第166話 神様の力を使っての治療
金貨60枚で馬を買ったロードは、スワンに頼んで籠に入った黒馬を引っ張って来行くことにした。
黒馬の乗せられた籠には車輪がついてあったため、スワンの荷船にロープでくくりつけることで、運ぶのは容易いなことであった。
「で、どうするつもりなんだ? あんな怪我した馬を買い取って……」
真剣なまなざしで見てくるハズレ。
「悲しそうな鳴き声をしていたから放っておけなかったんだ……」
ロードは白状した。
「ハズレ信じられないかもしれないけど、オレとスワンは異世界から来た」
「ちょっとロード!!」
口を挟もうとしたスワンだったが、
「知ってたよこの間の夜、盗み聞きした」
スワンは黙り込んだ。
「オレの故郷の異世界にはな……? 動物にも民権はあるんだ? あんな見世物みたいにして売り出したりする文化はなかった」
「それで……」
「許せなかったんだ。馬がかわいそうな声で鳴いているのに何もしてやらない人たちが……」
「じゃあキミなら、なにかしてやれるのかい?」
「出来ると思う」
「ふーーん、まぁいいやもともとキミのお金で買った馬だしオレは気にしないよ」
そのままハズレは荷船の上で寝っ転がった。
「ああ、スワンはどうだ?」
「別に買うのはいいよ、ロードのお金だもん。でもその先はどうするの? 誰が面倒見るの? 誰が餌を与えてあげるの?」
「この件に関しては全面的にオレが面倒見ようと思っている」
「具体的には正直言って旅の足手まといにしかならないと思うんだけど……」
「まだ方法はある。オレはなんたって故郷では、神様と呼ばれていたくらいだしな」
ロードはかつての宮廷伝説を思い出していた。
「「?」」
二人はロードが何を言っているのか、よくわからなかった。
▼ ▼ ▼
ヤマダシオ・近隣の丘。
荷船を底で止めたスワンはロードとハズレに降りるように指示した。
そして買ったばかりの馬の様子を見てみることにした。
「前の右足か~~酷い折れ具合」
「これじゃあレースにも出られないぞ」
「いいから二人はそばで見ててくれ」
ロードが籠の鍵を開けて、黒馬のいる籠の中へと入って行く。
「ヒヒ―ン……」
力なく声をあげる馬だった。
「とりあえずニンジンを食べろ」
途中、馬の餌用として買ってきたニンジンを与えてみた、するとガブつきだす。
「シャクシャク、ゴクリ」
ニンジンを食べていく黒馬だった。
「それじゃあ始めようか」
ロードは折れた足に触り始めた。どの部位が一番痛いのか、馬の声で判断する。
「うん、ここだな。待ってろよ今治してやるからな」
ロードは思い出そうとしていた。対アグロ―ニ戦で見せた生命力を分け与える力。それはかつてロードのいた異世界では、神様の力と呼ばれていた。ルロウの捻挫を一日で治し、竜殺しの剣で死にそうになっていたアカを救い出した力だった。
ロードは二つの手のひらを患部の前にかざし、生命力という力を分け与えた。
「今すぐ楽にしてやるからな」
その時、ロードの両手から輝かしい光が黒馬の患部を包み込んだ。今まさに怪我したところを治療しているのだ。
(これがロードの秘宝玉の力)
スワンはその輝きに見入っていた。
(アレはまさか噂の宝石の力か? 初めて見るなぁ)
ハズレはその光景を目に焼き付けていた。
数分したところで、馬の脚は完治した。その代わりロードはかなりの体力を消耗したみたいだった。
(そうか、この力もあの20メートルほどの剣もオレの体力によってその効果が左右されるのか……これが道の秘宝玉の効果……)
「スワン、ジュースを一杯、作って来てくれないか?」
「わ、分かった」
スワンは荷船の方へ駈け込んで行った。
「もしかして馬の脚が完治したとか言わないよな?」
ハズレがとても信じきれないような声で訊いてきた。
「何だよ……スワンが戻て来たら言おうと思っていたのに……そうさ完治したさ」
「ヒヒ―ン!!」
馬が立ち上がった。折れていた右前足は完全に感知したようだった。
「名前つけてやりなよ」
ハズレが催促してきた。
「ああ、オレはロード、よろしくな……えっと、、、ディホース」
改めてその黒馬ディホースと目を合わせて挨拶した。