第136話 対決、魔王フォッテイル!
スワンが逃走の為、会場から新たなる地へ旅立ったが、
「逃げられると思っているのかなぁ!」
スワンの尻尾と魔王フォッテイルの尻尾は繋がったままである。その為、元の位置に戻すのは容易である。
「させるか!」
ロードがその尻尾の前に立ち掴む。
「そんなことをして何になる! ケヒヒヒ、ホ~ラ、またまた白鳥の一歩釣りだ!」
そんなことを言いながらフォッテイルは尻尾を引き上げたのだったが……
「させるかと言ったはずだ!」
ロードはその場から一歩も動かず、尻尾の引き寄せる勢いを押し殺していた。
「ぬぅお前……結構、力があるんだな。その細腕のどこにそんな力があることやら」
ロードの圧倒的腕力を見て魔王はぼやいていた。
「スワンはどうもさせないオレが守る」
「守るだと? ケヒヒヒ、やれるものならやってみな! 引きずり出してやるだけだ!」
その時、魔王の尻尾は伸びた。そして一気に縮むような仕草があった。しかし、
「ぬぅ、こいつ……引っ張っても、尻尾が縮むように命令を出しても一歩も動かない」
「言っただろうスワンはオレが守ると」
「どうやらお前を始末してからじゃないとあの水色髪の女には近づけないようだなぁ」
「その通りだ魔王フォッテイル」
「おれっちのことあの水色髪の女から聞いたのか?」
「聞いた」
「なら、おれっちが持っている秘宝玉の話も聞いているだろ」
「聞いている尻尾の秘宝玉なんだってな」
「ケヒヒヒ、そうだ! お前は多少、剣技や身体能力に自信があるのかもしれないが、この秘宝玉の前では無力だ!」
フォッテイルは詫び錆びのある風体から肩を出して、埋め込まれた真っ黒な秘宝玉を見せて来た。
「尻尾の秘宝玉か……」
「そうだこの尻尾の秘宝玉の前ではどんな大男だろうが苦戦するんだよ!!」
この瞬間、フォッテイルがスワンとつながっている尻尾を引っ込めた。そして別の尻尾を生やしてきた。それはスワンの水鏡で見たワニの尻尾だった。
ズダンという尻尾を打ち付ける音と共に、地面にへこみが生じる。
「ケヒヒヒ、痛いぞ~~、当たるととても痛いから覚悟しろよ! ケヒヒヒ、行くぞ」
ロードとフォッテイルの間合いは7メートルほど、ここからでは剣リーチと尻尾は長く伸ばしたリーチとで、勇者の彼の方が不利だった。
(尻尾のリーチ、10メートルはある)
(ワニの尻尾はこんなに長くはないだろ)
(それとも異世界のワニはもっとデカい尻尾を持っているということか……?)
(どちらにしろこの間合いでは不利だ離れるか何かしないと)
ロードが一歩二歩下がった時だった。ふと脳裏によぎった。
(バカかオレは、一歩の二歩下がってしまっては会場にいる観客たちが巻き込まれてしまう可能性があるじゃないか)
(オレがやらなければならないことは皆を守りつつ魔王を討伐すること……)
(ここで下がってはいけない、あくまで会場の中央で戦うことだ)
(だったらこの場合の戦法は一つ)
(前に出ること!)
ロードは前に出た。
「ケヒヒヒ、馬鹿か!」
フォッテイルは強力な力を有するワニの尻尾を振るう。それを飛び越えた魔王に接近し、ロードは竜封じの剣を魔王に向けて振り切る。
「――なっ!?」
刹那の瞬間だった。ロードは吹き飛ばされた。正確にはフォッテイルが無理やり間合いを一気に詰めて頭突きをしたのだった。ぶっ飛ばされたロード、会場には不安の声がヒソヒソとささやかれていた。
(いけない、ここで負けてしまったら次に被害が出るのは村の人達かもしれない)
(負けるわけにも、間合いを開けるわけにもいかない)
(もっとだもっと詰め寄れ)
ロードは闘志を持って魔王に近づいていく。
「ケヒヒヒ、間合いを詰めれば確かに尻尾の振りは脅威じゃなくなるよなぁ、なにせ尻尾の攻撃最大の威力はその先端の遠心力によるもの間合いが合ってそれに打撃を受ければ大ダメージは必須。よくわかってるじゃねぇの……正解だよ近づいてやり過ごすのは……」
(何!? そうだったのか!)
それを聞いてますます足に力が入り魔王との間合いを詰めるのだが、
「――うあっ!?」
またしても刹那の瞬間に頭突きを食らうのだった。そしてまたしてもぶっ飛ばされる。
「だから、言っているだろ! おれっちには秘宝玉があるってことを!」
魔王は未だダメージを受けず君臨していた。
(くっなんだ今のスピードは、これも秘宝玉の力だって?)
ロードと魔王の戦いはまだ始まったばかりであった。