第265話 子供たちを導く笑み
トカシボウも倒して裏切りの瞳も輝きを失っていく。
「エミねーちゃんごめんなさい!」
ううっと泣き続けるミノ。
「俺たち皆を守りたかっただけなんだ!」
魔物を前にして実は震えていたレジ。
「ねーちゃん危険な目に合わせてごめん」
素直に謝るドタ。
「もういいから……あなた達が無事でいてくれてよかった……私の宝物」
涙を流しながら3人の少年を抱きしめるエミさん。
「うう……」「ごめんなさーい」「もっと強くなるから……」
抱擁される3人の少年たちも涙を流していた。
それを近くで見ていたロードたち。
「無事でよかった……」
スワンが呟いた。
「子供たちを見たときはヒヤッとしたが……」
ロードが心底安堵する。
「しかし、エミさんも勇気ある。アイツらの前に飛び出るなんて……」
ハズレが賞賛する。
「エミさんは守ったというより失いたくなかったんじゃないか……あの人は昔……ある国で両親と離れ離れになったんだ」
スワンに井戸の場所を教えた男が語る。
「そういえばそんなこと言ってたな」
ロードが言葉を返す。
「どうして離れてしまったんだろう……」
スワンが呟く。
「もう終わったことだがある国の話さ。両親は亡くなったんだ。過労でな」
「過労?」
「エミさんの家族は奴隷だったんだ。イリガルって国の。両親はその重労働で亡くなり、エミさんも物心ついてすぐに両親から引き離されてしまったんだ」
「そうだったんだ……」
スワンは不憫そうな声を出した。
「もう家族は失いたくないからあんな無茶を?」
ハズレは訊いていた。
「たぶんな。そのイリガルって国は盗賊が攻めてきて滅亡したんだが、その時の混乱に乗じて多くの奴隷が逃げたり……盗賊に加勢してたって話だ。エミさんも逃げて来たんだ」
「奴隷……人が人を苦しめる。許しがたいことだ」
ロードが眉間にしわを寄せる。
「そればっかりは時代が変わらないとどうしようもない問題だ。オレの爺さんなんかもっと酷い時代だったみたいだが……」
「この世界がこうなっているのは何故だ?」
ロードが詰め寄る。
「さ、さぁ分からねーな……どうしても知りたいなら伝記ダンジョンに行くしかない。そういう場所なら大昔のことが記されている石板とかあるはずだ」
「伝記ダンジョン……」
スワンが想像する。
「石板か……」
ハズレが呟く。
「ダンジョンか……それはどこにあるんだ?」
ロードが訊いてみる。
「アリバレー奴隷たちの洞穴さ」
◆ ◆ ◆ ◆
タチクサ町・出入口。
「皆さん。本当にもう行ってしまわれるのですか?」
エミさんが名残惜しそうに訊いてきた。
「ああ」
ロードが頷く。
「えーまだ一発も入れてないぞ」「そうだ、勝ち逃げは許さないぞ」
少年たちがハズレに言う。
「オレに挑むのは10年早いな」
「何を!」
「フッ、だから10年後にまた相手をしてやろう……それまで、守るべきものを守り生き延びろ」
ハズレがさわやかに言い放つ。
「絶対だぞ……10年後だな」「出来るかなぁ」「出来る俺達はもっと強くなるぞ」
そしてスワンもスワンで女の子たちと別れの挨拶をしていた。
「おねぇちゃんご本読んで……?」「行かないで……」
「皆ごめん。でも私行かなくてはいけないの……皆のこと忘れないから私のことも忘れないで……」
「うん、忘れない」
こちらはこちらで別れを済ませた。
「エミさん……あなたは素晴らしい人だ。どうかこの子たちを正しい方向へ導いてくれ」
「ロードさん……わかりました。この子たちは必ず人の為に生きられる大人に育てて見せます」
「あなたの宝、いずれ人を助ける」
ロードとエミさんは言葉を交わし合った。
「アンタたちくれぐれもアリバレーに行くなら気を付けてくれ……」
「あそこは今ドリドリム盗賊団の拠点になっている出来れば近づかない方が……」
そしてトカシボウから助かった男たちも話しかけてくる。
「心配ありがとう」
「ロードさんこれを……」
エミさんがロードの手に何かを握り込ませた。それは――
「錆びたバッチ?」
「ハイ、それをつけていれば、もしかしたら盗賊に襲われることが減ると思います」
「えっこれで?」
スワンが驚く。
「本当か?」
ハズレが不思議がる。
「か、確証はないんです。おまじない程度だと思っていてください」
「ありがとうエミさん。きっと役に立つ」
ギュッとバッチを握りしめるロードだった。
「行こう」「うん」「ああ」
3人は旅立つ決意を固める。
「さぁ皆並んで……ロードさんたちにお礼を言いましょう」
『『『はーーい』』』
8人の子供たちがずらりと並ぶ。
『『『ありがとうございました』』』
それぞれ手を振るロード、ハズレ、スワン。
「さようなら~~」「じゃあなぁ~~」
男たちも手を振る。
「バイバーイ」「さようならーー」「また来てねーー」「イルカさんもバイバーイ」
ロードが先頭を行く。
ハズレが帽子を持った手で後ろ歩きに手を振り続ける。
ドルちゃんに跨って進むスワンが笑顔のまま手を振り続ける。
そうして3人はタチクサ町を後にしたのだった。




