第261話 エミさんは尊敬できる
ロードたちはドタという少年に連れられて隠れ家にやって来ていた。
目的はタチクサ町に何があったのか訊きだす為。
空模様は灰色だった。曇天が大空を支配している。
先頭のドタが崩れた家の木材をかいくぐる。それに続いてロードたちも進んで行く。
「ここだよ」
ドタが地面に取り付けられた扉を開けようとしていた。
(ここが隠れ家か)
ギィっと開いていく地面の扉、周りは木片に囲まれて隠れ家の入り口が見えないようになっていた。
開くとその眼下には梯子が取り付けられていた。順番に下へと降りていく。そして小さな廊下を渡り、明かりのある部屋へと一足にドタが入って行った。
「エミねーちゃん帰ったぞ!」
帰って来るなり大声を出すドタ。
「ドタ……お帰りなさい。外は大丈夫だった……?」
くしゃくしゃのロング髪にエプロン姿の女性が答えた。どうやらスープを作っていたようで、煮込んでいる最中だったらしい。
「全然へーきへーき! それよりねーちゃんの客連れて来た」
「えっ……お客さん?」
「旅の者だ。失礼する」
ロードたち御一行が部屋の中へ入って来た。部屋を確認すると一人の大人の女性と数人の子供たちがいた。
「――――剣!!」
ロードの腰に携えられた剣を見た大人の女性が、
「みんな、わたしの後ろに!」
わぁぁァァァァァァッと駆け出す子供たち。
「何なんですかあなたたは、わたしたちをどうする気ですか!!」
剣を見たとたん血相を変える女性。
「怖いよぉぉ」「わぁーーん」
「お、落ち着いてくれ!」
ロードは害のない証として両手を上げる。
「そうだよねーちゃん。この人たちきっと悪い人たちじゃないぜ。ねーちゃんと同じこと言ってたんだ。人から物を取っちゃいけないってきっと何もしねーよ」
「……………………」
女性は落ち着いた顔でロードたちを見た。そして、
◆ ◆ ◆ ◆
木で作られたテーブルにコトッとコップが人数分置かれる。ロードたち、お客さんの分だ。
木で作られた椅子に座るロードたち。
「すみません勘違いしてしまって……」
「気にしなくていい」
ロードは落ち着いた声で言う。
「そうさ……突然、剣を持った連中が入ってきたら誰だって警戒するさ」
ハズレがフォローする。
「そうですか……あっこんなものしか出せなくてすみません」
「むしろ貴重な飲み水だと思うんだけど……頂いていいの?」
スワンが出されたコップに注がれた水を飲むのに躊躇する。
「いえいえとんでもない。ドタ君が皆さんに迷惑をかけてしまって……むしろこれはお詫びです」
慌てるエミねーちゃん。
「大丈夫だよ。もうしないって……」
「ドタ君ちゃんとごめんなさいしたの?」
「うっ……」
ドタは痛いところを突かれた。
「ご、ごめんなさい」
ぺこりとロードに向かって頭を下げる。
「ああ、これから気を付ければいい」
「うん」
これにて盗人事件は解決したのだった。
「それにしても私と同じような考え方をする人がいることに驚きました」
ストンと椅子に腰を下ろすエミさん。
「そんなに人から物を取るのが常識になっているのか?」
ハズレが訊く。
「はい、そうしなければ生活が苦しいという人が大多数ですから……でも、それではいけないと思うんです。奪い合いを続けてもこの世界は良くならない……皆で助け合っていかないと誰も信じられなくなって一人ぼっちになってしまう」
エミさんは部屋で遊んでいる数人の子供たちを見る。
「だからあの子たちには人から物を取る生き方ではなく、人に与えられる生き方を覚えて欲しいんです」
「感動した」
パチパチと拍手を送るロードだった。
「あの子たちはどうしてここに?」
スワンが割り込んでくる。
「皆……様々な事情で親が居なくなってしまった子たちです」
「そっか」
「エミさん一人で子守りは大変じゃないのか……?」
「ええまぁ、でも私も好きでやっていることです。いやではありません……昔私も親と離れてしまって寂しかったのです。とても……それで一人ぼっちでいる子供たちを集めてそんな悲しみを少しでも減らしてあげたいと思ったんです」
「素晴らしい人だ」
ロードは本気で尊敬のまなざしを向けていた。
「そんなことありませんよ」
ぶんぶんとトレイを持っていない手を振る。
「それで皆さんは、わたしにご用があるんでしたよね」
「聞きたいことがあるんだ」
ロードが本題に入る。
「聞きたいことですか?」
「ああ、どうしてこの町はこんなにも荒れた地になってしまったのか……?」
「数日前までドタ君はこうではないって言っていたけど……」
スワンが割って入る。
「はい、その通りです」
「その理由をキミは知っているのかい?」
ハズレがコップに注がれた水を飲みながら訊く。
そしてエミさんが話始める。
「皆さんはこんな噂を聞いたことはありませんか?」
「「「?」」」
「魔王フリフライがこの世界を奪いに来た」
「「「――!!」」」
エミさんの言葉に驚く一同だった。




