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第155話 現実はつらいモノ

 ルール―村・表通り。

 何度も何度も口から胃酸を吐き出して、ロードが路地裏から出て来たところだった。


「はぁ、はぁ、はぁ、何だスワンたちこんなところで……食事はどうした」


 表通りに出るとスワンと目が合った。


「もう済ませて来た」


「ワイン15杯ごちそうさま」


 ハズレには酔った様子もなく手を振られた。


「ねぇそれより大丈夫?」


「はぁ、はぁ、何がだ?」


「あなた家畜が食べられないみたいだけど……やっぱり故郷を思い出してしまうから?」


「まぁ、まぁ、そんなところだ」


「わかった宿屋を探して一度じっくり話し合いましょう。ハズレさんこの辺りに詳しいみたいだけど……宿屋ってどこにあるかわかる?」


 スワンが心配してか、見ず知らずのハズレに訊いていた。


「ああ、分かるが、病気ではないんだな」


 帽子を被り直しながらハズレが訊いたきた。


「病気ではない、ちょっとしたわけがある」


 今のロードにはこれくらいのことしか言えなかった。


「わかった。ついて来てくれ」


 一行はハズレについて行く。



 ▼ ▼ ▼



 ルール―街・宿屋。

 宿屋はこんな時間なのにハズレのおかげであっさり見つかった。

 宿屋の女将に一部屋3人で貸してもらった。

 そしてロードはベットに横たわり気分を落ち着かせ、スワンは椅子に腰掛けて、ハズレは扉の付近で立ち尽くしていた。


「それで気分はどう、はいお水」


 スワンがおいしい水の入ったコップを差し向けてくる。


「ああ、料理を吐いたらだいぶ楽になった」


 ロードはおいしい水に口をつけた。


「そう、やっぱり育ち故郷のことを思い出して気分が悪くなったの?」


「ああ、まさか牛さんや豚さんが食べ物として出て来るとは思わなかった……」


「オレが何とかマスターたちを誤魔化したけど、結局何で吐いてしまったんだ?」


「オレの故郷は動物たちと共存する平和な世界だったんだ。とても食べるって発想はなかった」


「不思議なところが故郷なんだな」


「ハズレさん。ちょっと外へ出てくれないかな……わたしとロードで大切な話があるから……」


「わかった終わったら呼んでくれ扉の前で待っているから……」


 そう言ってハズレは気を利かせて部屋から出た。


「ロード、今日の料理はどんな感じだった正直に言って……」


「最悪だったよ。なんでオレがあんなおいしそうに食べているのか意味が分からないくらい」


「それが普通なの……いい、この無限大世界には動物を食べながら暮らしたり生計を立てたりする異世界がほとんどなの」


「オレの異世界では動物は食べものではなかった」


「そうね、でもね。この先も魔王とか魔物とかと戦っていくには力をつけなくちゃいけない。それはわかる?」


「だが、オレの住んでいた異世界では食用植物というのがあって……」


「ロード、ここはもうあなたの住んでいた異世界ではないの……その現実と向き合って」


「……オレに牛さんや豚さんを食べろと言うのか?」


「そうじゃない、そういう動物を食べる異世界がほとんどだということを、わかって欲しいだけ……」


「動物たちが焼かれ、食べられていく様を黙って見ていろと?」


「そういうこと」


「……………………オレは人と同じくらい動物たちも助けたいんだ」


「それは諦めて……」


「そんなことできない」


「大丈夫、わたしも最初は受け入れられなかったことがあったけど、直ぐに慣れた」


「無限大世界かぁ~~こういう現実と直面するのはキツイなぁ~~」


 ロードが料理となった牛や豚や魚のことを思い出す。すると段々と涙目になっていった。


「大丈夫、これが生きるってことだから、段々慣れていきましょう」


 その時、スワンがロードの頭を撫でた。


「オレもいつか動物たちを食べる日が来るのかなぁ」


「食べたくなければ食べなければいい」


「でも、それじゃあ血肉にはならないんだろ?」


「また食用植物のある異世界に行けばいいだけじゃない」


「そう簡単に言うがオレは動物を食べる人たちが許せないでいるんだ」


「大丈夫、大丈夫だから、いやなら野菜だけ食べていればいいの」


「うっ、うぅ~~オレは食べない、動物は食べない、だって友達なんだから」


 ロードは泣き出してしまった。


「分かった、分かった、もう食べなくてもいいから……」


 スワンがロードを優しく抱き留めた。


「うう、ううぅ~~~~ぐすん」


 そのロードの堪えた泣き声は廊下にいるハズレにも聞こえて来た。


「彼らはオレと同じ異世界人か……」


 ドア越しのハズレの心中は誰にも分らない。

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