第203話 到着、メルクエム国
オーイワ国・中央地。
夜中だというのにカンカンカンという金属音が響いていた。
それは建築物というにはあまりにも高かった。
何かを作っているには違いないのだが、梯子や板に阻まれてその全貌を薄くしか見ることは出来ない。
「何だって!! アイツらがバカデカテに!?」「ああ、どうやら反乱を起こして……」「それに便乗した連中も公開処刑されるんだ!!」「くっそ!! アイツらめ!!」
とある男たちが起こそうとした反乱はここまで伝わっていた。
「ダンさんはどこに……」
噂を持ち掛けた男が訊いていた。
「上だよ!! だが言うなよ!!」
「えっ?」
「今あの人に言ったら責任感じてぶっ倒れちまう」
「あの人は俺たちの唯一の生命線なんだ」
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オーイワ国・中央地・巨大建築物の天辺。
カン、カカン、カカカン、カン、と甲高い音を鳴らせるとある男がいた。
「もうすぐだ。こいつを、こいつを完成させれば皆助かる」
この男は石像彫りのダンという名前だった。
◆ ◆ ◆ ◆
メルクエム国・中央地。
ロード一行はとうとうメルクエム国までやって来ていた。
ゲンガ戦士長のおかげで、すんなり検問を突破して、ここまで来られた。
「この先を行くといい、魔物狩り達の宿泊施設になっているはずだ」
ゲンガ戦士長が城下町の方を指さした。その先には大きな城がある。
「どうもありがとうございます」
ロードが礼儀正しくお辞儀をする。
「それでは我らはここで別れる」
「また戦場で会いましょう」
「うむ」
ゲンガ戦士長がそう言うと馬に跨り急いでジャリオスト戦士軍の先頭へ向かい戦士たちを率いていく。
「行こう。長旅で疲れちゃった」
スワンが言って来た。
「ああ」
ロードが同意する。
「ドルちゃん出発して!」
「クパパパパパパパパパパパパパパ」
ドルフィーナという精霊が空中を泳ぎながら、ロードとハズレの乗る荷船を牽いて、速度早く動いていく。
「すっかり夜だな……こんな時間に宿に入れてくれるだろうか……?」
ロードが夜空を見上げながら言う。
「その為にゲンガさんが戦士の腕章を預けてくれたんじゃないか……大丈夫さ」
ハズレは心配なさげに言う。
「ところでこの異世界に詳しいハズレさん。この国はどういうところ?」
スワンがドルちゃんに跨りながら振り返って訊いてくる。
「国民がいい人たちが多いって聞いている。全体的に親切な国なのさ……」
「いい国じゃないか……」
ロードが感想を漏らす。
「他には特徴的なところはないの?」
「活気にあふれてる。やる気にあふれている」
ハズレが手短に話す。
「何ソレ、そうなんだ……」
スワンは街の人たちをイメージする。
「スワンの考えてる想像とは違うさ。言った通り何かをやろうと思えば皆が一丸となって、それに向かって何かをするということ……この国の戦士長ミンドさんは弱者に優しく、情に厚い実力派なんだ。戦士たちはその人に影響されている。それが国民にも表れているんだ」
「そっか……」
スワンはなにげなく答えた。
「着いたんじゃないか? ゲンガさんの言っていた。剣と盾のシンボルマークのある宿泊施設」
ロードが店構えを見て確信する。
「ええ、さぁ入りましょう」
スワンがドルちゃんから降りて指輪に戻し、隠者の指輪で荷船を隠していく。
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メルクエム国・中央地・宿泊施設。
3人は受付に着いた。
着いてそうそう受付にゲンガ戦士長の腕章を見せてみた。
受付の人は髪を真ん中分けにしたお兄さんだった。
「これはこれは、ゲンガ戦士長のご紹介ですか? すぐにお部屋を用意いたしますでしばしお待ちを……その間こちらの書類に署名を……」
ハズレが書類を取って読んだ。
「一部屋金貨1枚か……男性用の部屋と女性用の部屋に分かれているな……」
ハズレが読んだ内容を二人に簡潔に説明した。
「えっ? 何? 部屋が別れてるの?」
「当たり前だろ……女性と一緒の部屋で一晩過ごせるか……」
「えっどういうことだ?」
「ロードはまだ知らなくていいぞ」
ハズレの言っている意味が分からなかったのはロードがまだ子供だからである。
「お待たせしました……こちら女性用、こちら男性用の鍵で――――」
「一緒の部屋でいい」
スワンが驚くべき言葉を発した。
「うえ!?」
ハズレは変な声を上げた。
「あ~~その~~そうしてあげたいのは山々なのですが……ここは男性と女性が分かれて止まる宿泊施設でして……」
「各部屋ベット一つきりだぞ?」
ハズレが言う。
「ちょっとハズレは黙ってて、わたしたちは絶望的にお金がないの! 本当ならこんな豪華な宿泊施設にだって止まれやしないし、ゲンガさんにだって一部屋で泊まれるって聞いたからここへ来た。なのにそのお客様をないがしろにするの?」
「いいえ、わたくしもそこまでのことは……いたしませんが……金貨1枚で一部屋借りたいということでしょうか?」
「じゃあ一部屋貸してください」
スワンが強引に言いきった。
「一応特例として貧困者は男女共同でもいいとここに書いてありますが……」
ハズレが書類に目を通して、スワンのフォローに入った。
「……わかりました。一部屋にしましょう。ただしどのような部屋でもベットは一つきりだとお伝えします。それからくれぐれも間違いのないようお願い申し上げます」
そう言って一本のカギを預かり、三人は一部屋を目指す。
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宿泊施設の廊下。
「スワン……何でお金がないって嘘をついたんだ?」
「別に……」
「オレのサポートがなければ一緒の部屋にはなれなかったぞ」
「だって、一人部屋なんて寂しいじゃん」
スワンは頬を赤らめて、ほっぺたをぷく~~っと膨らませてロードとハズレに白状した。
「「赤くなるなよ可愛いじゃないか」」
ロードとハズレは声をそろえて言っていた。




