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第158話 ラナの街の鍛冶屋

 ロードたちは離れたところから金閣寺で話し込む若者たちの言葉を聞いていた。


「事故だった……精霊石を取りに行くと言って危険地帯に足を踏み入れて、落石に巻き込まれて逝っちまったよ」


 鍛冶職人であろうガタイのいい男がそう話していた。その隣には丸顔の男性も立っていた。


「そうか、魔物の仕業なら仇も打てたんだがなぁ」


 青年である若者がそう言っていた。


「こいつが師匠の作ったアンタの剣だ」


 鍛冶職人が上物の剣を差し出していた。


「これが名刀キントンテン、有り難く使わせていただきます。キンさん」


 若者がその剣の出来に見惚れていた。


「では、俺たちはこれで……」


 若者たちは街の雑踏へと姿を消していった。


「よし! テン仕事を再開するぞ、これからはオレたちが師匠に成り代わらないとな!」


「ウス!!」


 丸顔の男性が気合いを入れた。


 その時ハズレが動いた。


「やあ、トンさんにテンさん久しぶり」


「ああ、今度はハズレか?」


 めんどくさそうな態度を取られる。


「キンさんが落石に巻き込まれたって?」


「何だ、聞いていたのか。そうだ、だからこれからは俺たちが店を継ぐ」


「師匠にはまだ及ばないけど頑張るでさぁ」


 トンとテンはやる気満々だった。


「それで友達まで連れて来たみたいだが何の用だ?」


 トンたちはロードとスワンを認識した。


「ああ、精霊石の噂を聞いてね。ここに精霊石で作られた剣がないか見にきたんだよ」


「精霊石の剣か、悪いが内にそんなものは置いていないぜ」


「そうか、これはとんだ無駄足だったかな」


 ははは、と残念そうに笑うハズレであった。


「そんなことよりハズレ、師匠の作った純白の剣シラユリヒメの使い心地はどうだ?」


「いい調子だよ、さすがキンさんの作った剣だ切れ味が違う」


「そうか……」


「なぁ少しだけ剣を見て行ってもいいか?」


 ロードが店内へと入って来た。


「アシたちの剣でよければいくらでも見て行ってほしいでさ」


 テンという丸顔の男性が答えた。


「ありがとう」


 スワンも店内に入り込み武器の見物をしていた。


「ところでカンさんが見えないんだけど……」


「ああ、アイツか、ちょっとな今ふさぎ込んでて……」


「どういうことだ前まであんなに仕事熱心だったのに」


「ああ実は……」


「トンの兄貴!! 聞いてくれでさぁ!」


「どうしたテン!」


「あのあんさん、カンの剣をいい剣と言ったでさ~~!」


 ロードの方を指を差して言いつける。


「何!?」


 トンは驚いていた。


「ロード本気でこの剣がいいモノだと思っているの?」


 スワンが言うのも当然、ロードが手にしていたのは誰がどう見てもなまくらなボロボロの剣だった。


「ああ、どことなく剣に対する力を感じる」


「おいハズレこの坊主は何者だ?」


「いや初心者の魔物狩りらしいんだ。なまくらを選んでしまうのは仕方がない」


「なまくらの剣なのかこれ……?」


 ロードは不思議そうな目で剣を見ていた。


「そのなまくらの剣は俺たちの弟弟子の売った剣だぞ、誰が見たって売り物には恥ずかしい剣。俺たちですらンはめた剣としか思えなーんだが……師匠はその剣を偉く気に入っていた」


「えっあのキンさんがこんななまくらを?」


「ああ、師匠が言うには――」



 ◇ ◇ ◇ ◇



 カンの鍛冶屋。


「こいつはいい剣だ。戦う力をビシバシ感じる。カンって言ったか荷物をまとめな、今日からお前はオレの弟子だ」



 ◆ ◆ ◆ ◆



「そう言ってカンを連れて来たんだ」


「何? 凄い剣なの?」


 スワンがひょこっと聞いていた。


「違うぞ嬢ちゃん、坊主お前にはその剣に隠された才能を見切った、俺たちでも分からない景色が見えてんだろ」


「ああ、何か手にした瞬間分かったよこの剣の職人は真っ直ぐ道を進んでいるっていう意気込みが」


「坊主ただの剣士じゃないな。ハズレの付き添いなだけのことはある。内に入りな話したいことがある」


 一行は鍛冶屋の客間に案内された。



 ◆ ◆ ◆ ◆



 ラナの街・金閣寺の鍛冶屋・客間。


 小さな丸いテーブルに四畳半おまけに中がパンパンに膨らんだゴミ袋がいくつもあった。


「狭い」


 スワンが三角座りで口にした。


「まずは自己紹介をさせてくれ、オレはトンこの金閣寺っていう鍛冶屋のキンさんの一番弟子だ。こっちは二番弟子のテンだ。もう一人三番弟子が居てそいつがカンだが今はその話はいい……今俺たちがこの鍛冶屋を死んだ金の師匠の後を継いで経営している」


「オレはロード・ストンヒュ―勇者の称号を持っている」


「ゆうしゃ?」


 トンが素っ頓狂な顔をしていた。


「ロードゆうしゃってなんだ?」

 

 ハズレも訊いてみる。


「魔物狩りみたいなものだ」


「わたしはスワン・ブルースカイ」


「ハズレもスワンの嬢ちゃんも聞いてくれ、実はな師匠はこの街の裏にある山の向こうガンガバレーに精霊石を探しに行ったところ事故に遭って死んじまってな、それでオレたちが亡き師匠に成り代わってそいつを探しに行こうと思っているんだ」


「精霊石!?」


 ロードが反応した。


「精霊石があるって噂は本当だったって訳か」


 ハズレはやっぱりあるんじゃないかという顔をした。


「師匠はその石で最高の剣が出来ることを夢見ていた。しかし精霊石は伝説の鉱物簡単には手に入らねぇーー、やっと見つけた情報を手にしたんだが、夢なかばで師匠は命を落とした。結局、最高の剣は打てなかったんだ。そこでお前たちに頼みがある」


「「「!?」」」


 三人に頭を下げるトンさん。


「俺たちはその精霊石を探し出して師匠の夢を叶えてやりてーんだ、だがガンガバレーには恐ろしい魔物がいるかもしれねー、俺たちはあくまで鍛冶職人武器を持って魔物と戦えるわけじゃないからなぁ。俺たちもただとは言わない。その精霊石で作られた剣は無条件で譲ってやる、だから一流の剣士として頼みたい」


「ここは人助けだと思ってどうか精霊石の探索を引き受けて欲しいでさぁ」


 テンも頭を下げる。


「人助けか――やろう」


「即答!?」


 ハズレが驚く。


「坊主やってくれるか!?」


「今カンを呼んでくるんで、案内させるでさぁ」


 テンが客間から飛び出した。


「そう言えばそのカンさんの話、聞きそびれていたんだけど……?」


「ああ、そうだったな。カンの奴、実は師匠と一緒に精霊石探しに行っていてな。師匠が死ぬとこ見ちまったんだ」


「だからふさぎ込んだわけか」


「もともと鍛冶屋を独自に開こうとしてたが、なまくらしか作れねーから店は繁盛してなかったみたいなんだが、だから師匠に連れて来られてからは、四六時中どこに行くにも師匠について行った。散々こき使われてたけどな。オレとテンは師匠の教えはもう全部授かった。だが、カンはまだだったんだ。アイツはまだ師匠の背を、その目に焼き付けてねーんだ」


「なるほど……今回の精霊石探しはカンさんを立ち直らせる意味も含まれているってことか」


「ハズレの言う通り、その思惑も織り込んでいる。カンには師匠の代わりに俺たちが教えてやらねーといけねー、いずれは3人でや店をやっていくつもりだ。キンさんの後を継ぎとしてこの店を世界一の鍛冶屋にするつもりだ」


「トンの兄貴、カンを呼んできたでさぁ」


「よし、カン、この人たちをガンガバレーの精霊石がありそうなところまで案内してやってくれ」


「はい、では皆さんついてきてください案内します」


 そのカンと呼ばれた男はさえない表情で肩まで伸びるボサボサな髪形をしていた。

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