第260話 奪われると心が痛い
森からの出口。
ドルフィーナに乗るスワンはまだ顔を赤くしていた。
荷船を牽くドルフィーナ。
気まずそうに歩くロードとハズレ。
ロードはコンパスを頼りに先頭に立っていた。
しかしようやく森から出られて安堵した3人だった。
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森から出て道を歩くと何かしらの建物が見えて来た。
3人は人のいる町に辿り着いたと安堵していた。
しかし、彼らが目にした現実は非情だった。
「ここでいいよな? ゴソって言ってた人の町」
ロードのすぐ後ろからついて来ていたハズレが訊く。
「そのはずだ。これにもタチクサ町って書いてある」
目的地に着いたロードはコンパスを仕舞い込み、木で出来た立札を読む。
「けどこれ、、、人のいない町じゃないか? 人のいる町って聞いたはずなんだが、あのゴソって人のことだし……」
ハズレの言う通り町は崩壊していた。天井なき家、崩れた家、瓦礫と化した木造の家。
「スワン着いたぞ」
ロードが後ろを振り返る。
「う~~~~、熱い恥ずかしくて熱い!!」
精霊の術であろう延々と顔を洗うスワンの姿がそこにはあった。
「と、とにかく人がいないか見てみよう……」
ハズレが気まずい空気の中で取り仕切った。
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入り口のみとなった壁のない家を拝見するロード。
こちらも階段が崩れて先に進めなくなっている家を拝見するハズレ。
「「はぁ~~~~」」
二人は溜息をつきながら、何の収穫もなくスワンの方へと戻っていく。
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「二人とも勝手にいなくならないでってば!!」
再会してそうそう叫ぶスワン。
「「――!?」」
元の状態に戻ったスワンを見て、
「姫がお美しい顔に戻られた」
「せ、洗顔修行の成果だな」
ロードはわけのわからないことを口にした。
「変に気を遣わなくていいから! 思い出すだろ! あと洗顔修行ってなんだ!?」
その時、ロードの首に掛けられた裏切りの瞳に反応があった。
「――――!?」
「ロード瞳が光ってるぞ!!」
「何!? 魔物がいるってこと!?」
「そのようだ、この街に何かいる」
その時だった。タタタと走りくる小さな足音が聞こえて来た。
首に掛けていた。裏切りの瞳を手に持った瞬間を狙われたのだろう。子供はそれをひったくった。
「「「――――!!」」」
「へへへ、チョロいぜ」
逃げ出そうとしたロードは軽く7才くらいの少年の首根っこを掴んで宙に浮かせた。
「うわっ!!」
「悪い人の真似はするな」
ロードが少年に言う。
「わかった! 分かったから降ろせよ!」
じたばたする少年。降ろすロード。
黒く光り輝く裏切りの瞳は取り返された。
「この異世界は大人から子供まで盗人根性が染みついているようだな」
ハズレが感想を漏らす。
「だから何だよ」
怖い物知らずの少年が叫ぶ。
「人の物は盗んではいけない。もうしないな?」
ロードが優しく言いつける。
「皆やってるじゃないか、何がいけないんだよ!」
聞き分けのない少年。
「分からないか?」
問い返すロード。
「だからなんでなんだよ!!」
「痛いからだ」
「ハァ! バッカじゃねーの! 痛くなるわけないだろ!」
「身体はな。だけど心は違う」
ロードが座り込む子供の目線になって教える。
「キミのこの腕が取られたらどうだ? 痛いか?」
「ハァ! い、痛いに決まってるだろ!」
ロードは優しく少年の右手を持っていた。
「それと同じさ、どんなものでも、持って行かれたら同じくらい心も体も痛いんだ」
「……わ、わかったもうしない」
立ち上がる少年とロード。
「うん、それでいい。キミ名前は?」
「ドタ……」
一連のやり取りを見ていたスワンとハズレが頷き合い会話に入ろうとする。
「ではドタくん。キミはこの町に住んでいるのか?」
ハズレが質問する。
「そうだよ、それも隠れ家にね」
「隠れ家?」
「一人で住んでいるのか?」
ロードが訊き返す。
「ううん、皆で……」
この時、
(言っていいのか? ソレは隠れ家何だろう……?)
心の内で突っ込んでいた。
「ねぇ、この町こんなありさまだけど何があったのか知ってる?」
スワンが子供目線で訊く。
「良く知らないけどこの前こうなった。何かが来てすぐに隠れ家に行ったからわからない」
「そっか」
「数日前まで町だったのか?」
「うん……」
(何かがやって来たか……やはり魔物の仕業か?)
右手に持った裏切りの瞳を見ながら思案するロード。
「エミねーちゃんならオレより良く知っていると思う」
「エミねーちゃん?」
「オレたち一緒に皆で暮らしてるんだ……」
「そのエミねーちゃんに会わせてくれないか?」
ロードが提案する。
「いいよ、じゃあついて来て……」
ロードたちがドタについて行く。スワンはドルフィーナを指輪の形に戻し、隠者の指輪で荷船を隠すのだった。




