第140話 スワンの葛藤
ロードはヒカリの剣を右手に持ちながら突っ立っていた。
「道の秘宝玉だと!? お前も秘宝玉所有者だったのか」
「知っているか?」
「何を……?」
「最魔の元凶を知っているか?」
「知らないな~~何だ? さいまの元凶って、分かるように説明してほしいもんだぜ」
「ならばもう用はないな、倒してもいいな」
その時、魔王フォッテイルがサッと20メートル以上も後ろへ下がり距離を取った。
この時フォッテイルは、
(――殺気か!? 危険感知がビンビンだぞ! そんなにヤバい相手か!)
そう未知の経験に危機感を覚えていた。
「この光の剣がお前を討つ! そして友達が封印された剣を返してもらう!」
「ケヒヒヒ、おれっちを討つか……しかも秘宝玉所有者なら手加減は命取りになる全力で行かせてもらうぜ!」
「お前のワニの尻尾の振り方はもう見切った、当たりはしないぞ!」
「クロコテイルとカンガルーテイルだけがオレの決定打だけじゃない。いでよ! スコーピテイル!」
魔王フォッテイルの尻尾が全てサソリの尻尾へと移り替わる。
それでもロードは臆さずに前へと踏み込んだ。
◆ ◆ ◆ ◆
フルケット村・大通り。
その頃スワンは新たな異世界へと逃げるために人ごみをかき分けながら歩みを進めていた。
(さっきも思ったけど、なにこの混雑、昨日の比じゃないくらい人がいるじゃない)
(水雲鳥になれれば空を飛んで村の外まで行けるのに……このアイツとリンクした尻尾のせいで使えないってわけ?)
(もう、静かにこっそり忍び寄って来たからって、なにもフルーツの祭典のある今日に来なくてもいいでしょう……?)
(せっかくフルーツの祭典で優勝して、ゴールデンアップルが手に入ると思ったのに、これじゃあわたしが不運を呼び込む女みたいじゃない)
(ロードは秘宝玉を持っている。もしかしたら勝てるかもしれないけど用心に越したことはない。何とか逃げ延びないと……)
(わたしの術は水辺のない所では使えない。今度の異世界が海の広がる場所だったのなら、わたしでも魔王フォッテイルに勝ち目はある)
(今はとにかくロードに任せて逃げるしかない。観客たちにも被害が出ないうちに、この異世界から身を引いて逃げ切らないと、そうすれば魔王はわたしが消えたこの異世界に用が無くなり私について来るはず、そうすれば誰も犠牲者を出さずに済む)
(とにかく一刻も早く村の外へ出てドルちゃんに頼んで異世界へと飛んでもらわないと、いくら魔王を倒したことのあるロードでも危険かもしれない。とにかく今は外へ)
(…………本当にそれがベストな考えなのか? いいえ、わたしが原因でこの村に魔王が出たんだもの。然るべき場所でわたしが決着をつけないと……この村の人に迷惑がかかる前に)
(……いや待って、ここでロードと一緒になって戦う方が良くない? いいえダメ、わたしの水の術は水辺のあるところでしか発動できないもの……これが最善の策)
(けどもし、ロードが何も出来ずにやられてしまったら? いいえ、リンクされた尻尾の引っ張りがないんだもの……きっとまだ無事なはず)
(無事なはず……きっと無事なはず)
スワンは歩きを止めた。
(バカ! いつ着くかもわからない荷船に戻ったって先にロードが傷ついて死んでしまったら意味がない、会って一日の人をそこまで信用するなんてわたしのバカ!)
スワンは歩いてきた道を引き返していた。
(観客の人たちも審査員の人たちも選手の人たちも助けなきゃ確実に――そう、魔王を倒した経験のあるロードを手伝うことそれが最善の策!)
こうしてスワンは葛藤の末、来た道を戻っていくのであった。
(待ってて皆必ず助けに行くから)
◆ ◆ ◆ ◆
フルケット村・フルーツの祭典会場内。
ロードは魔王フォッテイルの8本となったサソリの尻尾を軽やかにかわしたり、道の秘宝玉で作り出した光の剣でいなしていた。未だ竜封じの剣は魔王から取り戻せていなかった。
(何だこのサソリの尻尾というのは、先端に棘がついてる)
(しかもフォッテイルは先ほどから近づいて来ない)
(この攻撃がオレを倒す決定打にもなると言っていた)
(とにかく数が多すぎて注意散漫になってしまっている)
(しかもこの尻尾、甲殻類のような、鎧のような固さを持っている)
(とてもじゃないが、一本ずつ切り裂いていくのは難しい)
「ケヒヒヒ、踊れ踊れ! 一発でも棘に掠ったり、刺さったりしたら、棘の毒にやられて動けなくなっちまうぞ」
「――――なっ!? 毒だと!!」
その時ロードが驚いてみせたのを魔王は見逃さなかった。
慌てふためくロードの隙を自ら作り出しチャンスを逃さなかった。
その攻撃は、
「ケヒヒヒ、ビンゴ!」
棘が地面を掘り進みロードの足場まで辿り着き、下から突き破って意表をついてきた。
「――――なっ!?」
この時ロード自身も終わったと思ったことであろうが救世主が現れた。
「水鉄砲」
ロードの下の地面から這い出たサソリの尻尾が水の放射によってはじき返された。
「――――ん!? 今の水は!」
フォッテイルは仕損じた怒りよりも、それが来たことに意外性を感じていた。
「助けに来たよロード!」
会場の入り口からスワンが乱入してきた。