第171話 2日間に何があったか
ヤマダシオ・近隣の丘で待機していたスワンとハズレは驚いた。
何と逃げ出した黒馬ディホースがロードを背中に乗せて帰って来たのである。
「ディホース? バカな馬の脚力に追いついたっいうのか?」
ハズレが信じられないものを見るような眼で見ていた。
「せ、背中に乗っているのはロード! 良かったちゃんと連れて帰ってきてくれたんだ……」
一安心するスワンだった。
「ヒヒ―ン」
ディホースが二人の側へと近づいていった。
そしてロードの容体を見せていた。
「おいロード起きろもう10時だぞ……早くしないとレースの登録に間に合わなくなってしまうぞ」
ハズレが呼びかけたのだが返事がない。
「何かしたのディホース……?」
当然スワンとは会話の出来ないディホース。
「ヒヒ―ン」
「何だ? 何か言いたいことでもあるのか?」
そのハズレの一言でディホースの伝えたいことが行動に出た。黒馬は乗せていたロードを地面の上へと落とした。
「な、何してるのディホース!? 落としちゃダメじゃない」
スワンが叱りつけるのだが、
「待てロードの奴、落馬の衝撃を全身で受けたのに起きて来ないぞ……?」
「まさか打ち所が悪くて死んだんじゃ……ないよね?」
「そんなわけがあるか……とにかく荷船に乗せようこのまま起きて来なかったら昏睡状態で命の危険につながるぞ」
「待って、今腕が少し動いたような……あっ! 口も動いてる」
「なんて言っているんだ」
「……ず……」
「ロードお前意識があるのか? もう少し大きな声で喋れないのか?」
「み……ず……を持って……来てくれ」
「スワン水だって!」
「わ、分かった」
急いでおいしい水を取りに荷船に向かうスワン。
「ロード、一体何があった? ディホースは逃げ出したんじゃなかったのか? どうしてここへ自ら戻ってくるような真似を?」
「し、しょうぶに……勝ったから……約束したんだ」
息も絶え絶えにわけを口にする。
「勝負? 一体どんな勝負だ?」
「2日間、落馬しなければ、オレの勝ちというルール」
「お前は馬鹿なのか? それじゃあ2日間何も食べられやしないし、水も飲めやしないじゃないか……?」
「だから……水が欲しいついでに果物も……」
「済まないが果物の方はもうない、今朝がた取っておいたらしい果物は尽きたってスワンが言ってた」
「そうか……果物が底を尽きたか……じゃあ食べるものはないな」
「おいしい水を持って来た!」
スワンが荷船から戻て来て、仰向けになったロードの口に水を流し込む。
「どうだ意識は回復して来たか?」
ハズレが訊いてみる。
「そんなに早く意識が回復するわけが……」
「ありがとうスワン」
思いのほか回復は早かった。
「あっどういたしまして……それより心配してたんだからね……2日間もどこで何をしていたの?」
「さっき言わなかったか?」
「スワンのいないときに俺だけが訊いたんだ」
「ハズレ抜け駆けしないでよ……それで何してたの?」
「ディホースと勝負していた。2日間の間に落馬したらディホースの勝ち、大自然に放し飼いにするという賭けだ……」
「それって逃がすってこと? 無茶苦茶な取引するのね……あなた、はぁ~~~~、けど、ディホースがこうして戻って来たってことはあなたが勝ったってこと?」
「ああ、そのおかげでレースに出てくれると言ってくれたよ」
「ちょっと待った言ってくれたよ。どういうことだ? キミは馬とでも話せるというのか?」
「ああ、前にスワンから聞いたんだがオレにはゼンワ語という言語があってその力で動物たちと少しながら意思の疎通ができるらしい」
「ゼンワ語? 聞いたこともない言語だが、、、」
「当然でしょ。ロードは異世界から来たんだから、その異世界では動物と喋ってたりしてたんだって……」
「ああ、そう言えばそんな会話を盗み聞きしていたんだった」
「とにかくどうするの? ロードがこんな弱った様子じゃあ、とてもレースになんて出られないと思うけど」
「ヒヒ―ン!!」
その時、ディホースが鳴いた。
「何? 何か言ってるの?」
スワンが訊いてきた。
「――主様、さぁ急いでレースに出場しましょうだってさ」
ロードはレースに出られる喜びでうずうずしていた。