だけならいいが)
(まだ仲間がいたら厄介だ)
「オレ達から逃げているのか? どこかへ向かって誘い込んでるのか?」
ハズレが馬の尻を見ながら言う。
「いずれにしてもグラスを取り返すには戦うしかなさそうだ」
ロードが決意する。
「二人とも気を付けて森に入る!」
水雲鳥のスワンが忠告する。
▼ ▼ ▼
森の中。
バカラッバカラッと馬が全力で森を駆け抜けていく。
スワン率いるドルちゃんも後にしっかりついて行く。
「ちっ、しつこい奴らだ!」
馬にまたがる男の一人がそう言った。グラスを抱えていない方の男で剣を抜き、森の木の枝をズババッと斬っていった。
スワンは妨害工策である木の枝を華麗に避ける。
「くっ、木になんてことを――」
ロードたちは手で前から迫る木の枝を払い退けていく。
ドルちゃんが倒れていた木をジャンプして跳び越えた。
同じく荷船も引っ掛からずに跳び越えていく。
「――――!?」
その時ハズレは気が付いた。
後ろからバカラッバカラッと迫る三頭の馬に乗った三人の男たちを、もちろんグラスをさらった連中の仲間であることは明白だった。
「後ろからも来たぞ!」
「何――――!?」
ロードも後ろを振り返る。
「後ろは任せろ! ハズレはオイルの入った瓶のふたを開けていた。そして瓶の中の液体を後方に向かって巻き散らし、マッチの火を落として引火させた。
シュボオオッと燃える森に、後ろから迫ってきた三人の馬乗り手は妨害工策を受けた。
「くっそ」「火だと!」「通れない」
「回り込むぞ」
しかしハズレは容赦しなかった。燃えている森に火薬玉を投げ込んで――
「小さな火花」
ドドーンッと爆発させた。
「おいハズレやりすぎだぞ」
「心配するな……死ぬような火力じゃない盛大に吹っ飛ぶだけさ」
「違う、森の木を何だと思っているんだ?」
「そっち……!?」
ハズレが肩透かしを食らう。
「「――――!!」」
グラスをさらっていく前方の男二人が爆発に気づいた。
「ちっ、まだついてきやがる」
「フリスビは先に行け、オレが片付けてくる」
先ほど森の木々の枝を乱雑に斬っていた男が言った。
川越しに待ち構える剣を持った男。通り過ぎるスワンに気づかず、代わりにイルカに乗ったロードとハズレを凝視していた。
「――――!!」
「オレたちが誰か分からせてやるぞ! 馬鹿頭共!!」
男が川へと引き換えしてきた。
しかしドルちゃんは構わず襲い掛かって来た馬に乗る男をジャンプで跳び越え――」
「す、すげ――――」
バコンと荷船に潰された。
「ナイスだドルちゃん!」
ハズレが賞賛する。
「クパパパパパパパパパパパ」
▼ ▼ ▼
森の奥深く。
何十分もかけて追走劇を続けるロードたち。
次第にグラスを抱えた男は山の谷間へと入って行った。
「洞窟?」
ロードが呟く。
「縦穴か……」
ハズレが呟く。
「罠かも……」
水雲鳥状態のスワンが話しかけてくる。
「それでも行くしかない」
ロードは言いきった。
スーーーーと山の縦穴に入って行く。
そして広い場所が見えた。
「あの向こうか!!」
ロードたちは縦穴を抜け広い空間へと飛び出した。
「ここか! グラス!」
ドルちゃんが停止するどうやら追走劇は終わりらしい。座らされているグラスを見つけた。
「「「――――――!?」」」
そして広場を見たロードたちは何十人もの人相の悪そうな男たちと目が合った。
そうここはとある盗賊団の根城だった。




