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第187話 フレアザーズ兄弟

 酒が満タンに入った樽を持ったフレアザーズの兄が現れた。


「に、2匹目!?」「無理だ! 勝てるわけがない」「お、大人しく言うことを聞くしか――」


 フレアザーズ兄の登場で一気に負けムードの魔物狩り達。


(シルバー勢だもんなぁ、ゴールド勢の集まりだったらまだまだ血の気の多い奴らが暴れてくれたんだが……)

(この人たちにとってはここまでか、そりゃそうか皆酒を差し出して助かるんならそっちを選ぶわなぁ)

 ハズレはそう思っていた。


「お兄ちゃん見てくれよこの傷を魔物狩り達にやられたんだ」


 弟のフレアザーズが訴える。


「ほう……魔物狩り達に……」


 ギラリとした目を光らせる兄のフレアザーズ。


「A級の魔物なんてやっぱり倒せないよ」「何て禍々しい」「頼むこのまま酒を持って帰ってくれ」


 シルバー勢の仕気は完全に崩壊した。


「皆!! 聞いてくれ!! 相手は二体になったがこちらはまだ27人!! まだ一人も欠けちゃいない!! ここさえ乗り切ればギルドの緊急依頼を達成したとして昇格のチャンスがもらえるはずだ!! だから頑張ってフレアザーズを倒そう!!」


 ハズレは何とかして魔物狩り達の士気が高まらないか、口先だけで鼓舞していた。


「ハ、ハズレさん」「けど二頭が相手なんて……」「勝てるわけがないオレたちはアンタと違ってシルバー勢なんだ!」


 皆はもう戦うことを諦めていた。


「魔物狩り達よく聞け!! 今すぐに樽満タンの酒を用意して来た者ののみを見逃してやる!! わかったらサッサと動け!! 逃げたら匂いを追ってどこまでも追いかけて食い殺してやるからな!!」


「はい!!」「さ、酒ですね」「よし持って来るぞ」


 もはや魔物狩り達は自分たちの命を最優先していた。


「みんな……」


 ハズレもどうすればいいのか、そこで立ち尽くしていた。


「ハズレ、お前も酒を持って来るのか?」


 その時ロードが建物の影から出てきてハズレに問うた。


「いや、戦うさ……」


 ハズレはキンさんの打ったと言われる剣、名剣シラユリヒメを鞘から引き抜いた。


 そして懐から酒瓶のようなものをとり出し、口で栓を開け、中の液体を名剣シラユリヒメにぶっかけていく。


 そして、空になった瓶を放り捨てて、名剣シラユリヒメを一閃、横に薙いだ。すると、発火現象が起きて剣が炎を纏った。


「ハズレその剣は……?」

 

 ロードは不思議なものを見るような眼で尋ねていた。


「教えてなかったっけ? オレの剣はアカユリヒメにも変わるんだよ」


 ハズレが剣を構える。


「行けるか? ハズレ……皆は逃げてしまったが……」


 ロードが心配そうに聞いてきた。


「行ける。これでもプラチナの称号は持っている。一対一なら負けはしないさぁ……一対一なら……」


 ハズレは声のトーンをいつもより真剣にしていた。それは命のやり取りをする前触れだったのであろう。


「一対一か、二対二ならどうだ?」


 ロードが竜封じの剣を構えて訪ねていた。


「さぁ、相棒を持ったのは初めてでね。正直いいコンビネーションが発揮できるか分からないけど……」


「オレはスワンを相棒に戦ったことがある」


「えっ本当かい? あの娘、戦えたんだ……」


 ハズレは口角を吊り上げて、屋根の上にいるフレアザーズを見上げていた。


「お兄ちゃん! アイツだあの金髪にやられたんだ!!」


「そうか……まだ目に闘志を燃やしているな。よほど命の勝ちを知らない死に急ぎらしい。ならばせめてこの一撃で弟がお世話になったお礼をしよう!!」


 ガバアアアアアア!! とフレアザーズ兄からファイアーブレスが吐き出された。


「もうその攻撃は見飽きた」「直線的すぎる」


 ロードとハズレは完全にファイアーブレスを見切っていた。そして左右に分かれた二人はそれぞれの敵へと屋根の上で対決をするために跳んで登っていく。弟の方をロードが、兄の方をハズレが追う形となっていた。


 しかし誤算があった。フレアザーズは何もその分断作戦に乗る必要はないということだ。フレアザーズの両者は遠慮なくロードの方だけに狙いを定めて、


「加速せよ! ファイアーテイル!!」


 尻尾の炎がブースターの役割をし、ロードに向かって高速で突撃した。


「――――がっ!?」


 この攻撃をロードはもろに食らってしまった。そして攻撃はそこで終わりではない。


「ここだな行け!! 弟よ存分に恨みを晴らせ!!」


「うん! お兄ちゃん!」


 弟の方のフレアザーズが地面に伏したロードに向かって突撃した。


 ズドンと重く鈍い音が響く。


「――――ばはっ!!」


 口から胃酸を吐き出してダメージを受けるロード。


「ロード!!」


 援護に向かおうとするハズレは、


「バハアアアアアアアアア!!」


 兄のフレアザーズに炎を吐かれ道を阻まれていた。


 そして反撃を警戒してすかさず壁に張り付く弟フレアザーズ。


「くっ……二対一のつもりか」


 全身を痛めたロードはそれでも立ち上がり、息を整えて吐き気をどうにかした。


 ここからがA級魔物フレアザーズの本領発揮であった。

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