第183話 ルールー街に現れた魔物
一人の若い魔物狩りの叫び声で、活気あふれていた酒場がしんと静まり返る。
「裏切りの瞳が黒く光り輝いている」
ハズレが口にする。
「どいう意味があるんだ?」
と尋ねるロード。
「言っただろうこいつが光り輝くと魔物が近くにいるってことを伝えてくれるんだ」
「そいえばそんなこと言っていたよね」
スワンが席を立つ。
「おいおい、こんな酒場でドンパチするのだけはやめてくれよ」
それだけで三人が戦闘態勢に入ったとマスターが知る。
「相手はどんな魔物だった?」
急いでロードが若い魔物狩りに訊いていた。
「フレアザーズだよ、火を吐いてくる魔物さ! 俺たちじゃあどうにも倒せなくて至急応援を頼みに来たんだ魔物狩りの皆どうか力を貸してくれ!」
「フレアザーズ……魔物大図鑑で読んだ。確か、B級のパワーゴリラを凌ぐA級の魔物」
「兄さん方どきな……」「これは魔物狩りの仕事」「俺たちがちょっくら行って用事を済ませて来るよ」
ベテランの魔物狩りたちが続々と店内から退出していく。
「お前ら行くのはいいが必ず戻って飲み食いした分の金は払ってもらうぞ!」
大声で叫んだのは酒場のマスターだった。
「オレたちも行こう」
ロードがそんな提案をしていた。
「うんと言いたいところだけど、わたしには水のストックがほとんどないんだよね~~だからと言って酒場の酒が使えるわけでもないし……もう、どう動けばいいの!?」
スワンが頭を抱えていた。
「ロード、フレアザーズは二匹一対の魔物、二体いるはずなんだ……オレたちも応援に行かないか?」
「もちろんだ……」
そう言葉を交わしてハズレとロードは酒場の表へと出て行った。
「嬢ちゃんはお留守番しておいた方がいいぞ」
酒場のマスターがスワンをなだめていた。
「いいえ、まだ手がないわけじゃない」
スワンは自分の指にはめ込まれた指輪を見て思案する。
颯爽と酒場から飛び出したロードとハズレは早速、女の人の悲鳴がする方へと走りだして行った。
「フレアザーズに弱点とかあるのか!?」
ロードが問う。
「特にないが大量の水をかければ体温が急激に下がり膠着状態になると聞いたことがある」
ハズレが答える。
「水さえあれば問題なしか……水はどこにある?」
「残念だがここら一帯には温泉もなければ井戸もない街の外へ行って川で水汲みでもしてこない限りは……この手は使えない」
「そうか、だったらスワンには待機していてもらおう」
その時、
「ヒヒ―ン!!」
背後から馬の鳴き声がしたディホースによるものだとすぐに気が付いた。
「ディホースもそこで大人しくしておくんだ! 絶対こっちに来るんじゃないぞ危険だから!」
「ヒヒ―ン!!」
ディホースが返事をし返してくれたおかげで、迷いなく戦闘モードに入るロードだった。
そして、
「きゃーー魔物よーー」「早く街の奥へ避難するんだ」「何だって魔物が街の中に入ってきているんだよ」
すれ違う人々は女性や子供、若い男性の商人やご老人が多い。
そしてロードとハズレは逃げまどう人々とは逆走して、魔物が出たと思われる場所へと向かう。
「見えて来たぞ、アレだ!」
ハズレがそう言うと複数人の魔物狩りが目に入った。
そして若い魔物狩りが言ったように、トカゲのような胴体に、カエルのような手足、鋭い牙を持ったドラゴンが見えた。
住宅地の壁に張り付いて魔物狩りたちの様子を伺っているようだった。
「ここは自分にお任せを!!」
一人の魔物狩りが弓を引いてフレアザーズを仕留めようとしていたが、
「フン!」
ダンとその場から飛び出してまた別の壁へと張り付いた。
この時、一人の魔物狩りが放った弓矢は大外れであった。
「おおおおおおおおおおおおりゃああああああああああ!!」
また二人目の魔物狩りが自慢の斧を投げ飛ばしフレアザーズを襲った。
「フン」
またしても壁からダンと飛ばれて斧をかわす。そして別の壁へと張り付いた。避けた斧は住宅地に突き刺さった。
「アレが魔物、フレアザーズか……」
ロードは静かに腰に携えた竜封じの剣に手を添えて構える。