第127話 会場への到着
「……ード……っと……ード」
少し耳障りだった。閉じられた瞼が重いのでそのままにしておきたいのだが、
「ロード……早く起きて……ロードったら」
「少しくらい寝かせてくれよ……何時に寝たと思っているんだ?」
寝言のようにゴニョゴニョ喋る。
「何時に寝たの?」
「今朝の7時」
「料理は完成したの?」
「完成間近……あとはメロンを加えるだけ……?」
「だったら早く行きましょうフルーツの祭典に参加登録しないと出られないんだけど……?」
「スワン登録してきてくれ」
「何を言ってるの? わたしだってさっき起きたばかりなんだけど……いい? 祭典開始時間は午前12時、そして登録受付終了時間が午前11時……そして今の時刻が何時だかわかる?」
「オレは寝てないから午前7時のままだろう?」
寝言のように吐き捨てる。
「いいえ、あなたは眠っていたの……それも3時間半も……ってことは今何時になってるかわかる?」
「7時プラス3時半で10時半?」
「正解……」
「……10時半……登録締め切りが11時――11時!?」
突然、地面にうつぶせの状態から起き上がったロード持っていた懐中時計に目をやると16時を指し示していた。
「あの~~16時何ですけど……」
「異世界時刻調整システムが入っていない時計何て当てにならないんだけど……」
「異世界? 何だって?」
「何でもいいから、あなたは先に出発してきて、後片付けはやっておくから……ほら残り物のフルーツを持っていってらっしゃい」
そう言うスワンが残りの全種類のフルーツの入った紙袋を押し付けて来た。
「わかったありがとう」
「お礼はゴールデンアップルでいいから、それで本当にわたしのおいしい水は使わない気なのね?」
「ああ、誰でも作れる簡単なメニューがいいと思ってさ」
「わかった。それじぁわたしは観客席の方から見てるから頑張ってね」
スワンが水にぬれたタオルを渡してくる。これで顔でも洗えと言いたげなのだろう。
「じゃあ行ってくるよ」
スワンにタオルを返し山盛りのフルーツの入った紙袋を持ってフルケット村へと向かって行くのだった。
その時スワンは内心、
(まったく、わたしの方がひやひやしてどうするんだか)
(見ず知らずの人間と共に一夜を過ごすなんて……)
(おいしい水も使わず皆の作れる料理、いい案だと思うけど)
(あの人間今まで見て来た他の人間にはない何かがある。それはわたしが探し求めて来た)
「真っ直ぐさかな?」
(あっ、時計渡すの忘れてた。まっいっか)
と思っていたのだった。
◆ ◆ ◆ ◆
フルケット村
ただいまの時刻は午前10時55分。
無事ロードはフルーツの祭典が行われる会場に到着したのだった。
実はとういうと村の人ごみの中だけを進んできたわけではなかった。
彼は屋台のテントが張られたエリアを極力避けて屋根や壁のついている建物を進んできていた。
その理由は至極単純なもの、ただ単に屋根の上を壁の側面を走れるというものだった。
「よし! ここが会場だな」
1000人規模が入れる会場と言えば屋根から見渡す限りその建物しかなかった。
いくつものテントの列が円状に並んでいて会場を作り出していた。テントの上には1、2、3、と数字が割り振られていた。これは観客席であろう合計100まであり一つのテントに10人程度しか入ることが出来ないようだ。そしてひときわ目立つのがテントとテントの境界線のような場所にレンガの塔がそびえたっているのだ。その向かい側には入り口と受付所のようなところがあった。
ロードは自慢の足腰に気合を入れて走っていた壁を蹴り上げて、入り口部分へと突撃していった。
スタンと降りたいところを、スライディングするようにズザザと滑り込んだ。
「セーフか?」
到着ざまに受付の女性と思われる人に訊いていた。
「な、何がでしょうか?」
何故か引き気味に訊いていた。きっと来訪の仕方が他の参加者や観客たちに比べておかしかったのだろう。
「今回のフルーツ祭典に参加したいのだが……」
「それならば向かい側の受付にて申請してください。こちらの受付は観客様方のチケット拝見の席なので……」
「うん? そうなのか……」
言われてみればロードは、行列に並ぶところを割り込んだ観客かと思われた目で見られていた。
「済まなかった」
一応観客には謝っておいた。そして向きを変えて参加者登録用の受付に足を運ぶ。
「参加登録はまだ間に合うか?」
「あっはい、一応ギリギリセーフですね」
受付嬢が時計を見ながらそう言った。
「なら、参加をしたい登録できるか?」
「あっはい出来ますとも、ではこちらに名前と出身村と今回出品される料理の品をお書きください」
「わか――――えっ?」
ロードは見をもって知っていた。
(この異世界の文字なんてわからないぞ~~~~)
土壇場に来て窮地に追いやられるのだった。受付終了まであと4分。