第123話 どんなことをしても取れない尻尾
「尻尾の秘宝玉?」
ロードはブドウに手を出しながら訊いていた。
「そう、それが魔王の持つ秘宝玉の名前。あなたの戦ってきた魔王の秘宝玉はどんなものだった?」
スワンもマスカットを手にしながら口ずさむ。
「ああ、まず麻鬼刀という刀でアカを刺してその力を徐々に奪っていくものだった」
「そうじゃなくて、どんな名前の秘宝玉だったかを訊いているの……?」
「どんな秘宝玉と言っても……名前までは教えてもらってない。ただ秘宝玉という単語しか聞いていない」
「そう、それで他にはどんな能力が秘められていたの?」
「黒い衣を大剣の形にしたり、人を黒衣の中に収納したり、波動弾のようなものを打ち込んできたりしてきた」
「黒衣の秘宝玉かな? でも、その麻鬼刀という力が本当ならまた別の能力かもしれない……」
「お前でも分からない能力ってことか?」
「ええ、分からない」
「じゃあ次は尻尾の秘宝玉について教えてくれ、結局、その猫のような尻尾は何なんだ?」
「これは魔王が追跡するためにつけられたの……」
「追跡? ……だからさっき魔王がこの異世界にもやって来るって言ったんだな?」
「そう」
「でもその尻尾でどうやって異世界から異世界に渡るんだ?」
「まだわからない? この尻尾と魔王の尻尾は繋がっているから、尻尾を辿ってどんな異世界にも自由に行ける能力があるの……」
「どんな異世界にもか~~」
ロードは少しおっとりとした表情を見せる。
「そこ、ちょっと羨ましそうにしない。追いかけられてるだけなんだからね」
「まぁ何にせよその尻尾がある限り魔王はついて来るわけだ」
ロードは鞘から剣を抜き取る。
「もしかして剣でこの尻尾を切断する気?」
「ああ、そうしようと思うが、ひょっとして痛覚が通っていたりするか?」
「いいえ、どうぞご自由に……」
マスカットは節から取り除いて皮を剥き、適当に食べながら答えるスワン。一応ロードが尻尾を切り落としやすいように、座った状態のままお腹の前まで持って来る。
「行くぞ――」
発声と共にロードは赤き剣で尻尾を切り落とそうとした。しかし、
「――にょろんって滑るでしょ? わたしもナイフを片手に試したから」
「切れないのか? どうやっても……」
「一応出来る限り手は尽くした。燃やしたりすると火の届かないわたしの後ろや前に移動したり、引っ張ってもちぎれることはないし、重いものを乗せて潰しても何ら効果はなかった」
「じゃあどうすればいいんだ?」
「だから、お願いしてるんじゃない。魔王を倒してくださいって……」
「倒せば消えるのか?」
「そうじゃないと困る。一生尻尾の生えた人間なんてイヤだし……」
「わかったその尻尾は魔王がここに来たら倒して解決しよう。どれくらいの時で魔王はここへ来るかわかるか?」
「えっと、明後日くらいには到着すると思う」
「明後日ならフルーツ祭典には支障はないな。けどどうしてわかるんだ?」
「前にいた異世界だと、この尻尾が突然震えだしてその一日後にやって来たからだけど……」
「その後すみやかにこの異世界にやって来た?」
「ええ、そうなるかな」
「わかった」
ロードは納得して座り直し再度ブドウに手をつける。
「本当に逃げ切るのは苦労した……で、ここからが訊いておいてほしい話なんだけど?」
「何だ?」
「まず魔王の名前がフォッテイル……」
「フォッテイルか、よし覚えたぞ」
「次に尻尾の秘宝玉の効能について教えておく」
「効能?」
「ええ、力、能力って言えばいいのかな? アイツの戦い方なんだけど聞いておいた方がいいと思う」
「……(何か引っかかるな……まぁ今は)わかった。教えてくれ」
「まず異様な動き方をするの。こう魚がにょろにょろってするような動き方ね……? それがまた恐ろしく早くて、これを魚の尻尾って覚えておいた方がいい」
スワンは実演して見せる。
「次にどんな態勢を取ろうともバランスを保つ尻尾、例えばこう片足一本でも腕の一本でも立って、決してバランス感覚が狂わないような効能を引き出したりする猫の尻尾も覚えておいた方がいい……それから自分に危険が迫ると予見する犬の尻尾とか、尻尾を掴んで捕えようとすると別の尻尾に切り替えて自動で切断されるトカゲの尻尾とか、よくわからないけど隠れ潜んでいても、どこに何が居るか当ててしまうサルの尻尾とか」
「それが魔王フォッテイルの秘宝玉の力か厄介そうだなぁ」
「そうなの? もう厄介すぎて厄介すぎて戦うのをやめて逃げてきちゃったって訳……」
「えっ?」
「あっ――」
スワンがしまったという顔をしている。
「戦ったいたってどういうことだ?」
「それは……」
「……………………まぁ戦っていないと能力や効能何てわからないよなぁ(引っ掛かっていたのはこれのことだったか)」
「ごめんなさい。黙っていて、わたしの力では魔王は倒せなかったの……」
「お前の力?」
「ここまで話したんだし見せてあげる。わたしと魔王の戦いぶりを……」
マスカットの最後の一粒を口に運んで、スワンがロードの隣に腰を下ろしながら言った。