第154話 料理に対する拒絶反応
ロードはその場で今まで食べていた食事を吐き出してしまった。
「おいおい、どうしたんだ!?」
「大丈夫ロード!?」
「大丈夫じゃない、おえぇ……ゲッホゲホ」
「どうしたんだ坊主!? 血相なんか変えちまって……」
「なぁマスターさんあんたたちは正気か? 牛を料理に使うなんて……」
「? どういう意味だ?」
マスターは全く心に覚えがない因縁をつけられた。
「だから牛を料理に使うなんて正気かって聞いているんだ!?」
ロードが酒場のマスターに詰め寄り、襟元を掴んで怒鳴り散らす。その声は店内に静寂を呼んだ。
「な、何言ってやがるんだ? 話しやがれ坊主!」
「ロード落ち着けって」
「フーフー」
ロードは料理の品々を見て行くすると思い当たることがいくつかあった。
「この唐揚げは魚の唐揚げだな。食用植物じゃなくて……」
「しょ、食用植物? 坊主何が言いてえんだ?」
「牛や豚それに魚にだって民権があるんだぞ! それらを料理して売りさばこうなんて正気沙汰とは思えない!」
更にロードは酒場のマスターをグイっと腕で引き寄せる。
「あんた達がやっているのは立派な殺害だ」
ロードの目は本気だった。本気で酒場のマスターを殴りつけんばかりに拳を握っていた。
「おいおい、どうしたんだ? 甘酒で酔っちまったとかか?」
ハズレが見当違いのことを訊いてくる。
(牛や豚、魚に民権、そしてそれを殺害呼ばわり……もしかして!?)
スワンには思い当たるところがあった。
「マスターさんを離してロード!!」
「スワン止めるなこいつらは大切な命を散らせて民権のある動物たちを食い散らかして――」
その時ロードは水をバシャリとかけられた。
「目を覚ましてここはもうあなたの故郷じゃない異世界なの……」
スワンが静かに宣告する。
「……………………」
終始無言のロードは酒場のマスターの掴んでいた襟を引き離した。
「…………済まない、マスター手を上げてしまって……」
「か、構わねぇけどよ。一体どうしたって言うんだ」
「ああ、そうかキミ肉類全般を食べない宗教家の人だろう? だから肉を食べてそんなに怒っているんだな」
空気を完全に把握したハズレが口を出した。
「まぁそんなところだ……」
「なんだ坊主、そうだったのか? だったら、トウモロコシでも頼めばよかったのに……」
「ハズレ、お勘定はここに置いておく、あとはスワンと一緒に飲んでいてくれ」
「ん?キミはもう飲まないのかい?」
「ああ」
ロードは出口の方へと踵を返した。
「ちょっとロードどこ行くの?」
「オレは一足先に店を後にする少しだけ一人にさせてくれ」
そう言ってロードは一人先に酒場を後にした。
「待って私も――――」
「スワンのお嬢さん……一人にしてやりなよ」
呼び止められたスワンはどちらを選ぶか迷った末、カウンターの席に着くことにした。
▼ ▼ ▼
ルールー街・路地裏
ロードは気分が悪そうに口元を抑えて次から次へと先ほど食べた料理を吐き出していた。
「お、おえぇぇぇぇぇぇぇぇ!!」
(オレが動物を食べた)
(あの優しかった牛さん達やのんびり日向ぼっこをしていた豚さん達を食べた)
(ときどき挨拶を交わした魚さん達を食べた)
(その同族をオレは食べた)
(気持ちが悪い、気分が悪い吐き気がする)
(オレは異世界に来ておいしいものが食べたかった)
(なのに食べたものと言えばストンヒュー王国で一緒に暮らしていた牛や豚や魚の仲間たち)
(オレはなんて酷いことをしてしまったんだ。もうみんなに合わす顔がない)
(とてもおいしかったのにすこぶる気分が悪い)
「う、うぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!」
ロードは食べた物を吐き続けた。その料理の正体を知った瞬間から身体が拒絶反応を引き起こしてしまったのだった。
それを影から見守っていたのは酒場から出て来たハズレとスワンだった。
ロードが立ち上がるのを今か今かと待っていた。
「お、おえぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!」
ロードは吐き続ける全ての料理が胃の中から出てくるまで、