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第180話 ロード、頑張ったで賞を取る

 ロードはざらついた芝生の上に転がっていた。

 

「――きろ……お……きろー」


 誰かがロードに何かを言っている。


「うん? 何だ? 誰だ?」


 ロードは眠い目を擦りながら尋ねる。


「起きろ~~ロード~~レース大会は終了したぞ……」


 ハズレの顔が目の前にあった。


「ハズレか? レース大会って何のことだ?」


「おいおい寝ぼけるなよ……馬乗レース大会のことだよ」


「馬乗レース? そうだ! オレとディホースはトップ層の壁を跳び越えて一位になったはずだ! それがどうしてこんなところで寝ているんだ!?」


「それはオレが聞きたいよ。せっかく風よけまでして道を作ってやったのに……優勝を逃すなんて」


 ハズレは残念そうにつぶやいた。


「ヒヒ―ン」


 倒れていたロードの側にはディホースがやって来て顔をすりすりとスキンシップして来た。


「えっ? オレが大丈夫かだって? もちろんだどこにも異常はないぞ」


「ヒヒ―ン」


「えっ、オレが落馬した? 何でそんなことがわかるんだ?」


「そう、お前は落馬して失格になったんだ……何で落馬したのか知らないけど……」


 ハズレがそう指摘した。


「オレが落馬? そんな記憶はないが……」


「へい、ロード・ストンヒュー選手!!」


 その時、驚くべきことにレイアル・スライダーがロードに声を掛けて来た。


「ほら、一着のレイアル・スライダーだぞ」


 ハズレがロードの頬を引っ張りながら言って来た。


「いっ、一着!?」


「キミの走りには驚かされたよ。まさか頭上を跳び超えてくるなんて誰が予想できようか……」


 あって早々、賛辞の言葉を送られた。


「跳び越えた……そうだ、オレは確かに、先頭を走る二人を追い抜いた、けど、そこからの先の記憶がない」


 ロードは頭を抱えながら考えていた。


「それはキミが走りながら気絶していたからじゃないかな?」


 レイアル・スライダーはそう言う。


「気絶? どういうことだ? 馬が走っている間に気絶していたって言うのか?」


 ハズレが口を挟む。


「ああ、少なくともレース中に話しかけてみたとき彼は気絶していたよ」


「そうですか……だから落馬して失格か……」


 ロードは残念そうに顔を俯かせた。


「きっと、二日間飲食を取らなくて疲れが出たんだろう? だから何か食べろって言ったのに……気絶しちゃってさぁ……オレの作戦どうなるの?」


「そんな時間はなかったじゃないか。それにおいしい水だけ飲んでいれば行けると思っただけだ」


 ハズレとロードが会話をしている。


「ヒヒ―ン」


 ディホースがロードを慰める。


「いや、それにしてもギリギリだったよ。僕の愛馬ギンガも本気を出してしまった」


「ディホースはどうだった? ギリギリの勝負楽しめたか?」


「ヒヒ―ン」


「そうか、いい勝負が出来て嬉しかったか……」


 ロードはどこか満足そうな表情を浮かべた。


「ディホースという名前なのか。キミの馬、素晴らしい走りだったよ――――」


 その時レイアル・スライダーは、レース場から退場しようとしていた男に目が移ったようだった。


「ヘイ、デリンシャス・シャンスープ郷! 表彰式が残っているぞ! 惜しくも二位だったけど出ておいた方がいいぞ!」


「黙れ……キサマの引き立て役になるつもりはない」


 デリンシャス・シャンスープが自分の馬を引き連れてレース場を後にしようとしていた。


「待て」


 次に呼び止めたのはロードだった。


「………………」


 振り返るデリンシャス・シャンスープ。


「後ろからその馬の扱いを見ていたが……どうか大切に育ててやってくれ」


 その言葉を受けてデリンシャス・シャンスープは自分の馬を見た。ブルルと首を振っている。


「フン」


 鼻息を鳴らしレース場から去って行った。


「変わってくれるといいんだけどね」


 レース王レイアル・スライダーはそう口を溢した。


「馬の声が聞こえるようになればいい選手になれますよ」


 ロードがそう締めくくった。



 ◆ ◆ ◆ ◆



 ヤマダシオ街・レース会場。

 レースの表彰式が始まろうとしていた。

 一位、二位、三位までが表彰式に出られるようだった。その土台も用意されている。


「えーー第26回馬乗レース大会三位ハズレ・マスカレード選手には表彰状を贈呈します。見事レンタル馬と言えど最後まで走りを諦めず駆け抜けたことに皆さん拍手を……」


 実況者バッグが拍手を求める。女性スタッフがハズレに表彰状を手渡した。その時、パチパチパチと観客席から音が鳴り響く。もちろんスワンも黙って拍手していた。


「えーー二位のデリンシャス・シャンスープ選手ですが、本人が帰ってしまったので表彰は辞退させてもらったと委員会で判断いたしました」


 二位の土台にデリンシャス・シャンスープの姿はなかった。


「そして、一位、レース王レイアル・スライダー選手です!! 賞金1500枚金貨獲得です!! 会場の皆さまどうか盛大な拍手を!!」


 口笛やら拍手やら親衛隊の声まで飛び交う観客席。


「そして今回は惜しくも優勝を逃したロード選手にも頑張ったで賞をお送ろうと思います」


「えっオレにも何かあるの? 失格だったんじゃないの?」


「馬乗レース開催者レイアル・スライダーの実の父、ライヤル・スライダーさんからのトロフィーの贈呈です!!」


 実況者バッグがそう言うとライヤル・スライダーさんが賞品のトロフィーを持ってロードの前に持って来る。


「ロードくん見事な走りだった。これはそのささやかな頑張りの賞品だ受け取ってくれたまえ」


 その時、トロフィーを差し出されたが、ロードはそれを受け取らなかった。


「いいえ、これはそちらに贈呈します。オレは旅人、荷物はあまり多くは取れない。そちらで保管してください」


「わかった。記念館があるからキミの自画像絵と名前と共に飾らせてもらうとしよう」


「さぁ皆さん最後に活躍した選手たちに盛大な拍手と喝采を!!」


『『『おおおおおおおおおおおおおおおおおお!!』』』


 パチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチ!! と喝采と拍手が巻き起こった。もちろんスワンも大きな声を出し拍手を送っていた。


 これにて馬乗レースは無事終了した。


「ディホース今まで付き合ってくれてありがとう。これでお前の身は晴れて自由だ」


「ヒヒ―ン」


「何? オレの旅について行きたいだと?」


「ヒヒ―ン」


「わかった。これからよろしくな、ディホース」


 自由の身になれるはずのチャンスをみすみす手放したディホースは、すっかりロードになついていた。

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