第134話 デモンストレーションにしてみた
レンガの塔から登場してきたのは、50人の選手と数人のスタッフ、そしてスワンだった。
更に出て来たのは異形の影、その姿は顔がキツネのように、腕が肩から両側に伸び、詫び錆びの有る風体をしていた。
「ケヒヒヒ、水色髪ちゅわ~~ん。大人しく捕まってくんね~~か~~」
「これは一体どうなっているのでしょう! 敗退した選手たちが続々とレンガの塔から出てきます! 諸君敗者復活戦なんてないんだぞ! というかあの化け物は何なんだ飛び入り参加の着ぐるみを着た選手なのでしょうか!?」
(選手? アレが?)
(いや、どう考えても魔王だぞ)
(先日スワンに見せてもらった水面の鏡に記録された魔王フォッテイル)
(その姿と寸分の違いがない)
(そしてかつてアグロ―ニ戦で感じた異様な雰囲気を感じさせる)
(しまいにはスワンがオレたちに逃げろという)
(冗談じゃない、せっかくのフルーツの祭典を邪魔されて、はいそうですかって引き下がれるもんか)
(戦う、オレは戦うぞ!)
ロードとスワンがすれ違う。
「ロードォどこへ行く気!?」
振り向きざまにスワンが呼びかけて来た。
「決まっている魔王を足止め……いや倒す! それがオレの勇者としての使命だからだ!」
ロードは魔王フォッテイルと対峙する。
「なんだぁお前さんは?」
「オレの名はロード魔王を退ける勇者の称号を手にした者だ!」
「勇者? 聞かない称号だな~~ケヒヒヒ」
「あんの~~ロードさんこれは一体全体どうなっているのですか?」
「スベリさんは審査員の方々の方へ、なんだったら余りのジュースを飲んでいてもいい、すぐに片付けるから」
スベリさんはそれを訊いてロードの言う通りにした。
「何だ何だ!? なんなんだぁ!! この着ぐるみの正体は!? 対峙しているロード選手と何か関係があるのでしょうか!?」
「ただのデモンストレーションさ……」
ロードは司会者に流し目で訴えかけてみた。
「なんだぁただのデモンストレーションか……」「けど見ごたえはありそうだ」「頑張れ~~ロードのあんちゃ~~ん」
「何だ、ってっきり化け物が現れたのかと思ったよ」「ウェーーーーイ」「何だそうであったか」
スモモさんとワーイさんの選手たちが魔王を見て何かしらの余興と見て取る。
この時スワンは思っていた。
(どういうこと……どうして魔王だとみんなに言いふらさないの!?)
(それに皆ロードの言うことを信じているし……)
(……教えないと駄目なのにでなきゃ皆、魔王に殺されてしまう)
(それがどうして祭りのデモンストレーションに見えてしまうの)
(百歩譲ってわたしがロードの立場だったとしよう)
(ヤツの注意をこちらに向けさせることで観客たちへの逃げる時間を稼ぐ)
(いいえ、たぶんこれが狙いじゃない……そんなこと言い出したらデモンストレーションじゃなくてもいい)
(率直に魔王が攻めて来たってみんなに言えばいい……それをしないのはどうして?)
(――――!? もしかして――)
「あの~~ロードさんこれは一体どんなデモンストレーションなのでしょう」
「今回優勝したら決めていたんだ何かショーをして皆の活気を盛大にしようって、それで悪を滅する勇者の物語を作りたかったのさ」
「おお~~ロード選手の物語ですか? なるほど私も喉を使いすぎて乾ききっていたところです」
「それならあまりのデラックスレインボーミックスジュースがあるから飲んでみるといい」
「わかりました。ではお言葉に甘えて……では皆さん優勝した記念にロードさんがデモンストレーションを見せてくださいます! 皆さまどうかロード選手を応援してあげましょう!」
司会者が審査員たちの元へと駆け寄っていった。
「いいぞ~~若いの~~」「何見せてくれるんだ~~」「応援なら任せとけ~~」「頑張れ~~新王者」
(――違う。これは皆がパニックにならないように演技をしているって言うの……?)
スワンはこんなことを脳裏に閃かせた。
「さて魔王フォッテイル、オレと少し話をしようか」
ロードは鞘から赤き竜封じの剣を抜くのであった。