第126話 ジュースの試飲
「不合格だと?」
「ええ、誰でも思いつきそうだもん。ミカンの果汁でジュースづくりなんて……」
スワンがコップをロードに渡す。
「だったら、マスクメロンのジュースの方が言いてことか?」
「そうは言ってない発想が貧困だってこと……何か工夫しなくちゃダメじゃない?」
「中に何か入れるとか?」
「まさか、ミカンの実をそのまま入れるだけとは言わないでしょうね……?」
「入れるだけじゃダメか?」
「はぁ~~発想が貧困すぎるミカンの実を入れるくらいで優勝できるようなコンテストならあんな小さな村には誰も集まらないでしょう? それくらい倍率が多いと思うの……」
「そうか……だったらリンゴジュースで行こう」
「あなた……わたしの声届いてる? 発想が貧困だって言っているの? それをどうにかしないと祭典で優勝なんて出来ないと思う」
「発想か~~何かひと工夫すればいいってことか?」
「そうなるでしょうね……」
(ひと工夫……)
(そいえばミャーガン山で出会った小鳥たちに辛い蜜で味付けしたっけ)
「わかった……とりあえず全部のフルーツでジュースを作ってみる。一工夫考えるのはその後でもいいだろう」
「試飲は任せてこれでも飲料店のいちオーナーなのだから」
「はいはい、そこは飲料店のお姫様の舌を借りるとしますよ」
「おいしい水に負けないでね」
「まずはイチゴのジュースを作ってみよう」
搾り機にイチゴを押し付けて、その汁をコップに流し込む。
「イチゴジュースは飲んだことないなぁ~~」
スワンが物欲しそうにこちらを見て来るが、構わずイチゴジュースを飲み込んで行く。
「イチゴの味がするだけだなぁ」
「ちょっとわたしにも飲ませてよ」
イチゴジュースの入ったコップを渡してあげる。
「イチゴジュース赤すぎ……それにツブツブの喉越しが最悪、まぁおいしいけど」
ほんの少しの文句を言いながらもゴクゴクと飲み干していく。
「次は何にしよう……ドラゴンフルーツ行ってみるか?」
「いいんじゃない? 飲んだことないけど……」
今度はドラゴンフルーツをナイフで半分にした状態で、搾り機を使い押し潰して行く。
「少し甘いな」
「貸して貸してわたしも飲む」
スワンにコップを渡してあげる。
「うん、甘い。でもこれなら酸味と甘味の合わさったオレンジジュースの敵じゃない」
「そうだなぁ~~じゃあ次は王道のリンゴジュース行ってみるか?」
「飲んだことあるの?」
「あるさ、オレの育ち異世界は、食用植物が主流の異世界だったからな」
「それなら果物の新しい食べ方とか知らないわけ?」
「知らないな。果物は生で食べるか、ジュースにして飲むかしか聞いたことない」
「じゃあ焼きリンゴは知らないわけだ……」
「焼きリンゴ? 何だそれは?」
「リンゴを焼いただけの料理」
「何だ、食べたことがあるのか?」
「ある……結構おいしかった」
「そうか! それなら発想力がつくんじゃないか!」
「それはどうかな? わたし村の市場でリンゴを焼かれている姿が見えたから……」
「それじゃあ、この異世界では常識の料理になっているから発想力で驚かせることは出来ないか」
ロードはリンゴを力強く搾り機に押し込んで、その果汁を奪い去ってコップに注いでいく。
「よし、王道リンゴジュースの完成だ」
ロードは果汁をすすっていく。
「次はわたし」
コップをスワンに渡してあげる。
「シンプルでおいしいし、これでいいんじゃないのか?」
「でも優勝賞品ってこのゴールデンアップルなんでしょ? これをジュースにした方がおいしいんじゃない?」
「ああ~~そうか~~ゴールデンアップルがあったか~~はぁ~~」
ロードは一気に脱力していく。
それから二人は色んなジュースを試していく。キウイ、ピーチ、チェリー、パイナップル、バナナ、ブドウ、マスカット、マンゴー、レモン、柿、梨のジュースを次々お試していくがどれもこれも決定打に掛けていた。
「とうとう見たことも聞いたこともないモロコのジュースにまで手だし始めたね、甘辛くて飲み物には合わないんじゃないかな~~」
「どうすればいいんだ」
「わたしのおいしい水には遠く及ばない甘味ばかりだったけど……」
(おいしい水か、あの水の甘さを持つ甘美な果物は確かになかったな――!? 待て!? おいしい水!? これかもしれない)
「スワン! おいしい水を持って来るんだ!」
「えっどいうこと?」
「おいしい水を加えてジュースの甘味を増すんだよ」
「いいけどそれって味だけで勝負するってこと?」
「そうだ」
「まぁ、あなたがそれでいいのなら加えてあげてもいいけど……ちょっと待ってておいしい水を持って来るから……」
「ああ、頼む」
(おいしい水を加えるとまた味は変わるだろうか?)
(他に加えたら何か変わるだろうか……?)
(塩、コショウ、唐辛子、うん斬新じゃないか)
(でも何か引っかかるこの混ぜ物たちで料理するとおいしいわけがない)
(これでは味で勝負するっていう前提が崩れてしまう)
(じゃあ何を混ぜよう)
ロードは山のように積まれた果物を見る。すると、
「混ぜる……混ぜる……これか!?」
ある閃きが脳裏をかすめた。