第273話 大きな門の前は物乞いのたまり場
大きな門の前。
人だまりが出来た門の前、どの人もこの人も群がっていた。
門には高い見張り台が両サイドに取り付けられていた。
ざわざわした門の前をロードたちも荷船を置いて様子を見に来る。
「何だここは……?」
グラスを連行するロードが呟く。
「さぁ~~エミさんから貰った地図には載ってないけど……」
「その地図だいぶ古いらしいだろ? オレが訊いてくるよ」
「頼むハズレ……」
ハズレが人ごみを掻き分けていく。
そして――
「娘さん娘さん」
「……!」
お爺さんに話しかけられるスワン。
「何か食べるものはないか? ちょっと分けてくれ」
「金、金はないかちょっとの間貸してくれ」
「オレもだすぐ返す――すぐだ」
次々寄ってたかられるスワン。
ロードが男たちとスワンの間に割って入る。
「な、何だお前!」「分けてくれるか?」
「悪いが今はこっちも食糧難なんだ。何も貸してやれないし与えられない」
「いいじゃないか」「その腰に提げた剣でいいからさ」「何なら兄さんの服でもいい」
「いや、だけど……」
ロードは困った。
「いいではないか」「くれとは言っていない、貸してくれ」「そうだ、恩は必ず返すから」「なぁ、兄さん助けてくれよ、腹減ってるんだ」「金が金がいるんだよ」
「うう……貸す……少しだけなら」
男たちの勢いに飲まれそうになるところを――
「ロードダメ、貸したら二度と戻ってこないって、それに何に使われるか……」
「けど、何とかして助けたい」
「耐えて我慢して特にこの異世界では……」
ロードの腕を引っ張るスワン。
そこに今度はグラスが割り込んできた。
「――!!」「何だぁ?」「お前が貸してくれるのか」
ギロッともの凄い表情で男たちに睨みを利かせるグラス。
「ひぃーー」「バ、バチが当たるぞ」「分かったもういい」「血も涙もないとはこのことだ」「ったく近ごろの若もんは……」「年上を何だと思ってる」
「……………………」
グラスに怯えた男たちが捨て台詞を吐きながら散らばっていく。
「………………ありがとうグラス、助かった」
「うるせーんだよ! テメーらが! ちぃっ!」
本当にイライラしているグラスだった。
ロードとスワンは顔を見合わせた。二人共きょとんとしていた。
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ガタゴトガタゴトと大きな馬車が人ごみをかき分けて来た。
「コラ道を開けろ!! 牽き殺すぞ!!」
二頭の馬で馬車を引く。
「なぁ金を貸してくれ!」「向こうへ行ったらそれなりの礼をする」
男たちが馬車を取り囲んで行く。
「うるせー邪魔だ消えろ!」
顎の曲がった馬車の引き手が発言する。
「邪魔するな!」「痛い目合わす」
その時、馬車の中から双子のガタイのいい大男が飛び出してきた。
「ファイ、ゴー、ほどほどにな」
顎の曲がった男が指示する。
双子の大男は馬車を取り囲む男たちをドカッバキッと殴り飛ばしていく。
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「痛って」
「大丈夫か? 見してくれ……」
双子の暴力に巻きこまれた男に近づいてロードは言う。
「スリか! 近づくなコノヤローー!!」
男はロードを突き飛ばして立ち去って行った。
「ロード」
「大丈夫だ……」
「ロードはスリなんてしないのに……」
「スリってなんだ?」
「人に近づいて窃盗を試みること……」
「まぁ、この異世界では疑われても仕方のないことだな……」
ドガバキドコっと鈍い音が響いてくる。
「それにしても何の騒ぎだ?」
「人が邪魔で馬車が通れないみたい」
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馬車は検問所に到着した。
「止まれ」
「この先はフォックスグリードである」
「門を通りたくば人数分の金を払え!」
「ああ、わかってる」
顎の曲がった男が言葉を返す。
「ホラこれでいいだろ?」
パンパンに詰まった袋を渡す。中身は金貨だった。
「よし確認するしばし待て……」
金貨の枚数と馬車に乗る人数を確認すると……
「よし、いいだろう門を開けろ!」
ゴゴゴゴゴゴゴっとゆっくりと門が開いていく。完全に門が開ききる前に馬車は門の内側に入って行った。そして――
「行ったな」「門を閉めろ」
役人らしき者が指示を出す。
その時――
「――――!!」
役人たちをかいくぐって、ダッシュで門の向こう側へ行こうとする男がいた。
しかし、直ぐに捕らえられてしまった。
「なっ! 貴様!」「止まれ動くな!」
男の上に乗る役人たち。
「ぐぅ、離せ」
「門を早く閉めろ!!」
ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴッと門が再び向こう側への道を固く閉ざす。
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「今度は何だ?」「何か揉め事かな」
ロードとスワンは門の近くで起きたことを知りうることは出来なかった。
「やぁ、訊いてきたぞ二人共……」
その時、ハズレが帰って来た。




