第257話 しびれお香
ダンジョンの中。
ベアラベと一戦交えた彼らは、
「さて、ダンジョンの奥には宝があるって話だったな……」
ハズレは最奥にあるであろうダンジョンの秘宝を狙っていた。
「何持っていくのハズレ……泥棒」
スワンがジトッとした目でハズレを見る。
「えっ!!」
「ダメだろハズレ……人様の物を持って行ったら」
ロードがジトッとした目でハズレを見る。
「さらに、えっ!! …………最奥に続く扉が目の前にあるのになぁ」
「――――うっ」
スワンがフラついた。
「スワンどうした?」
「ちょっと……身体がしびれてきて……」
そのまま膝から崩れ落ちる。
「大丈夫か? 肩貸そうか?」
「うっ……何だオレも身体がしびれてきて……」
ビリビリするハズレも膝を落とす。
「しびれ――うっ……」
しまいにはロードも身体にしびれを覚え膝を崩す。
3人とも立っていられなくなり、身体を伏せた状態になる。いわゆるうつ伏せだ。
「な、何だこれは……」
ハズレはしびれながらも口を動かす。
「あの魔物の……仕業? しびれて動けない」
身体を丸めているスワン。
「ベアラベにそんな能力はないはずだが……」
手足のしびれが止まらないロードが話す。
その時、大広間入り口付近から足音がしてこちらに近づいてきた。
「「「――――!?」」」
3人は足音の主を見た。
「お、お前は……」
それは他でもない3人をこのダンジョンに案内した物色男だった。
「まさか、あの魔物を倒すとはな……おかげで計画は狂ったが、ダンジョンの宝までの道も開かれた。感謝するぜガキ共」
「どういうことだ……」
ハズレが伏せたまま問う。
「このしびれはあなたの仕業?」
スワンが伏せたまま訊く。
「そうだ……この死体あさりゴソが作った特製、しびれお香効くだろう? これで一時間は動けないぞ」
ゴソと呼ぶ物色男が左手にお香を持っていた。それのせいでロードたちはしびれているのだ。
「なるほど……俺達が魔物に殺されなかったから、しびれさせてその隙に持ち物を持って行こうって訳か……ついでに言うとベアラベを倒したからダンジョンのお宝も横取りか」
ハズレが推理する。
「何罠だったってこと!」
「俺たちを魔物に殺させようとしただと……」
「へへへ、今更気づいてももう遅い……本当は死体からしか取らねーが、お前らはずいぶん珍しいものを持っているから特別に盗んでやる」
ロードに近づいていくゴソ。
「この世界の常識を教えてもらった授業料だと思えばいい」
ゴソの手がロードの青き剣に触れる。
「くっ……」
その時だった。
「グオオオオオオオ」
倒したはずのベアラベの咆哮が聞こえた。
「「「「――――!?」」」」
4人は驚いた。立ち上がるベアラベ。
「ぐいっ!!」
ゴソは歯を食いしばる。そして入り口に向けて逃げ出した。
「――くっそ、倒したんじゃなかったのか!!」
「おい待て!!」
ロードが叫ぶ。
「あのベアラベ、オレがいた世界の奴よりもタフだ」
「わたしたち動けない。まずい」
「ベアラベは動いているモノに反応する。死んだふりをしろ。そうすればこちらに近づいては来ない。問題は……」
ロードが提案してきた。しびれた身体なのでそれしか選択肢はない。
「グオオオオオオオオオオ!!」
「ぐひぃいいいいい!!」
その巨大な図体で入り口を封鎖したベアラベ。ゴソは逃げることが出来なくなっていた。
「く、クソーーーー食われてたまるか!! ホラあっちにいるぞ!! あいつら食っていいからあっち行け!!」
しびれお香で倒れているロードたちを指さして、涙声で吠えていた。
「ちょっと!」
「スワン喋るな、死んだふりでやり過ごせ」
「グオオオオオオ」
「なんでオレの方を狙ってくるんだよーーーー!!」
叫び散らすゴソ。
「グオオオオオオ」
動き逃げる者を追いかけるベアラベ。
「オイ!! こっちに走って来るんだ!!」
命を狙われているゴソにロードが指示を出した。
「――――!!」
「早く!!」
少し躊躇ったゴソだがロードの発言を聞き入れた。
「う、うわあああああああ」
ダダダと走ってくる。
「スワン! ベアラベを水で撹乱してくれ!」
「あの人を助ける気!?」
「無論だ! 何とかするから早く! やってくれ!」
「わ、分かった」
ロードの叫びにスワンは答えようとしていた。




