第267話 錆びれたバッチの力
ロードたちは森の中にあった村で盗賊団に囲まれていた。
へへへと笑い合う盗賊団。その手には武器も持たれていた。
ロードの前に一歩踏み出した盗賊がいた。恐らくそいつがリーダーだろう。
「お前が頭か、何の用だ?」
ロードが冷静に訊く。
「そおうだな。とりあえずその物騒なもんは全部おいてお前らのありったけのもんを、おれ達に恵んでくれねーか」
盗賊の頭がロードたちの武器を見てその後荷船を見る。
「物騒なのはお互い様だろ」
ハズレが負けずとものを言う。
「人を罠にはめて取り囲まないと交渉も出来何のか?」
スワンも声のトーンを落とす。
「悪いが何も置いてけない通してもらう」
ロードが一歩踏み出した。
「ふふふこれだけの盗賊を相手に強気だな、命知らず共。だが運はいい、俺たちは人を殺さない盗賊、痛い目にあうだけで目が覚めれば、俺たちは消える安心しろ。せめてもの情けだその動物と服だけは残してやっても――」
盗賊団の頭はロードの衣服を見た。正確にはその胸につけられた錆びたバッチを見た。
「――――!! ちくしょう、お前そのバッチ! なんてことだ」
頭がたじろいだ。
「うっマズいっスよ、頭」
「――?」
突然慌てふためく盗賊団たち。
「フーーンそう言うことか」
ロードの肩に手を置くハズレ。
「ハズレ?」
「ここは任せておけ」
ハズレはここでお得意の技を披露する。
「お前たちがいっぱしの盗賊で助かったよ。そこらの田舎者にはこの意味が知らないからなー、どうする? 今なら穏便に事は運んでやるが……もしやり合うとなったら考えがある」
ハズレの表情に凄味が出る。
「うっ、わ、わかった流石に手は出さない! 俺たちは退き上げる!」
降参したのか両腕を上げて後ずさりをする盗賊団の頭。
取り囲まれた周りの20人くらいの盗賊たちもざわつく。
「野郎ども撤収だ!」
「「「へ、へい!!」」」
タタタと足踏みを鳴らして、盗賊団全団員たちがその場から立ち去って行った。
「奴らどうしたんだ?」
ロードがきょとんとする。
「ハズレどういうこと?」
スワンが訊く。
「ロードが付けている錆びたバッチさ……盗賊ってのは暴力でものを強奪する集団のことだろう? そいつらが恐れるのはより強い者か、組織、つまりロードがエミさんから渡されたバッチは今みたいな力のない盗賊団を抑制するバッチなのさ」
「だから手出しができない?」
「アイツらの驚き方からして明白、このバッチに手を出すということはよっぽど危険なんだ」
「何のバッチだ? ちょっと怖いぞ」
「少なくともエミさんが渡してくれたものだ。俺たちに害はないだろう」
「どうしてエミさんがこんなバッチを持っていたんだろう」
「そこまではわからないが……」
「それより今はアイツらに待ち伏せされてた方が気になる……」
スワンが話題を変えた。
「ああ、俺達を見くびっていたがあの数の男と発言からして、下調べはついてたみたいだった」
「つまりどういうことなんだ?」
「誰かが俺たちの情報をバラしている」
ハズレがさらりと言う。
「考えられるとすれば……」
スワンはその人物に心当たりがあったみたいだった。そして――
「アイツのことか……」
静まり返った小さな村で、ロードはその人物を見ながらポツリと呟く。
緑色のフード付きのマント。男性か女性かフードで顔を隠しているのでよくわからない。
「マントの……」
スワンもその者を見る。
「キミが奴らにけしかけたのか?」
ハズレが推測を口にする。そして――
「……つっかえねー連中だ。所詮は小物盗賊か、こいつらをどう見ればバッチの連中に見えるんだか……」
始めて緑色の襲撃者が声を放った。その荒々しい声からして男だとわかる。
「聞こえているはずだ! キミは何者だ!」
「うるせー! そんなことはどうでもいいテメーらの荷物は頂いていく! 全部!」
青年にも聞こえるその声の持ち主が空気を手で切り裂いた。
「狙いは何!? 精霊石の剣! それとも金品!」
「全部だ!!」
バサッとフードを取った緑色の襲撃者。そしてこの言葉を放った。
「――――殺す」
それを聞いたロードの顔に、僅かながらの怒りが宿る。




