第220話 逃げ出す者
メルクエム城・外広場。
時刻は14時頃。
「オオオ……」
一体のバリスガオが霧散するところだった。
「ゲンガ戦士長、全バリスガオ掃討いたしました」
協力して魔物を討った戦士が答える。
「うむ、疲れているだろうが……第三波ゲンガ隊はこれより戦場へ――」
ゲンガ戦士長が言いかけたときだった。
ドオーンと何かが上から落ちて来た。
「――――!!」
「ぐう……うう……」
「アレはタテトル!?」
びびる戦士軍。
「うろたえるな! 皆で戦えば勝てる!」
ゲンガ戦士長がそう言う。
「鈍器を持て!」「奴は相当疲れているみたいだぞ!」「チャンスかもしれない」
戦士軍が剣から鈍器に武器を変えていった。
「よし! かかれ!」
「――やめろそいつに近づくな!」
息も整っていないハズレが戦士軍を止めようとした。
「――――!!」
ゲンガ戦士長が止まった。
「アレはオレに任せてくれ! 戦士さんたちは予定通りでいい」
「しかし相手はあのタテトルだぞ!! 一人よりみんなで――」
「貧弱者共がああああああああ!! 旋風大甲悔!!」
タテトルが攻撃パターンを変えた。甲羅に納めていた腕を伸ばしながら回転することで爪が刃となってあらゆるものを切り裂く大回転を起こした。
「わああああ!!」「うわああああああ!!」「ぐわああああああ!!」
巻き込まれた戦士たちは胴体を切断されていく。一気に8名ほどの戦士が血を巻き散らせた。
「――――なっ!?」
ゲンガ戦士長にもその刃が届くかに見えた。
その時またハズレが爆発を起こしタテトルを吹き飛ばした。
「今の見ただろ……魔物狩りじゃないアンタたちじゃ死ぬ」
「くっ、協力できることはないのか?」
「だったらどこか崩れそうな塔はないか? 大きな岩が飛んできて崩れそうな塔」
「それならば北の方にあるが……それがどうした?」
「いや作戦が合ってさ。ありがとうもう行ってくれ」
「分かった……ゲンガ隊はこの場を離れるついて来い!」
「「「は、はい」」」
ゲンガ戦士長と複数の戦士がその場を離れて行く。
「貧弱者が逃げている……なのに何故お前は逃げんのだあああああ!!」
タテトルが叫ぶ。
「俺から逃げるお前にはわかるはずもないことさ……」
そのハズレの一言に、左目をギンと眼力を持たせた。
「逃げるだと? 誰が? オレは無敵のタテトル!! 逃げるのはお前だああああああああ!!」
先ほどと同じく腕を伸ばした爪の刃は回転を軸に切り裂いていく。
ガガガガガガガガガガガガがと地面を削っていく。
ハズレはその攻撃を普通に走って避けた。
「逃げたなぁ!! どうだぁ!! 恐ろしいか!! この俺が!!」
ズバババババと避けた先の木々を切り裂いていくタテトル。
ギュウオオオオオオオオオオオオオ!! っと迫ってきて、ハズレはしゃがみ込んで刃の攻撃を躱す。
避けた先の城の壁に刃が当たって切り込みを入れていくタテトル。
ズドドドドドドドドドドドドドドと城が崩れる攻撃でもあった。
ダダダダっと走っていくハズレ。その時、真横の壁に亀裂が入りタテトルが大回転しながら飛び込んでいた。
(そうだ……ついて来い……)
間一髪後ろへ跳んで躱すハズレ。
ズズズズンと建物が倒壊していく。
「――――うっ!?」
時にハズレはその残骸である瓦礫に右肩をぶつけた。
その隙に背後から迫る大回転中のタテトル。ハズレの胴体を切り裂こうとしていた。
ハズレは音を聞き洩らさず、ジャンプして躱した。
しかし、空中に逃げ込んだことで落下時の所を狙われた。
だが、ハズレは壁に剣を突き刺そうとしてズガガっと落ちていき、タテトルは落下の予測地点からずれた。その為刃を持った大回転は躱された。
「ぬうう、飛び跳ねおって、イライラするうさぎだ!!」
(そうさそうやって、冷静さを欠いて、こっちの狙いから遠ざかってくれ)
「お前だけは絶対に逃がさん!!」
タテトルはハズレを追いかける。その時ハズレは見つけた崩れかけている塔を……
「死ね!!」
しかし、タテトルの追撃は終わらない。真正面から縦回転をするタテトルだった。
ハズレは負傷した右手から何とか火薬玉を取り出し投げて、左手に握っていた炎の剣に当てる。
すると大爆発を起こして両者ともに吹っ飛ばされて行った。そしてハズレが吹き飛ばされた先は、狙い通りの崩れかけた塔だった。扉を開けてその中に入り込む。そこは武器庫の様だった。
(今の内に準備だ)
(火薬と人が入れる箱が欲しい)
ハズレは今か今かと出てくるタテトルに恐れながらもある準備を進めていた。




