第275話 モタナイさんの案内するダンジョン
森の入り口。
ロードたちは一旦離れた場所から大きな門を見る。
「それでどうするんだ? 難民たちのように、このままここにいる訳にもいかないだろう」
「お金はあるんでしょう? だったらすぐ突破しちゃってアリバレーに向かいましょ」
「いや、出来ればここにいる皆を向こうへ連れて行きたいな」
ロードの一言に、
((また……この人は、お人よしめ))
二人はこう思った。
その時一人の男がロードたちに近づいてきた。その男は幸薄そうな顔で、割れたメガネを掛け、左手を失い服の袖がヒラヒラと漂っていて、左足に棒状の義足をし、杖を突いて歩いている男だった。
「あ、あの~~兄さんたち少しいいかい?」
「「「――!」」」
「オイラはモタナイこの橋の前にひと月前に来た難民だ」
「……」
ロードが何か言葉を発しようとした時、ハズレが手を上げて静止させた。
「悪いけど、貸せる金ならない」
「待った、待った。オイラをその辺の物乞いと一緒にしないでくれ」
「だったら何の用?」
そっけなくスワンが訊く。
「儲け話でも紹介してくれるわけか?」
ハズレが当てずっぽうで訊いていた。
「まさにそこだよ! さっきの不法入国で騒ぎのあった男、この兄さんが助けたときピンときた! この人なら出来る。やり遂げられるってね」
ハズレとスワンがロードの方を見る。
「兄さんその成りからして魔物狩りだろ?」
「魔物狩りではなく勇者だ」
「まぁ細かいことはどうでもいい。近くにダンジョンがあるんだ」
「ダンジョン?」
「そうさ金銀財宝が眠っている! 一攫千金の夢のダンジョン! だが、ダンジョンに挑むには魔物がつきものだ! そこで兄さんにその魔物をやっつけてもらって宝を手に入れて欲しいんだ」
「――――!!」
ロードは宝という言葉に反応した。
「オイラはダンジョンの場所を教えるから宝の二割くれるだけでいい……ここから橋の向こう側で人生をやり直したいんだ」
(二割か……じゃあ八割の宝が手にはいる訳か)
(そうすればここの難民たちも橋を渡らしてやれるかもしれない)
「頼む……力を貸してくれアンタたちも向こうへ行きたいんだろ……?」
「そういうことなら……」
「待ってロード、簡単に決めないで、罠かもしれない」
「モタナイさん……あなたはそのダンジョンへ入ったのか?」
ハズレが質問する。
「ああ、だがこんな身体だ魔物と戦うのはおろか、逃げ回るのも無理だ……誰かの助けがないとオレは生きてはいけない。だ、だから……あんた達より前に来た魔物狩り達にも声を掛けたが、ダンジョンの魔物にやられちまったんだ……だが、どうしても諦めきれない」
「魔物の姿は見たか?」
ハズレが訊く。
「いや、身体がこれでは魔物狩り達については行けなかった。行ったとしてもどのみち暗くて見えなかったろう」
「………………いいだろう。ロード引き受けても構わないよ」
「ハズレ」
「宝が手に入れば今後の活動資金にもなる。悪くない話だ」
「あ、ありがとうそうと決まれば行こう。ついて来てくれ」
「ああ、案内頼む」
モタナイさんについて行くロード。
「スワン」
ふとハズレに呼び止められたスワン。
「!」
「前に精霊を出してたな? ジャブちゃんと何だっけ?」
「シーちゃん?」
「それだ。話がある」
ハズレとスワンは移動しながら小声で話し合っていた。
◆ ◆ ◆ ◆
岩でできたトンネルの前。
それは森の奥にあった。岩が岩を支えて洞窟みたいな空洞を作り上げていた。
「ここだ、ここがダンジョンだ」
モタナイさんが言う。
「洞窟か……」
ロードが呟く。
「一見ただの洞窟だが途中からダンジョンの入り口になっている」
モタナイさんが紹介する。
「グラスはオレが見張ろう、任せてくれ」
ハズレが進言する。
「グラスいい子にしていろよ」
ロードが言葉を届ける。
「ちっ」
舌打ちするグラス。
「スワンさっきの件よろしく頼む」
「分かってる……任せて、それと仕事が終わったら褒めてもらうからよろしく」
「何の話だ?」
ロードは訊いてみる。
「まだないしょ……」
秘密の笑顔を作るスワン。
「ダンジョンの入り口まで案内するよ。足元に気を付けて上がって来てくれ」
岩段を一歩一歩踏みしだいて洞窟に入って行くロードとスワンだった。
ハズレはグラスのリードを持ち、向かいの木にロープでグラスを縛り付けた。
かくしてロードとスワンのダンジョン攻略が始まるのだった。




