第170話 勝負後の帰還
どこかの湖の前。
ロードとディースの勝負から2日が経とうとしていた。
「はぁ、あと1分で、はぁ、オレの勝ちだなぁ」
ロードはこちらの異世界用に調整した懐中時計を見やる。
「ヒ、ヒヒーン……」
2日間動きっ詰めで、もはまともに鳴く元気もないディホース。
「50秒前……」
それでも走って振り落とそうとする。
「40秒前……」
強引な揺れから落馬を狙ってたりする。
「30秒前……」
グルグルと自分の尻尾を追うように回転する。
「20秒前……」
ジャンプして木の枝に到達し、ダメージを蓄積させる。
「10秒前」
しかし何もかもがもう遅すぎた。
「0」
長い長い2日間の勝負が今終わった。
「午前0時、はぁ、オレの勝ちだ、はぁ、ディホース」
その宣告と同時に体力の限界だったのであろうロードは気絶した。
そして、
バシャリと顔に何かが掛けられた。
それは湖の水らしく気絶していたロードの目は一気に覚めた。
「!? ――夜中か今何時だ!?」
時計の針は0時30分ごろを示していた。
「ヒヒ―ン……」
「? 何だって? ディホース」
「ヒヒ―ン」
「オレの勝ちだって?」
黒馬ディホースがロードの隣に身体を倒した。
「そうか、オレは勝ったのか……」
湖の生水をそのまま飲む。ロードはどこか生き返った感覚を覚えた。
「ディホースも動きっぱなしで疲れたろ……飲むと良い」
まるで主に従うように水を飲むディホース。
「レースに参加してくれるか?」
「ヒヒーン」
「そうか、ありがとう」
ディホースの身体に跨るロード。
「さて、ここがどこだかわかるか?」
「ヒヒ―ン」
「何!? ヤマダシオから30キロも離れた湖のほとりだと!?」
「ヒヒ―ン」
「どうするかって帰るに決まっているだろう? まだ走れるかディホース」
「ヒヒ―ン」
「お任せくださいご主人様って、キャラ変わってないか?」
ディホースはすっかりロードになついていた。
「じゃあ帰ろう、道はわかるのか?」
「ヒヒ―ン」
「通ってきた位置を引き返すだけか……わかったその言葉を信じてみよう」
「ヒヒ―ン」
「水分補給はちゃんとしたか? お腹は空いていないか? 体力は持ちそうか?」
「ヒヒ―ン、ヒヒ―ン、ヒヒ―ン」
「そうか体力の方に限界があるか……それなら」
ロードは自分の生命力をディホースに与えだした。そうしてフラフラのグラグラの限界まで与えてディホースの背中に身を預ける。
「ど、どうだ? 力は戻ったか?」
「ヒヒ―ン」
「何をしたかだって? お前にすべてを託したんだ。さぁお前が逃げ出したあの丘に戻るとしよう」
「ヒヒ―ン」
「さぁ、走ってくれディホース」
ディホースはロードを乗せたまま、落馬しないように十分配慮しながら走り出した。
▼ ▼ ▼
ヤマダシオ・近隣の丘の上。
とうとう午前10時を回ろうとしていた。
スワンとハズレは当初、消えたロードとディホースの捜索に当たっていたが、迷子になりそうだったのでその方法は取らず、元いた場所で信じて待つことにした。入れ違いにもならないように待っていた。
今日も今日とてスワンたちはロードたちに帰りを待っていた。
「もうどこまで行ったの? 今日は馬乗レースの開催日だっていうのに……」
「夜中ずっと待っていたが帰ってくる気配がなかったぞ。レース受付け時間が午後12時まであと2時間しかないもうあきらめた方が……」
「そうね、残念だけど、レースは諦めるしかないか……?」
「じゃあハズレはここで待っていて……私は探してくるから……」
「探してくるって当てはあるのかい?」
「昨日話したでしょ、わたしは精霊の術使いいくらでも探しようはある」
「オレが初め蹄鉄の後を追おうとした時は止めたくせに……」
「だってすぐ帰ってくると思って――――」
「どうしたんだい?」
「――――ディホースが帰って来た!?」
スワンの指を差した方向からディホースが小走りでやって来るのが見えた。その背中には眠りについていたロードの姿があった。
「ギリギリ帰って来たみたいだな……」
「ホントギリギリすぎる」
とにかくレース開始まで間に合いそうなことにスワンたちは喜んだ。