第200話 もはや大勢は決まっていた
ロードの最初の一撃を食らったタテトルは、反撃の突撃でロードを抹殺にかかったが、スワンの生み出した水の腕に掴まれて、その突撃を阻まれた。
その時、
(これは精霊の術……あの女か? 人間がどうして精霊の術を使える? どういうことだ)
タテトルは考察していた。
しかし答えは出ない。
(こうしていたら窒息死するか抜け出さなくては……)
タテトルは水の手の中でゴボボボと息を漏らしていたが、行動に出た。
「大甲回!!」
タテトルは水の手の中で回転した。するとバシャンと水の手が巻き散らかされた。
「――――!?」
スワンは驚いた。
(空気中の水素を使ったとはいえ相当量の水を用意したのに……水風船がはじけるように一瞬でその呪縛から解かれた)
こいつはヤバい魔物だと思っていた。
「ロード無事か?」
その時ハズレがロードの元へ駆け寄ってきた。
「力を使いすぎた……はぁ……かなり不味い……はぁ……」
ロードは立っているのもやっとだった。
「アイツはオレとスワンに任せてくれ」
ハズレが言った直後――魔物タテトルの方を見ると、
「死ね!! 女ぁ!!」
タテトルが大甲弾の体勢になって突撃していたところだった。
「――――!!」
その向かってくるスピードの驚いたスワン。
「「――――スワン!!」」
ロードとハズレは叫んだ。ロードは動こうにも動けない。ハズレは向かうが間に合わない。
大甲弾の攻撃が、スワンに迫る。
その時だった。スワンの姿が消えた。
「――――――!? 消えた!!」
驚いたのは突撃したタテトルの方だった。
そして、タテトルの方へゲンガ戦士長が会心の一撃を与える。それは突き。
「ぬううう!!」
タテトルがその勢いに吹っ飛ばされた。しかし、
「利かんわ!!」
両腕の爪で飛ばされる勢いをガッガガと止め、大甲弾の格好から普通の格好へと戻るのであった。
「ダメか……」
ゲンガ戦士長の剣による突きでも、その腹には傷すらつけられなかった。
「――――!!」
タテトルは一群の士気を取る将として周りを見た。
「あああああああ!!」「ぐわああああ!!」「うわあああああ!!」
人間の戦士たちに、斬られ、突かれ、両断される魔物たち。
「――タテトル様!! 我が隊が!!」
下っ端の魔物がタテトルに報告していた。
「――――先の双剣の剣士の攻撃によって大勢は決まったか……おのれ人間どもめ……引かせろ!!」
タテトルは一群の将として判断した。
「タテトル隊!! 引けーーーー!!」「撤退だ撤退!!」「撤退の命令だ引けーー!!」
魔物たちが続々とその場から引いていく。戦いは終わったようだった。
「顔は覚えた……」
タテトルがハズレの隣にいるロードを見た。
「忘れるな……お前だけは俺が必ず殺す」
引いていく魔物たちを尻目にタテトルも大甲弾の体勢を持って、尻尾を振り回し撤退していった。
その場は何とか切り抜けた。
「はぁ~~~~」
ロードがその場に剣を突き立て身体を支えた。
「退散したようだな」
ハズレが言った。
「はぁ……はぁ……はぁ……」
ロードの息は限界の証拠だった。
「ロード大丈夫!? 怪我はない?」
スワンの声が聞こえて来た。
「ああ、ない――――!?」
スワンの声がした方を見ると水の鳥が浮いていた。
「何だいこれ?」
ハズレも疑問を口にした。
「二人にはまだ見せていなかったね……これは精霊の術の中でも極めて凄い力、水雲鳥って言うの……」
「水雲鳥……」
ロードが繰り返した。
そして、ゲンガ戦士長が近づいてきた。
「貴君らは何者だ?」
尋ねられた。
「オレたちは魔物狩りさ、旅の途中通りかかってあなたたちに手を貸したんだ」
フラフラのロードを担ぎながらハズレが答える。
「ゲンガ戦士長ご無事ですか?」「魔物たちへの追撃はどうします?」
戦士たちが訊いてくる。
「もういい……我らのは別件があることを忘れるな!!」
「「はい!!」」
二人の戦士がさがった。
「そう言えば名乗っていなかったな……魔物狩り達とやら我はジャリオスト国の戦士長ゲンガ、この隊の長を請け負っている。貴君らのは命を救われたな礼を言う」
「オレは何も助けたのはこのロードなので……」
ハズレに担がれたロードはかなりの体力を消耗していた。
「随分疲れているようだな、貴君らはこれからどうする?」
「メルクエム国の魔物狩り連合に参加しに行く途中なので……」
「では、我らと行き先は同じ皆の傷をいやし共に出発してはどうだろう? メルクエムの検問も楽に通れるはずだ」
「――!?」
ハズレにとって願ってもない提案だった。
(オーイワ国の周辺国が手を取りあって魔王と戦っているのは事実みたいだなぁ)
「ロードいいよな?」
念のためロードに確認を取るハズレ。
「ああ」
「では、そうします」
ゲンガ戦士長の提案に乗る3人だった。




