第263話 不気味な魔物トカシボウ
タチクサ町。
一本ヅノをしたのっぺらぼうに歯がむき出しの魔物がいた。体長およそ4・5メートル。大きなおなかに小さな足どろりと垂れ下がった両腕がある。
ドッドッドッと走っているようだった。何故なら逃げている人を追いかけているみたいだったから。
ハァハァハァと息を切らす逃走者。その汚らしい恰好をした男は瓦礫を伝い走っていく。
そして地面に落ちていた木の棒を拾い。
「く、くっそーーこの町から出て行けーー!!」
ブンと木の棒を魔物のお腹に突き刺すように投げた。
当たったがブニンと木の棒を弾くお腹。走るのを中断して失速した男は魔物の伸びる手に捕まりそうになった。
「うわぁ!!」
ザッとロードが抱えて魔物の手をかいくぐっていく。
「大丈夫か?」
抱えた男性を安全な場所に降ろすロード。
「あ、ああ、アンタは?」
「勇者ロードだ」
「あの人は無事か……」
魔物と逃げまどっていた男を見てハズレが言葉を零した。
「ひぃ――何あの悍ましい魔物」
スワンがあまりの不気味な格好をした魔物に気持ち悪さを覚える。
「トカシボウか……」
ロードが魔物を見て呟く。
「何だそりゃ!?」
今まで逃げまどっていた男が訊く。
「辺りにある物を口に含み飲み込む習性を持つ危険度の高い魔物だ」
トカシボウと呼ばれる魔物はその辺に落ちていた家の木材を手に取って口の中へ入れていく。
ガリガリガリと歯で噛み砕き、ゴクンと喉から飲み込んで行く。
「家の瓦礫を食べた!!」
スワンがロードの元へ近づきながら言う。
「気を付けろ!! 奴の唾液は瓦礫をも溶かす!!」
ハズレが剣を構えて注意を促す。
「あなたは離れていた方がいい」
ロードが男を背に立つ。
「わかった、頼んだぞ」
「待ってこの辺りに井戸はない? あったら教えて!」
スワンが男を呼び止める。
「こんな時に? まぁいいついて来い」
ボウウウウウ~~~~ゲップをするトカシボウ。
「来るぞハズレ」
「ああ、けどいつもみたいに最初の一撃で両断しないでくれ……奴の腹から胃酸が飛びだしたら大惨事だ」
「魔物大図鑑で腹の中に物質を溶かす液体が入っていることは学んだ」
「けっこう……」
並ぶ二人にトカシボウは顔を突っ込ませてきた。
ザッザッと避ける二人。ロードは蹴りで家の残骸である木片をトカシボウに向かって次々と打ち込む。
「ボウウウウウ~~」
その背後には炎の剣を構えたハズレが控えていた。
「飛べ炎よ!!」
炎の斬撃がトカシボウを襲う。
(あの火力ハズレ本気だな)
トカシボウが焼けていく様を見てロードは思う。
(危険な奴だからなぁ、早々に決着をつけたい)
そう考えたハズレだったが豪火の中から軽くジャンプして炎の牢獄から抜け出すトカシボウ。
「「――――!!」」
ズンとハズレのいる場所にのしかかっていく。それをロードが間一髪のところで抱えて回避した。
「ロード、助かった」
「礼は後だ……」
ロードはトカシボウをよく観察していた。
「ボバアアアアアア!!」
無数の粒となった飛び散る唾液がロードとハズレに襲い掛かる。それは溶解性のある唾液。
ロードはすぐさま自分の足元にあった木の壁を持ち上げて、盾にして攻撃をやり過ごす。
守らなくていい範囲にも唾液が飛び散る。
この時、
(これが溶解唾か俺達の剣で受けるなら問題なさそうだな)
ハズレは金閣寺製の剣なら唾液ぐらいは受け切れると判断した。
「ハズレ……こいつフツーのトカシボウではないぞ」
木の盾を押し返したロードが言う。
「ん? どういうことだ?」
「木片の攻撃はあのブヨブヨした身体と肌で効果がないのはフツーのトカシボウと同じだ。唾も剣で触れても問題ないだろう。が、唾の量が多すぎる、それにいくら燃えない肌とは言え、ハズレの火力が全く通用しないのはおかしい。それにどこか俊敏だ。歯の力も強い」
「確かに……だったら」
「あれはこの異世界の環境で強く育っているトカシボウだ」




