第262話 子供の内なら生き方を変えられる
ロード、ハズレ、スワンはエミさんからとんでもない言葉を耳にした。
「魔王だって!」
ロードが驚きのあまり声に出す。
「はい、魔王フリフライ……ここ最近現れた魔物の中の王様……彼らは突然空から現れて街や国を襲い、全てを奪っていく。その魔王フリフライが先日この町にやって来て、食料も金品も人も、何もかも持って去って行ったのです」
「魔王がここにも」
小声でつぶやくスワン。
「やっぱりご存じでしたか……?」
「えっ!? まぁ」
「魔王フリフライ……魔物大図鑑に書いてあったか?」
ロードにもたれ掛かってくるハズレ。
「書いてなかった気がするが……だがオレたちが戦った魔王ゴワドーン……奴のような魔王がいるならばこの町をめちゃくちゃに木片の山に変えるのも容易いことだろう」
ロードは前の異世界で見たオーイワ国の惨状を思い返す。
「エミさん。空から魔王が現れるって言っていたが、その目で魔王を見たのか?」
ロードが訊いてみる。
「いえ、魔王らしき影は見ていません。というより魔王がそのまま飛んで現れるわけじゃなかったんです」
「?」
「魔王フリフライの乗る船、いいえ翼の生えた木馬がやって来るんです」
(木馬?)
「そして、その木馬が町を破壊して乗っていた魔物たちがフリフライの名のもとに奪いつくしました」
「この町にエミさんたち以外に人が居ないのか?」
「このご時世ですから……武器を持っていない人たちは、皆すぐに私たちの様に隠れるんです。その隠れ家のおかげでまだこの町にも多くの人が残っていると思います。町から逃げたり、連れ去られた人もいるでしょうけど……」
「その木馬がどの方向に去って行くのか見たか?」
ハズレが問う。
「いえ、私たちは怖くてずっと隠れていたので、事が終わるまでは、ギリギリ攻め入ってくるところまでは見ていましたけど……情報が少なくてすみません」
「エミさんたちが無事ならそれに越したことはない。気にしないで……」
励ますスワン。
そして、話を終えると立ち上がるエミさん。
「あ、あの皆さん。もし宜しければ……あの子たちと遊んでいただけませんか」
深くお辞儀をして頼み込んでくる。
「遊ぶ?」
スワンが訊き返す。
「はい、あの子たちここに集まるまで、悪い人たちばかり知ってしまっていて、将来真似をしてそんな人たちになって欲しくないんです。ですから皆さんのようないい人たちと関わって、こんな大人もいるんだなぁと知って欲しい。まだ素直な子供たちですから……いくらでも生き方を変えられると思うんです」
「そう言うことなら引き受けよう」
ロードが水を飲み干して立ち上がる。
「役に立てるのならやる」
スワンも水を飲み干して立ち上がる。
「子供は苦手なんだが、剣の稽古くらいならつけてもいいか……」
とっくに水を飲み干したハズレが立ち上がる。
「あ、ありがとうございます」
「そういえばロードの言ってた魔物は?」
「まぁ隠れ家に皆いるなら被害はないだろう休憩がてら魔物は後回しにしよう」
「魔物?」
エミさんの耳に入ったらしい。
「どうやらこの町に魔物がいるらしい」
「え!! 困ります!」
「大丈夫、私たちが後で何とかする」
「そうですか」
こうして魔物のことは一旦後回しにして、子供たちと遊ぶことにしたロードたちだった。
▼ ▼ ▼
蝋燭に灯る火が静かに蝋を溶かしていく。
「満腹になったお星さまは空から落ちてきて……」
スワンは3人の女の子たちと一組になり本を読み聞かせていた。
「それは食べられるキノコだ」
「あーたり」
「これはこれは?」
「食べられる」
「せいかーい」
ロードは子供たちとクイズを楽しんでいた。
「くっそー」
「どうした少年たちよ立つんだ。守るべきものがあるのなら立つんだ」
「絶対一発お見舞いするぞ」「おお」
3人の血気盛んな男の子たちに囲まれたハズレは木の棒による剣の稽古をつけていた。
そうして数10分過ごしていた頃。料理中のエミさんの耳にドタタタタと走ってくる足音が入る。
「――な、何!?」
「――エミちゃん!」
隠れ家に入って来たのはボロボロの服を着た男だった。
「イタラクさん? どうしたんですか?」
「済まねぇ……化け物がこの上に居て、やむなく近かったこの隠れ家に逃げて来たんだ」
「いいんですよー、それより怪我してる」
エミさんが男の腕を見てそう言う。
「何があった!」
ロードたち3人がすぐに駆け寄る。
「ロードさん!」
「――――!! おいアンタたちその剣、もしかして魔物狩り人か!?」
「そうだ」
「上でまだオレのダチがバケモノを何とか追い払おうとしているんだ! 助けてやってくれ!」
「分かった」
ロードは即答した。
「よし行こう」
ハズレが先に隠れ家の出口に向かう。
「あ、ありがいてて……」
スワンも去ったあとエミさんが怪我した男に向かって、
「す、直ぐ手当てします」
と言い薬草を怪我に張り付けて手当てしていた。
「…………」
そしてドタたちは茫然と出ていくロードたちを見送っていた。




