第221話 ハズレの腕前
ハズレは塔内でタテトルを倒すための準備をしていた。
「はぁ……はぁ……はぁ……」
もうハズレの体力は限界に近づいていた。
「追い詰めたぞ……うさぎ」
不気味にゆがむ声が背後からして来た。
「……………………」
息をすることも忘れてしまう緊張感がハズレを支配していた。
「ここで殺す」
扉から塔内に入って来たタテトルが言った。
少しづつハズレとの距離を縮めていく。
「待て分かった降参する。ロードの居場所を教えるよ」
その時、ハズレは何の抵抗もしないよう敵に知らしめるため、炎の剣をタテトルの後ろの方、目がけて投げる。
「聞いてやるどこだ?」
タテトルはその場で止まった。
「ここにいる……オレと一緒に……」
ハズレが見せたのは腕輪だった。正確には腕輪に通された黄色い指輪だった。
「そうか……そこか……では、死ね――大甲――」
その時タテトルが止まった。何故ならハズレが自分の後ろを左手人差し指で差していたからだ。
急いで構えを解きそちらを見るタテトル。
その隙にハズレは頑丈な箱に身体を隠し入れた。
ハズレが放った炎の剣が火薬の詰まった箱に突き刺さる。そして――
ドオン!! ドドドオン!! ドドン!! 塔内で連続的に爆発が起きた。
「ぬう――――!!」
爆発の中、何とか塔の扉から出たタテトル。
「オレごと生き埋めにするつもりだったのか……食えん奴め――」
その時、爆発する塔を最後まで見届けようとしたタテトルは信じられないものを見た。
「なっ!!!!」
塔がタテトルのいる方向へ倒れて来たのだった。
ズズズズン!! と塔が倒れていく。その音は城にいる全ての者の耳に入った。
◆ ◆ ◆ ◆
「何だ今の音は……?」
ブースタードが言う。
◆ ◆ ◆ ◆
「今度はなんじゃ」「魔王じゃ、きっと飛んできたんじゃ!!」「王よ、外を覗いてはなりません」
隠れていた大臣たちが言う。
「じ、地震!?」
メルクエム王が発言する。
◆ ◆ ◆ ◆
「無事なのか若き戦士」
ゲンガ戦士長が呟いた。
◆ ◆ ◆ ◆
爆発を終えた塔はシューシューと煙を上げる。
「動けないだろう……わざわざ指を差してまで教えたのは、お前に外に出てもらう為さ。塔を倒す方向は計算した。共に生き埋めになんて思ったのかい? おあいにくさま。最後まで戦うと決めたんだ。とどめはしっかりオレが刺す」
ハズレはザッザッと塔の下敷きになったタテトルに近づいていった。炎の剣を持って近づいていった。右手には発火性のオイルが入った瓶を持っていた。
「ハ、ハア、ハハハ、これで勝ったと思うなよオレはしょせんゴワドーン様の盾にすぎん……」
タテトルは塔の下敷きになって全く動けないでいた。それこそがハズレの狙い。
「あの方は秘宝玉を持っている! お前たち持っていない人間が敵う道理はないのだ!」
発火性のオイルを掛けられながらも、いっぱしの威勢を見せるタテトル。
「貧弱者共が思い知れ! 我らに恐怖しろ!」
炎の剣がオイルに接触した。そしてタテトルの身体は燃やされていった。
「ゴワドーン様バンザーイ!! ゴワドーン様バンザーイ!!」
ハズレは立ち去ろうとした。
「オオ、オオオオオ、ゴワドーン様あああ!! アアアオオオオオオオ!!」
ザッザッとその場から立ち去った。タテトルはもう助からない状況でも魔王に忠誠を誓っていた。
(やはり魔王も持っているのか……予想はしていた……単騎で城を落とすヤツだ。ありえなくはない)
「ドルフィーナ出てきてくれ」
その発言に応じて指輪が水で出来たイルカの姿に変わる。
「クパパパパパパパ」
精霊であるドルフィーナに跨るハズレ。
「頼む、オレをロードたちのところまで乗せて行ってくれ!」
その言葉を聞いてドルフィーナが宙を泳いでいく。
「――――!!」
ハズレは前方に魔物狩り達の姿を発見した。
「ハズレ!? お前タテトルはどうなった?」
ブースタードが訊いてくる。
「倒しましたよ! それではオーイワに行ってきます!」
ドルフィーナが魔物狩り達の上を跳び越えた。
「あっ! オイ! 待てハズレ!」
ハズレは行ってしまった。
「タテトルを倒しただって?」「すげーぞソイツは!」「アイツ臆病者じゃなかったのか?」
魔物狩り達が話し込む。
「まったく……一皮むけたと思えば勝手に動きやがって、礼を言うのは後回しだな」
ブースタードがホッとした顔で呟いた。
◆ ◆ ◆ ◆
メルクエム国・中央地から林道。
ドルフィーナに乗ったハズレは考え事をしていた。
(魔王に秘宝玉がある以上待機している場合じゃない)
(行かなくては、教えなくては……)
(ロード、スワン一緒に戦おう)
(最後まで……)
ハズレは羽根帽子を押さえながらオーイワを目指す。




