第185話 血肉を食したことがない者
ロードがフレアザーズの前に出た。
「ロード!! 離れろ!! ファイアーブレスが来るぞ!!」
ハズレが叫ぶ。
「喰らえ!!」
フレアザーズがファイアーブレスを横の路地裏を塞ぐように放つ。
「聞いているか? フレアザーズ……」
ロードはタンと上に跳び、竜封じの剣で壁を突き刺して眼下にあるファイアーブレスをやり過ごす。
「聞いているとは何の話だ……?」
「オレは勇者だ、魔物を討つ者……」
「だから、どうした普通の魔物狩りとどこが違う?」
「その質問の仕方、お前他の魔物狩りたちに何をした?」
「もちろん食うてやったわ」
「何人ぐらい食べてきた」
「ははは、数えたことないなぁ」
「――――許さない!」
焼け野原となった路地裏に着地してフレアザーズとの距離を一気に詰めるロードだった。
「――――っ!?」
とっさの判断でジャンプしたフレアザーズ、壁に張り付きロードの方をギラリと見る。
この時、
(う、動きが速すぎる。これがロードの戦い方か……)
ハズレは密かに賞賛していた。
「ははは、許さないだと? 何が許せない? 俺が人を食らったことにか? お前たちだってブタや牛を食うだろ? 同じようなものではないか?」
フレアザーズが挑発する。
「違う! 少なくとも俺は食べたことはない!」
「そうか食べたことが無いか……血肉がないのなら俺には勝てんぞ!」
フレアザーズがファイアーブレスの構えを取る。
「今だ弓使い達!! ヤツの背中めがけて放て!!」
ハズレは弓使い達に指示を出したが、
「フン」
炎を口に溜めたままフレアザーズは別の壁へと跳んでいった。
カカカカカと弓から放たれた矢が、何者もいなくなった壁に突き刺さる。
「バファーーーー!!」
灼熱の火炎がロードめがけて放たれた。
トットットッとロードは後ろへ下がり、灼熱の火炎を軽く避けていく。
火炎が放たれた場所は一瞬にして焼け焦げた。たった今そこに立っていたかと思うとゾッとする。
その時壁に張り付いていたフレアザーズはガラス窓を腹部に隠していた。それはいわゆる攻撃のチャンスであり、2階に上がって来ていた魔物狩りが必殺の剣をガラス窓に向けて攻撃していた。
「ぎゃあああああああああああああああ!!」
そして、フレアザーズはその全長4メートルもある巨体を地面にぶつけた。
「よっしゃ!! やった!! ヤツを仕留め――――」
窓から顔を出した魔物狩りがガッツポーズを決めようとしていた。
「――――おい!! 窓から顔を出すな!!」
ハズレが叫ぶ。
「この下等な生物めが!!」
刺されたお腹から少しだけ霧散の煙を出していたがすぐに収まり、攻撃態勢へと転換する魔物フレアザーズだった。そして必殺の一撃であるファイアーブレスを窓の男に向けて放った。
「――――うわぁっ!?」
魔物狩りたる男はハズレの忠告をすぐに受け、窓の奥へと下がっていったため被害は窓のある壁、表面が焼け焦げるだけで終わった。
「はあああああああ!!」「とりゃあああああああああ!!」「うおおおおおおおおおお!!」
ロングソード、ランス、アックスを持つ三者の魔物狩りが3つの方向からフレアザーズに襲い掛かる。
「違う!! 下がれ!!」
ハズレが叫ぶ。だが遅かった。フレアザーズは攻撃態勢を整経てぐるりと旋回して尻尾の炎で撃退する気満々であった。
しかし、フレアザーズよりも他の魔物狩り達よりも速く動いた男がいた。それがロード。
彼は的確にフレアザーズの隙を狙ってその顔面を、竜封じの剣を使って斬りつけた。それがさらなる隙を呼び、ロングソード、ランス、アックスによる攻撃を通してしまった。
「ぎゃああああああああああああああ!!」
フレアザーズは絶叫しながらも飛び跳ねて民家の屋根の上へ避難した。まだ倒すことが出来ていなかった。
「やった!! 当たったぞ!!」「行ける!! 皆で戦えばあのA級の魔物にも立ち向かえる」「よしこのまま押し切ろう」
魔物狩り達の息はしっかりと合っていた。
「……勇者ロードと言ったな?」
屋根の上から体中から霧散の煙を出すフレアザーズが質問してきた。
「ああ」
「俺は酒が欲しいだけだ無益な殺生をしに来たわけじゃない」
「何でそんなに酒が欲しい……」
「そんなこと決まっている。遥かはての国、オーイワの国にいる魔王様への献上品だ」
「魔王への献上品だと?」
「そうだ、だからこれ以上戦っても無駄だ。俺のお兄ちゃんが今酒をかっぱらっている最中だ。俺はその隙に魔物狩り達を足止めするために暴れている。今頃片割れのお兄ちゃんが酒を略奪していることだろう。もちろん酒さえ献上すれば、街のものには何もしないという名目上でな。だがこれ以上戦いを好むのであれば死者が出ると心得ろ」
「そうか、もう一匹の方は酒を取りに行っているのか……ならば、お前を早めに片付けてそいつも倒さないといけないな」
ロードの目はギラついていた。