第149話 自己紹介
7人の大男に襲われていたロードは、そこで一人の男の加勢を受けた。
「だ、誰だテメーは!?」
乱入者に対してリーダー格らしき人物が訊いていた。
「あんたの方こそ誰だよ。人に名乗らせる前に自分から名乗るってのが筋だろう?」
黒髪の紳士な服装をした優男が助言していた・
「ははは、訊いたなこいつ……オレが何者かって? 教えてやるよ。ここらじゃ有名な三ツ星の銀クラスメダルの魔物狩りベルハザン様とはオレのことよ」
「ベルハザンか覚えたよ」
「で、テメーは何なんだ? 妙にいい格好してるがまさかこいつの加勢に来たんでもあるまいな?」
「ノンノン、オレはただの通りすがりさ……けど、同じ魔物狩りがこんな騒ぎを起こしているのが許せなくて乱入したわけだ」
「いいからテメーはどいつだって聞いてんだろうがよ!!」
男の一人が棍棒を使って襲い掛かるが、優男はひらりとかわし胸の方に飾られたメダルをチラつかせてきた。
「げっリーダー! こいつ一つ星のプラチナクラスのメダルですぜ!」
「な、何!?」
「ここは穏便に済ませないか? あんたがたも痛い思いはしたくないだろ?」
腰に提げた剣に手を添えて、抜刀の構え取った優男。そしてその威圧感が7人の男全員に知れ渡る。ただ一人を除いて、
「……!?」
「やめろ、その構えを解け。相手は人間だぞ」
その行動には優男も珍しいものを見るかのような目で見て、その場の威圧感から7人の大男たちを解放して正気に戻させた。
「ハッ! ず、ずらかるぞお前ら、プラチナの魔物狩りなんて相手に出来るもんか!!」
男たちは判断力を取り戻しそのまま闇の彼方へと退散していった。
「酷いなぁ~~オレはまだ自己紹介すらしていないのに……逃げなくてもいいじゃないか」
一つの愚痴とも思える一言を発していた。
「オレはロードだ。キミの名前は?」
「――!?」
優男は素っ頓狂な顔でロードを見ていた。そして、
「ははは、ロード、ロードね。覚えたよ」
何故か優男に笑われるロードだった。
「何かおかしなことでも言ったかな?」
「いやいや、気に障ったのなら謝るけど、キミはどうやら事態の危険さを軽んじていたね。オレがここを通りすがらなかったらキミはあの男たちから暴力を受けていたよ」
「えっ――そうだったのか!?」
そして路地裏の物陰からスワンが大通りへと飛び出していった。
「ロードォ、無事?」
「無事と言えば無事だな。この人に助けてもらわなければ今頃、さっきの奴らから暴力を受けていたらしい」
「そう」
スワンが赤い羽根の帽子をトレンドマークとした優男を見つめる。
「おっと彼女さんが居たんだ……」
「誰? あなたは?」
「おいおい、人に名を訪ねる時は自分から名乗るのが礼儀だろう?」
「わたしはスワン・ブルースカイ」
「スワン・ブルースカイね。覚えた覚えた」
「それで、さっきの大男たちは何者だったの? ロード」
「よくわからないが、みぐるみを全部おいて行けとか言って来た」
「やっぱり追い剥ぎのごろつき連中だったって訳? で、あなたもその仲間なわけ?」
スワンが警戒しながら優男に訊いていた。
(おいはぎってなんだろう? 後で聞いたみるか)
ロードが平常心な顔に戻していく。
「とんでもない誤解だな。オレは一人で立ち向かう同業者の姿を見かけたからたまたま助けに入っただけだよ」
「同業者?」
「見たところその腰に提げた剣を見る限り同業者のそれもメダルを首に下げていないからフリーの魔物狩りか何かだと思ったんだが、正しい認識をしているかオレは、」
「フリーの魔物狩り?」
「おや、てっきりフリーの魔物狩りだと思ったんだが違うのかい?」
またしても優男は意外そうな顔をロードに向けた。
「違う、わたしたちはその魔物狩りとかいう物騒なものじゃなくて、単なる飲料店を経営する商人」
ロードの代わりにスワンが説明する。
「ただの商人には見えないが?」
「もういいでしょ、助けてくれてありがとうございました。それではさようなら……行こロード」
「待った待った何が何やらわからない! 結局あの男たちは何だったんだ!?」
「「ただの盗人だろ」でしょ」
二人が同時にロードに教えてあげた。
「離してくれスワン、この人にはまだ用がある」
「用? 何の?」
「危ない所だったんだろう? オレは……」
「ん? たぶんオレから見るには危ない所だったけど……そちらのお嬢さんはどうだい?」
「危なくないロードは強いから」
ツンとした態度を辞めないスワンであった。
「危ないところを助けてくれたお礼がしたい」
「だったら夕食をおごってくれ実はまだ何も食べていないんだ」
「わかったそれくらいならお安い御用だ。いいかスワン」
「別にいいけどおごるならロードのお金を使ってよね」
「わかった。ところで君の名前は?」
「おお、名乗るのをすっかり忘れていたよ。初めましてお二人さん。オレの名はハズレ・マスカレード以後お見知りおきを」
羽根帽子を手で鷲掴み、胸の位置まで持って行った青年がそう名乗った。