第178話 優勝者の行方
ハズレの追い越しに気を取られていたデリンシャス・シャンスープは、見事に油断しレイアル・スライダーに追い越され、続く先頭の全速力で走るハズレを追い越した。
その一瞬の出来事に会場がざわめいた。
「嘘でしょ……何今のスピード」
スワンも口を零すほど圧倒的な一撃だったようだ。
「おおーー!! 現レース王レイアル・スライダー選手がデリンシャス・シャンスープ選手の隙を見逃さず一気に抜いた!! さらに今年のダークホースハズレ選手も一瞬で抜き去ってしまった」
「待ってました!!」「さすがレース王!!」「これを見に来たんだよ!!」
会場はざわめく。
「会場の方も待っていたと言わんばかりの大歓声!! さすが我らがレイアル・スライダー!! 期待を裏切らない!!」
実況者たちもこの一位を取る瞬間を待っていたようだった。
(さて、ロードの風よけ役は終わった。オレも少しはいいとこ見せないと……)
ハズレが静かにレース王を見据える。
「さぁ、レースも中盤をまたいだ後続も必死で追いかけていきます」
後続の馬たちも必死で一位を狙っているのであろうが、ギンガ率いるレイアル・スライダーが速すぎた。どんどん固まりから遠ざかっていく。
「さぁ、レイアル・スライダー選手、第三コーナーです!! いよいよレースも終盤に差し掛かって来ました!!」
終盤に向けて実況者バッグも熱がこもる。
「勝ってハズレ!!」
一方スワンはハズレの方に目が行っていたどうしても勝ってもらいたいらしい。
「まずトップスリーを紹介します!! 一位現レース王レイアル・スライダー選手、次にダークホース情報によりますとレンタル馬を借りての出場ハズレ・マスカレード選手、それに続くは最初から目の離せないデリンシャス・シャンスープ選手!! 注目はこの三人いよいよ最後の決戦です!!」
「レース王!! 勝負だ!!」
ハズレが動いた。レンタル馬を乗りこなす姿はまさに本物の勝負師だった。
「おおっと!! ハズレ・マスカレード選手!! レイアル・スライダー選手に並びました!!」
実況者バッグが立ち上がった。
「いいぞ帽子のヤツ!!」「レース王になっちまえ!!」
「お願い!! 頑張ってハズレ!!」
スワンも祈りながら応援していた。
「なるほど……レンタル馬でこの実力か……いい馬を持っていたらレース王も夢ではなかっただろうに……」
レイアル・スライダーが素直に賞賛する。
「いや、アンタに追いつけただけでもこのレースに出たかいはあったさ、それに言っておくとダークホースはオレではないからそこのところよろしく!!」
挑戦できたことに嬉しさを感じるハズレだった。
「……ダークホースはキミじゃないって?」
レイアル・スライダーがきょとんとしていた。
「ハズレ・マスカレード選手、一位に追いついたはいいが、レイアル・スライダー選手にインを陣取られている。この不利な状況をどうするつもりなのか……レイアル・スライダー選手も有利な状況で余裕の笑みを浮かべているぞ!!」
実況者バッグは片手をガッツポーズにして盛り上がっていた。それに合わせて会場の応援も二人に絞られていく。
「おのれ! おのれ! おのれ! おのれ! おのれ! またか! またなのか! わたしの邪魔をするなぁ!!」
レース場で叫んでいたのはデリンシャス・シャンスープだった。身に付けていたゴーグルを外し、馬に鞭を打ち付ける。
「馬肉何をしている!! さっさと走らないか!!」
ビシバシと激しく鞭を打っていく。
「ヒヒ―ン」
その痛みから逃げ出したいような悲痛の叫びを馬は上げていた。
「出ました!! デリンシャス・シャンスープ選手の怒りの形相!! 馬に対してのあの振る舞いは決して怒りを吐き出すための物ではない!!」
落ち着きを取り戻した実況者バッグが座り込む。
「うわぁ……」「ひ、ひでぇ~~」「やりすぎだろ……」
デリンシャス・シャンスープの行いを見た観客たちもドン引きである。しかし、その行いにも、しっかりと意味はあった。
「デリンシャス・シャンスープ選手、レイアル・スライダー選手とハズレ・マスカレード選手に続き、一位に並び出ました!! 三者ゴールを譲るつもりはない!! 果たしてどうなるのか!! そして優勝は誰の手に!? ついに第四コーナーを超えました!!」
「頑張ってハズ――――」
その時スワンは気が付いた。もう一人この三者に食らいつこうとしている男に気が付いた。
「――――ロード!?」
まだ勝負の行方は分からない。