第190話 飢えに飢え狙われたディホース
ロードの窮地を救ったのはディホースだった。
「ヒヒ―ン!!」
「心配したか……済まないすぐに片付ける」
フラフラになりながらもロードはディホースの前へ出る。
「うぐぅ……い、痛い……お兄ちゃん何が起き――――っ!?」
ディホースに蹴り飛ばされたフレアザーズ弟が気付いた。自分を蹴り飛ばした者の正体に、
「おお、おおう、なんて上物の馬だ……食い応えがありそうだ!!」
フレアザーズ兄が目の色を輝かせていた。
その時、
(まずい――あいつらの狙いが変わる)
気づいたのはハズレだった。そして、
「ロードォ!! 今すぐディホースに乗って逃げろ!! アイツらは馬が大好物なんだ!! ディホースを狙ってくるぞ!!」
ハズレは夜中の街中で叫んでいた。
街に住んでいる人たちはもうとっくに避難していた。シルバー勢の魔物狩り達も酒を取りに行ってここには居ない。
「――――ディホースが狙われる!?」
今度のロードはしっかりとハズレの意見を耳に貸す。
「ヒヒ―ン!!」
飛び出してきたのはフレアザーズ兄だった。
「グオオオオオオオオオオオオ!!」
今にもディホースを食いちらかさんとする、その大口を開けて飛び出してきていた。
「ディホース下がれ!! ここはオレが対処する!!」
竜封じの剣を構えて、飛び出してきたフレアザーズ兄にカウンターの一撃を加えようとする。しかし、
竜封じの剣との接触前に、フレアザーズ兄は上に跳び壁にジャンプした。この時ロードとディホースの目線は、フレアザーズ兄にあった。
「――――弟!!」
その時、
(――そうか!! こいつは囮、本命はフレアザーズ弟の方!!)
ロードのこの読みは正しかった。現にフレアザーズ弟が大口を開けて、ディホースに突っ込んできていた。
しかし、ロードの読みはまだ甘い。これも囮となりえることを考えていなかった。
「お兄ちゃん!! 半分は残しておいてくれ!!」
この一言で、前に出ていたロードは後ろの壁にへばり付いていたはずのフレアザーズ兄を見た。
「――分かっている!!」
大口を開けたフレアザーズ兄が迫っていた。そして、ディホースがその大口に捕らえられる瞬間――
「ヒヒ―ン!!」
ディホースのお尻に石がぶつけられた。そうするとディホースは驚いて駆けだした。
「――そのまま逃げろ!! ディホース!!」
石を投げた張本人であるハズレがディホースを逃がそうとしていた。
「ヒヒーン!!」
ディホースはオスらしく鳴いて見せた。まるで自分も戦いに参加するかのようなまなこをハズレに向けていた。
「――大丈夫だ!! ディホースもお前もオレが守って見せる!!」
ロードは7メートルの大剣から元の竜封じの剣に戻った剣を構えていた。
「「じゃあ同時に突っ込んだらどうなる!!」」
フレアザーズ兄弟はロードとディホースの間にいた。しかもどちらも壁にへばり付き立体的な距離では2メートルの差しかない。どちらかが動けば食われる状況にあった。そして、
「「――ファイアージェット!!」」
フレアザーズ兄弟が同時にディホース目がけて突っ込んだ。
それはロードにとって最悪の結末を辿る一手だった。すかさず正面にいたフレアザーズ弟を地面の砂を蹴ることで目くらましとし、続くフレアザーズ兄を小さくなってしまった竜封じの剣でいなそうとする。
カキンと牙と剣のこすれる音がして、どうにかやり過ごせたのだが、
しかし、まさしく最悪の一手……フレアザーズ弟は鼻に刺す臭いを追ってディホースの位置を完全に捉えていた。
ディホースは大きく開いた口に向かって後ろ蹴りを放ったのだが、
「――――よせ!!」
ハズレの叫びも空しく。ディホースは蹴りの態勢を止めなかった。
ガブリ――――薄気味悪いくらいぬめっとした音が夜の街中に響き渡った。
ここで、ディホースの腰から後ろはフレアザーズ弟に食べられてしまった。
「――――食ったぞ!! この味だ!! この馬の味は最高だあああああああ!!」
咆哮を上げるフレアザーズ弟。
「――――――――ッ!?」
ロードはその食べられる瞬間を見て絶句した。
「バヒヒーーーーン!!」
夜の街に馬の鳴き声が響き渡る。