第192話 オレの血肉となって生きていく
ロードは涙ぐみながら横たわるディホースの横で神に祈っていた。
(神様!! どうかどうかディホースを救ってください。その為ならオレ何でもしますから……)
ロードはディホースの傷口に手をかざした。
(オレの生命力よ!! ディホースの命をつなぎとめてくれ!!)
ロードが取った行動はかつてアカを救った光の力であったが、無くなってしまった腰から足にかけてはどうしようもない。さらにロードの体力の限界もあってか、その行いをするたびに意識が遠のいていく。
(流れ出る血すら止められない)
ロードは自分の持っていた竜封じの剣を見て決断しなくてはならなかった。
(これは、許される行いなのだろうか……馬を自らの手で殺して食べるだなんて……)
ロードにはまだその覚悟が出来なかった。
「出来ない、ディホースを殺せるわけがないだろう」
ロードは竜封じの剣を置いた。
「ヒ、ヒーン」
「男でも覚悟が出来ないことだってあるんだ」
「ヒ、ヒーン」
「いやだ!! 食べたらもう引き返せなくなってしまう!! その味からそれが身体の為に大事なことだということが!!」
「ヒ、ヒーン」
「――――うっ!? しかし植物は生きていると言っても痛覚や意識はない!! だがお前は違う!!」
「ヒ、ヒーン」
「――――勇者?」
「ヒ、ヒーン」
「レースが楽しかったってなんだよ!!」
「ヒ、ヒーン」
「いい主に恵まれたってなんだよ!!」
「ヒ、ヒーン」
「生まれてきてよかったってなんだよ!!」
「ヒ、ヒーン」
「食べてくれてありがとうってなんだよ!!」
ロードの目からは涙が溢れていた。
(どうにかしたい。この状況を、助けたいディホースを、でも、助けたとしても足を失っている立つことすら出来やしない。そして生き延びさせてもオレは気絶してあのフレアザーズ兄弟にディホースは食われてしまうだろう)
何とかならないか頭をフル回転させたが、答えは一つにしか絞られなかった。それでも、
「いやだ!! 食べたくない!! 豚さんや牛さんも食べたくない!! 命を大事にしたいんだ!! 皆皆オレが守りたいんだ!!」
ロードはディホースに訴えた。しかし現実は非常だった。
「ヒーン」
とうとうディホースは危篤状態に入った。生死の境に入ったのだった。
「ダメだ!! ディホース目を開けるんだ!! 死んじゃいけない!! また走りたいだろう!! オレがおぶってでも走らせてやるから!! だから!! だから!! 死なないでくれ!!」
ロードはありったけの力をディホースに分け与えていた。しかしそれは無駄だとすぐに思い知る。
「ヒーン」
その一言を最後にディホースは息を引き取った。
「ディホース……」
ロードは泣いていた。
初めてディホースと出会った頃を思い出していた。
(名前はディホースだ)
(じゃあお前がオレを振り落としたら自由にしてやる。どこへなりとも逃げるがいいさ)
(二日間耐えたぞ、これで一緒にレースに出てくれるな)
(行け!! ディホース先頭に出ろ!!)
(頑張ったで賞か……優勝したかったな)
(さぁレースも終わったし、約束通りディホースお前は自由の身だどこへなりとも行ってくれ)
(えっオレたちの旅へ付いて行きたいって?)
(これからもよろしくなディホース)
ロードは地面を殴りつけた。
「最後の言葉が覚悟を決めろよ……か。そんな言葉にさせてしまって済まない。分かったよディホース、オレお前を食べることにするよ」
ロードは置いてあった竜封じの剣で死んでしまったディホースのお腹を裂き馬刺しとした。
「これがお前の望みなんだよな? 有り難く食べて魔物たちを倒してやるからな.。いただきます」
礼節を持ったロードは一切れサイズになっていった馬刺しを一つ一つ味わって食べていった。
「おいしいよディホース」
ロードは次々馬刺しを食べていく。
「お前の意思は確かに受け取った。あとはオレに任せてくれ」
最後の馬刺しを食べた。
「今までありがとうディホース、これからはお前の主として恥ずかしくない生き方をするよ」
ロードはディホースの血肉をモグモグと咀嚼していった。
「フレアザーズ兄弟……お前たちを倒すのはディホースの力を持った勇者ロードだ」
ロードは立ち上がってその場を後にした。向かう先はハズレの元。
「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」
その時、ロードが吠えた。凄まじい雄叫びがハズレだけでなくフレアザーズ兄弟にまで伝わった。
「ハズレ!! よく持ちこたえた。ここから先はオレとディホースの力で相手をする!!」
ついにロードは血肉を口にして万全の状態で魔物たちと対峙するのだった。
「行くぞ!! ディホースお前の血肉はオレの中で生き続ける!!」