第277話 暗がりに潜む魔物ギョーワン
「――――!?」
ロードの背後には魔物がいた。
バァガァーーーーっとその大きな口が開く。
あまりの遠さに剣を抜く暇さえなかったが――
「バァーーーーーー!!」
ドッと鈍い音を立てる水霊の手によるパンチが魔物に直撃した。
そして魔物は闇の中へと消えて行った。
「(――気配を感じなかった――いつの間に接近されていた!?)スワン! 奴はどうやって近づいてきた!」
「――天井から蜘蛛のように下がって来た!」
スワンが教える。
「(オレの知らない魔物だった……)――居場所が分からなくなった! 気を付けろ!」
「だったら私が探ってみる! 水霊の手」
水で作った二つの腕が洞窟の天井をまさぐっていく。
「手ごたえがあれば教えてくれ! オレが斬る」
「その時は水の上に乗って、足場を作るから!」
「分かった――――!!」
その時ロードはふと風を切る音が聞こえた。それはスワンのすぐ傍からだった。
「バァーーーー!!」
ロードが足を踏み込んで、一気にスワンの元まで戻り、両手に構えた赤い剣と青い剣を振った。
しかし剣は空を斬り、魔物には当たらなかった。
「ギョーワン!!」
魔物は再び暗闇の中へ引っ込んで行った。
スワンの元で立ち尽くすロード。
「また静かになった」
スワンが呟く。
「不意打ちが好きなようだ」
ロードが口ずさむ。
「まったく音がしない、確かに気づかなかったら、一瞬で終わり。魔物狩りでも手を焼くのがわかる。相手に地の利が大きすぎる。けど私は手をやかない」
スワンが水の手を落とししぶきに変える。
「――水霊の遊戯!」
ババババババババババババババッと壁、地面、天井に水しぶきを打ち込んで行く。
「ギョーワン!!」
魔物の声が聞こえた。水しぶきが当たったのだ。
「いた! ロード」
「ああ」
スワンの作った水の足場に乗って移動するロード。向かうは天井近くの壁面。
そして声のした場所に攻撃を仕掛けたのだが、魔物には当たらなかった。
一旦壁に青い剣を突き刺して足をつけ、クモの様に様子を伺うロード。
首に掛けられた裏切りの瞳は輝き続けていた。そしてズッと顔を出す魔物。
「まだそこにいる!」
「――――!!」
スワンの声に反応して赤い剣を振るロード。魔物の方は曲芸するかのように手で天井に張り付き、張り付かせていた尻尾の部分を外して、ひょいっと避ける。
ロードはスワンの作った水の足場の上に降り立ち、魔物を視界に捉えた。
焦げたパンのような顔に大きく裂けた口、その裂け目の部分には大きな瞳があり、赤くて丸い鼻をしていた。手や尻尾は壁に粘着する為ぬめっとしていて、全体的に不気味な魔物だった。
(また暗がりに消えた……厄介だ)
この時スワンは、
(らちが明かないこんな暗い場所……すぐに見失う……あの魔物は何故私たちの位置が?)
そう思っていた。
その時スワンの前方から粘着性の魔物の腕が伸びて来た。
「何で私ばっかり! なつくな!」
タタタッと走って魔物の襲撃を避けるスワン。
「ギョーワン!!」
「――そこか!!」
ロードは水の足場を踏み破ってスワンの元へ駆けつける。そして両手に構えた剣を振る。が――
スッと暗闇に戻っていく魔物だった。
「――――!」
(今のを躱した? ただの跳躍で躱したわけじゃない)
(こいつ……身体が伸び縮みするのか?)
(出てくる時に斬るしかない)
(だが、ヤツは闇に乗じて移動する)
(簡単には捉えられないし)
(ヤツは獲物がじっとする隙を伺って襲い掛かってくる魔物)
(オレは自ら隙を作れるほど器用じゃない)
(このままでは立ち往生か)
その時背中にトッとなんか温かいものが当たった。
「ロード背中貸して、あなたの背中は私が絶対守るから」
「百人力だ。心強い」
「それでどうする? もう一度、私が水で位置を探る?」
「スワンの負担が大きい。あまり好ましくない」
「気にしなくていい何でもやる」
「しかし」
「他に何か効果的な手でもある?」
「あるにはある……ヤツは獲物の隙を伺い襲い掛かる。一瞬でカタをつける待ち伏せ型の魔物」
「餌をチラつかせればヤツは出てくる。それこそヤツの隙」
「その瞬間にあの伸縮する身体を斬れれば機動力を封じられる」
「あとはとどめだ」
ロードは長々と作戦を説明した。
「餌を撒いてロードが隙をつく。確かに効果的、けど餌がない」
スワンはロードに自分がじーーーーッと見られていることに気がついた。
「え!? 何!? 私!? 無理だって自分から隙なんて作れない!」
「何を言っている。今この瞬間もスワンは完全に隙だらけだぞ」
「えっ? ちょっと何言ってるの? ロード……分からないのか? 私の完璧な警戒心……私のこの構え攻めようがあるわけない」
「分かってる。餌役の怖さは……オレはスワンにそんなこと頼まない。安心しろ」
「えーーーー! ロードから見るとそんなに無防備なのか私は!! さっきの百人力はどこ行った!? ――ええい、分かった!」
スワンはバンダナと上着を脱ぎ捨てた。
「わたしが餌になる!!」




