第234話 石像彫りのダン
オーイワ国・城下町。
ザァーーーーーーッと降りしきる雨の中をロードは走っていた。
バシャバシャと水たまりを踏みながら走っていた。
(スワンどこだ? どこへ行った?)
サッサッと屋根伝いにジャンプしていく。そして塔のような場所に辿り着く。そこから街が一望できたので、スワンを探していた。
(スワンを追っていた魔物)
(他の魔物に指示を出していた)
(魔物の大群に襲われているのかもしれない)
(今度は騒ぎの大きい所を探すか)
カンカンカンと僅かにも小さな音が聞こえて来た。
「!? 何だこの打ち付ける音……」
ロードは周囲を見渡して目星を付けた。
「あそこか――」
そこは何かの建設作業場のように見えた。
ロードは遠くにあるそこへ屋根伝いにジャンプして、高さ数百メートルもある作業場のてっ辺にまで登って行った。
カンカンと彫刻を打ち付ける者がいた。
(――!! 人!?)
ロードはその男性に近づいていった。
「何をしているんだ!! 早くここから逃げた方がいいぞ!!」
ロードが忠告した。
「なぁ、部外者が勝手に人の作っているモノに上がってこないでくれ」
「うっ済まない――――じゃなくて下では戦闘が始まっているこの期に乗じて避難してくれ!」
「オレには関係ない……」
男性は彫刻をカンカンと打ち付ける。
「あなたもここで強制労働させられているんじゃないか? 今なら逃げられるぞ……」
「ダメだ、オレにはやることがある。この像を魔王の言われた通りに作る……それが終わるまでオレはここから動かない。ここなら魔物も近づいてくることもない。それだけ魔王にとっても重要な像なんだ。逃げだしたら誰かの命もないしな」
男は雨の降りしきる中でも石像を彫ることを辞めなかった。
「もしかして石像彫りのダンさんか?」
「そうだ」
男は肯定した。
「魔王のことなら心配いらないオレたちが今日中に決着をつける! もうすぐ戦場で勝利した連合軍が攻めてくる。そうすれば……オーイワは取り戻せる。だからもう魔王の言うことを聞く必要はない!」
ロードは避難するよう勧めた。
「ここは動かない」
ダンは石像彫りを辞めない。
「いや、逃げるべきだ……」
「もし、もし逃げたとして、戦いが失敗に終わったら? 逃げ出した俺たちはどうなる? 全員死ぬんだ……」
「つまり今逃げ出している人は……」
「いや、それは心配いらない」
「?」
「オレが逃げ出さなければ殺されない。魔王はオレにこの像を作ってもらいたがってるんだ」
「気に入られているらしいということか? どうしてあなたが……」
「オーイワが奴らに乗っ取られて次の日、まだ町は破壊されて土煙が晴れていなかった時だ」
ダンはその日のことを思い出していた。
「魔王は破壊の限りを尽くした……地面も、家も、壁も、城も、岩石も、壊して壊して、まるで組み立てられた積み木を一気に崩すように、楽しささえ感じられる壊し方だった。そして奴は俺たち人間にこう言った。オレの壊せないものを持って来いと、持って来られたらお前たちを生かしておいてやると……」
「…………」
静かに話を聞くロード。
「めちゃくちゃだ。壁も城も破壊するような奴に壊せないものなんてあるわけがない……それでも皆必死でかき集めて、全部壊された」
「だがあなたは違った?」
「そうだ。オレは大急ぎで奴の石像を彫り上げた。そして奴の前に持って行った。奴は言った。これはいいモノだ壊すには惜しいと……そして皆の命はとりあえず助かった。それから奴は、この国にその像と同じものを城よりも大きく、人間たちの服従の証として建てるように、オレに行って来た……そうすればむやみに人間を殺さず……自分の支配下として生かそうと約束した。だから俺が約束を破らなければ誰も死なない。だからここは動かない」
「オレたちが魔王を倒すとは信じてくれないのか?」
「無理だ。誰も勝てやしない……あんたも死にたくなかったら、やめておいた方がいい。命は壊れたら……治せないんだからな……」
「決めつけないでくれ。俺たちは決死の覚悟でここに来たんだ。そうやすやすと死ぬわけにも。逃げるわけにも――――」
「アレを見ていないから、そんなことが言えるんだ。あの化け物が人を家を城をぶっ壊していく様を見ていないからだ。見ればわかる。アレはもうオレたちの知る魔物じゃない」
ダンが初めてロードに目を合わせる。
「人間が戦えるような魔物じゃないだ。この世界を支配する魔王だ」
◆ ◆ ◆ ◆
ザァーーッと降りしきる雨の中、ビシャーーンと雷まで落ちてきていた。
オーイワ城・玉座の間。
魔王ゴワドーンが座っていた。
そして玉座の間の扉がドオーーンと蹴破られた。
入り口に立っていたのは最強の男グレイドだった。
「魔王様、失礼ながら急な訪問お許しください。貴方様に謁見したく参上しました」
グレイドが玉座の間に入ってくる。
「何用だ? 人間、申してみろ……」
「いえいえ、偉大なる魔王であらせられる、おん方に今よりお越しにされている玉座より、その身に相応しい場所に落ち着かれてはいかがかと思いましてね……」
「ほう……その場所とは?」
「王墓」
グレイドが両手に構えた剣を青く光らせた。
そして、タッと魔王に向かって走り出す。
「一撃入魂!!」
必殺の一撃を魔王の腹部に見事食らわせた。
「ぬううう」
「まぁ安らぐ魂が残っていたらの話だが……」
グレイドの左目も青く染まる。




