第133話 ロード、秘策の料理
「皆さん長かった今年のフルーツの祭典もエントリーナンバー52番を残すだけとなりました!」
(うう緊張してきた……)
(いやでも味見はしたんだ)
(スワンのお墨付きでもあるしきっと大丈夫)
(おいしい料理に仕上がってるはず)
レンガの塔で立ち尽くすロード、出番の時を待っていた。
「さぁエントリーナンバー52番ロードさんの入場でーす!」
(さぁ行こう)
「行ってらっしゃい」
スワンが見送る。
「ああ、行ってくる」
ロードが入場する。
パチパチパチパチとまばらに拍手が鳴り響く。
「さてさて入場してきたロード選手、何とも隅におけないイケメン顔だ。これなら女性層のファンが出来てもおかしくはない!」
「あっ、ロードさんついに出番ですんな~~」
会場内にいた現在1位のスベリさんが近づいて来ていた。
「ああ、スベリさんトローのイチゴをありがとう。アレのおかげでいいフルーツとばかり物々交換できたよ」
ロードは礼儀正しいお辞儀をした。
「お役に立てて何よりでさ~~」
「おおっと。ロード選手何やらスベリ選手と話し込んでいる様子! ひょっとして因縁のライバル関係だったりするのだろうか!?」
「まぁそんなところです。ナニガシさんもこんにちわ!」
緊張しながらもロードは言い切った。
「お~~お~~昨日の若いもんか~~」
ナニガシさんもロードのことを覚えているようだった。
「これは優勝候補のスベリさんと審査員のナニガシさんと面識があるようです! 凄い参加者のとりに相応しい男が現れたぞ!」
「司会~~料理の紹介は何なんだ~~!」「勿体ぶらずに早く進行しろよ~~!」
司会者へと野次が飛んでいく。
「たはは、これはまた手厳しい!!」
「ありがとうスタッフさん」
ロードが料理を乗せたキッチンカートを運び込んだ女性スタッフにお礼を言う。
「いえいえ」
キッチンカートの上にはロードが作ったと思われる料理が乗っかっていた。
「おおっとこれは布に包まれた五つの円柱のような形のものが現れたぞ!」
「「「なんだなんだ?」」」
審査員の各方々にその布で隠された五つの円柱が、一つづつ手渡されていく。更には付属のストローまで、
「砂やほこりを警戒して布で隠せていただ来ました」
「では審査員の皆さんその布を取り外してください!」
(頼む、誰かの二番煎じにはならないでくれ……)
「むっこれは?」
始めに布を解いたのは発想部門の審査員ジャンハルさん。
「ジュースですかな?」
次に布を解いたのは見た目部門のビューナツさん。
「しかしただのジュースではありませんな」
更に布を解いたのは味部門のグルアキさん。
「さてどんな料理が出て来るのかと思えばジュースが出て来たぞ! ロード選手この料理名は何なのでしょうか!?」
「名付けてデラックスレインボーミックスジュースです」
ロードは自信満々気にその名を口にする。
「では審査員の方々試飲の方をどうぞ!」
審査員が試飲を促す。
「このデラックス感、そしてミックスという単語、どういう発想なんだ?」
「それは何度も果汁を絞りつくして、全ての果汁を合わせたらどうなるのかな~~と閃いた結果です」
「見た目が何よりいいジュースと言ってもただのジュースではない。七色に光り輝いている」
「それは順番に果汁を絞り出して混ぜ合わせたモノ、何度も何度も調整を繰り返しやっと七色にまでこぎつけた結果です」
「さて発想や見た目はいいとして問題は味だ、試飲てみよう」
ストローで飲み込んで行く。
「ん、この味は、、、はただのオレンジジュースの味ではないか、至って平凡な味だ」
(やっぱり、単体の果物のジュースではただのオレンジジュースになってしまうか)
(この発想を思いついて本当に良かった)
「もう一度よく飲んでみてください、ただのオレンジジュースではありません」
「まぁ構わないが……」
味部門の審査員が再びストローを口にする。
「――――ん!! この味はピーチさらにサクランボの味まで一体どういうことだ!?」
「さらに飲んでみてください」
ロードが味部門の人に促す。
「わ、分かった」
スーーーーっと飲み込んで行く審査員すると、
「こ、これはトローのイチゴ味!?」
「本当じゃわい、先ほど食べたトローのイチゴ味がするぞい」
「一体どういう構造をして…………構造、そうか構造か!?」
「はい、オレが気づいたのはジュースによる混ざり方です色々な果汁の味を楽しんでもらおうと構造形式をとりました」
「だがこれではただのジュースの寄せ集め、審査するまでもなくスベリさんの勝利となるだろう。よって」
「――お待ちください」
トロッピ村長さんの発言を制止させる。
「何だね?」
「忘れていませんか? このジュースがデラックスレインボーミックスジュースであることを……」
「どういうことだね?」
「ミックスです。ストローでかき混ぜてみてください」
審査員の方々は言われた通りストローでかき混ぜ始める。
「そろそろ頃合いです。再び飲んでみてください」
「では……――むっこの味は!?」
「なんじゃいこれは、本当にフルーツの味かのう」
「舌の中に広がるのは様々なフルーツの味をあわせもった一品、それでいて互いの味を殺さずに生かしている」
「何とういう発想だ」
「それでいて喉腰も悪くはない。すんなりと喉がジュースを受け入れていく」
「この七色に広がる味こそが真のデラックスレインボーミックスジュースとやらか……」
今度こそ村長も驚いていた。
「はい」
「はははははは、驚いたまだこんな発想があったとは!」
「うむ、混ぜて見ても見た目に違和感はなし!」
「味に関しては文句の付け所がない」
「お前さんこの料理どれ程の期間で完成させたのじゃ?」
「昨日徹夜して作りました」
「何ともまぁそんな短期間でこの発想、あらゆる果物のいいとこどりをしたジュース。とんでもないものが出てきましたな」
「ではでは審査員の方々、審査の方をお願いします」
(いい反応だが、果たしてスベリさんに届くことやら)
「やりますね~~ロードさん」
「得点が出ました! では発表します。10点、10点、10点、10点、10点で合計50点!! 出ました!! 最後の最後に大番狂わせが!! スベリさんのイチゴケーキを凌ぐ、いやフルーツ祭典の歴史上最高得点です!! 圧勝です! これはもう言っちゃいましょう優勝者はロードさんです!!」
(勝ったのか?)
(オレの料理が)
(夢ではないか)
「いんや~~おめでとうございますロードさん」
「さぁ皆さん新王者を称えて栄光の拍手と喝采を送りましょう!!」
観客たちのパチパチパチと拍手が鳴り響き、オオ~~っと大喝采が腹の底から湧き上がる。
「これにて全エントリーナンバーは出そろいました。それでは表彰式に参りたいと――」
「――ロードそれから皆ぁ逃げて!!」
その時、レンガの塔から外へとスワンが走り出し、思いっきりこちらに向けて叫んでいた。
しかもスワンだけではない。レンガの塔で待機していた参加者全員が走り込んでいた。とういうよりも何かから逃げ出していた。
(なんだ一体?)
(レンガの塔でいったい何が……)
(スワンが逃げ出してきたこと)
(そしてスワンが異世界から異世界へと飛んできた理由……)
(まさか!?)
レンガの塔から人ではない異形の姿が飛び出して来た。
「ケヒヒヒ、やっと着いたぜ水色髪ちゃ~~ん」
(魔王か!?)
異世界からの刺客がフルーツの世界にやって来ていた。