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第272話 襲い掛かってくる狂犬

 森の中。

 空はいつも通り曇りだった。

 ロードとグラスは小さな牛小屋で夜を過ごしていたようで、グラスの首には首輪が絞められており、そこから伸びるリードがグラスとロードの手を繋げていた。


「何故、魔王フリフライに追われている?」


 何気なくロードは話しかけてみるが答える気のないグラス。


「……………………」


 目線を逸らし奥歯を噛み締める。


「…………では、グラス、家族や知人はいるか?」


「……………………」


 この問いにも答える気のないグラス。


「どうした? 喉でも痛めたか?」


 ロードは呟く。


「ロード、食事持って来た」


 そこへスワンとハズレがやって来た。


 スワンの精霊の術で水の上に皿が乗っかって宙を泳いでいた。皿にはキノコで出来た炒め物が乗っていた。


 指を前に振ると皿を乗せた水がグラスの方にスゥーーーーっと静かに降りる。


「丁度いい、こいつ喉を痛めて話せないみたいなんだ。水を飲ませてやってくれないか?」


「それ、話しをしたくないだけなんじゃないのか?」


「キノコと木の実を焼いてきた。こっちは水」


 皿に乗った朝食を交互に指さす。


「どうぞ、食べて……」


 しゃがんで膝に肘を置き顎を支えるスワン。


「ちっ」


 ガブガブガブと顔だけを皿に向かわせて食べ始めるグラス。


「舌打ちやめろ」


 スワンはあまりいい気分はしなかった。


 グラスは水をズズズッと飲み干していく。キノコと木の実の炒め物も犬みたいに食い散らかす。


「犬みたいだな」


「気を抜くなハズレ」


「そうでした」


 べろりと唇を舐めるグラス。そして頭を振って食べ終わった皿を頭突きでバリンと勝ち割る。そしてその破片を歯でガッチリと噛み締めて、スワンの喉元へと向けていく。


 その瞬間――グラスはロードの鞘付きの剣に吹っ飛ばされた。


「どあっ!!」


「――――!」


 スワンは突然のことに腰を落としハズレに庇われる。


「ハズレ、スワンを連れて行ってくれ」


「ああ……無事か立てるか?」


 ハズレはスワンに手を貸そうとしたが、その手は取らなかったスワン。


「うん……びっくりしただけ……」


「あとはロードに任せてオレたちも食事にしよう」


「分かった。ロードここに食事置いておくから……」


 スワンのもう一つの精霊の術がキノコと木の実の炒め物の乗った皿と水の皿を地面に置く。


「ありがとう」


 タッタッタッとその場から去って行くハズレとスワン。


「さて……グラス、殺すのはオレにしろ……そう言ったはずだ」


 黙って座り込むグラスをロードは鞘に納められた剣でベシッと殴りつけた。


「ガァ――!!」


 頬をぶたれたグラスは口の中に仕込んでいた皿の破片を噴き出した。


「口の中に隠す……カモフラージュとしては甘いぞ。オレだけだ……オレだけを狙え二人に手を出すのは逆効果だ」


 上からグラスを見下ろすロード。


「……!!」


 屈辱を味わうグラス。



 ◆ ◆ ◆ ◆



 森の中。

 昼間は移動したが今回は町にも村にも着かず、そのまま野宿を取る一行だった。

 夜中になりハズレが寝静まった頃。

 スワンは一人で見張りをしていた。


 コクンコクンと首を振るスワン。眠りにつきそうになっていたのだ。そして気づく。

(いけないいけない、見張りしないと……)

 スワンは起きた。



 ▼ ▼ ▼



 ハズレたちから少し離れたところで眠るロードとグラス。

 木を背に二本の剣を立てかけてスースーと寝息を立てるロード。

 実はと言うとグラスは眠っていなかった。

 ロープによって木に縛り付けられたグラスは、履いていた靴から仕込みの刃物をシャキッと出す。そして自分を縛るロープを切り裂いて、脱出する。

 立ち上がったグラスは静かに眠りこけているロードに近づいていく。

 そして、靴に仕込んだナイフをロードの顔に突き付けて、ギロリと睨む。

 グラスは斜め上から靴に仕込んだ刃の攻撃を寝ているロードに仕掛けた。


 その瞬間――パチッと目覚めたロード。すぐに靴を振り上げた足を無視してグラスを押し倒した。


「――――!!」


 ザザザっと土の上を滑る。


「ちゃんと言うことを聞いたな……」


 ロードは暴れるグラスを取り押さえた。


「良い子だ……だが今日はもう寝ろ……」


 ロードはドガッと腹に一発拳を入れてグラスを気絶させた。


 夜明けまでまだ時間がある。再びグラスをロープで気に縛り付けて、眠りにつくロードだった。


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