第189話 ここ数日の疲れが出て来た
フレアザーズの攻撃ファイアーブレスを二回も喰らったロードだったが、何事もなかったかのように竜封じの剣を構える。しかし、
「はぁ……はぁ……行くぞ、フレアザーズ!」
ロードは疲れ果てていた。いつ倒れてもおかしくない程に、
フレアザーズ兄に斬り掛かろうとするが、炎のダメージや摩訶不思議な壁に張り付く戦法を取るので、無理して壁などを走って疲れが蓄積されたのであろう。ロードに先ほどの速さはなくなっていた。
「フフフ、何だ? 壁を走れるのはいいが、そのスピードではオレには届かないぞ!」
フレアザーズ兄が別の壁へ跳び、その合間にファイアーブレスも吐いていた。
「――――くっ!?」
辛うじて壁を蹴り地面に着地して、ファイアーブレスをやり過ごす。
ファイアーブレスが焼く壁は赤みを帯びて焦げ目がついていた。
(まずい、ロードの身体は限界に近い)
(無理もない、馬をディホースを買った日から2日間、ろくに食事も水も取っていないらしいし)
(今日だって1、2杯の水と甘酒に食べかけの焼きトウモロコシ)
(おまけに無茶苦茶な戦闘スタイル)
(ロードだって俺たちと同じ人間なんだし、疲れない方がおかしいってものだ)
ハズレは推測していた。
「壁に張り付いたままもう一方の魔物狩りにも注意しろよ弟、ヤツは魔物狩りプラチナ一つ星だ!」
「分かったよ! お兄ちゃん! こいつの次はプラチナの魔物狩りってことだね!」
「そう言うことだ。まったく魔王様へのいい土産話が出来そうだ」
「魔王だと……?」
「そうだ言っていなかったか? 魔王様の所へ酒を献上しに行くと……」
「言っていたが、残念だがそれは叶わない」
ロードは地面に突き刺していた剣を引っこ抜いた。
「何だと! どういう意味だ!?」
「お前たちも魔王もこの勇者であるオレが倒すからだ」
ロードの目の闘志は全く死んでいない。むしろ絶好調にさえ思える。
この時、
(何故だ!? 何故ロードは立ち上がれる! 一目見れば立っているのもやっとな火傷具合だ! なんていう精神力!? 並外れている!)
ハズレはロードの立ち姿に見惚れていた。
「行くぞ!! フレアザーズ兄弟!! とっておきの技を披露してやる!!」
「「――――!?」」
フレアザーズ兄弟は目を見開いてある光景を目にした。目の前の勇者と名乗る男が光り輝きだした。
「はあああああああああああああああああああああああああああああ!!」
竜封じの剣にロードは全身全霊の力を込めて大剣を作り出した。しかし、
(なっ――――!?)
ロードは驚いていた。いつも通りであれば15メートルや20メートルほどにまで伸びる大剣が、今回は7メートルほどまでしか伸びていなかった。
(どうしてこんなに短い――!?)
(いつもだったら15メートルから20メートルまで伸びるはずの大剣が……)
その時のロードにはまだ分からなかった。
「光の剣……何だその現象は……!?」
フレアザーズ兄が驚いていた。
「お兄ちゃん、こいつの剣眩しい!?」
フレアザーズ弟は目をパチパチさせている。
「アレがロードの秘宝玉の力か……?」
ハズレはその小さな大剣に感動を覚えた。その剣があまりに美しすぎたせいだった。
しかし、ロードの出した大剣に対しフレアザーズ兄弟は一気に警戒レベルを上げた。
「弟! 光だ! あの光はヤツのいる場所を指し示す! そこにファイアーブレスを吐き続ける! そうしてヤツの疲れを待ち一気に勝負を決めるぞ!」
「でも、お兄ちゃん光ならあっちの魔物狩りも……」
「よそ見をするな避けろ!!」
「は、はい!!」
その時ロードはジャンプして隙を見せたフレアザーズ弟に7メートルの大剣で斬りかかった。しかしフレアザーズにはその一撃を避けられてしまい大剣は虚空を斬る。
「――くっ!」
ロードが悔しがったその時、フレアザーズ兄がファイアーブレスを吐いて攻撃した。しかし壁に刺さった弓矢を足場になんとか炎を避ける。壁は一面、矢諸共、焼け焦げた。
地面にロードが着地したその時だった。
(な――――!?)
ロードは一瞬だけ目の前が真っ暗になった。疲れが出て来たのだ。
(今一瞬意識が遠のいて――――!?)
(――!? 足が動かない!?)
それはフレアザーズにとってロードを仕留める絶好の機会だった。
「そろそろ、潮時か……仕返ししてやれ弟よ!」
「分かったよ! お兄ちゃん!」
フレアザーズ弟が尻尾のブースターを使って突っ込んできた。
「危ない!! ロードォ!! 走って避けろ!!」
もちろんハズレもロードに襲いかかる魔物に対処しようと走り出すが、距離的に間に合わない。
そしてロードも両の掌で握っていた竜封じの剣も落としてしまった。
(しまった――――!?)
ロード自身が一番わかっていた。
(もしオレがあの牛さんの料理に手をつけていればここまで疲れることはなかっただろう)
誰がどう見てもロードの命という道は立たれたに見えた。
しかし、そうはならなかった。
「ヒヒ―ン!!」
それはまさに奇跡的なタイミングだった。
ロードに突っ込んでくるフレアザーズを前に駆け付けたディホースが後ろ足で蹴りを放ったのだった。
「――ぐおお!!」
その思いっきりの蹴りがロードの命を救った。
「ディホース……」
「ヒヒーン!!」
「助けに来た……か、ありがとう」
からくもディホースに命を救われたロードだった。