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第118話 試飲のおいしい水

「呼び込みって……確かに頭数は揃っているけど、あなたに出来るの?」


「バケツはあるか?」


「あるけど、どうするの?」


「おいしい水を配ってくる」


「はぁ!? ただで!? 冗談じゃないこっちだって生活掛かってるの、ただであげられる水なんてない」


「あげるんじゃない、試飲してもらうだけさ」


「どういうこと? しいんってなに?」


「試しに味見をさせてあげること、何かおたまみたいなのもないか?」


「あるけど……本当にそんなことでお客さんは来るの?」


「いや、それだけじゃだめだ。ここがどの辺りで、どういうお店か尋ねられたら、分かりませんじゃ話にならない」


「だったらどうするの?」


「キミならここをどう呼ぶ?」


「大通りから外れたティーカップのお店、フルーツカフェ・トロピカンの前って伝える」


「わかったそう伝える」


「えっそれだけ?」


「とにかく他にも情報が必要だ。荷船なら何か帆みたいなものはないか?」


「あるけど何に使うの?」


「お前の店、名は何という?」


「えっ名前? 決めていないけど……」


「じゃあとりあえず、おいしい水はここにありますって帆に書いてくれ……」


「どうやって書くの?」


「わかった。帆を出してくれ……」


 スワンは言われた通り帆を持って来て路上で広げた。


「これでいい?」


「ああ、じゃあこのキンぺの実でおいしい水はここにありますって書いてくれ……」


「キンぺの実ってなに?」


「よくペンキとかに使われる木の実のことさ。知らないか?」


「知らないどうやって使えばいいの?」


「まず実の先端部分を切って、断面図から汁が溢れ出すから、それを文字の形になぞっていけ。出来るだけ大き目な文字で目立つように……」


「わかった」


 ロードはキンぺの実の先端部分を切り断面図の形にする。

 それをスワンが受け取って帆にこの世界の文字でおいしい水はここにありますと大きく書いていく。


「出来た……これでいい?」


「ああ、それでいい。あとはさっき言った。おいしい水の入ったバケツとお玉を用意してくれ」


「わかった」


 フルーツのペンキまみれになったスワンが荷船の中へと入って行く。

 そして数分後、戻ってくる。


「これでいい?」


「上出来だ。あとは帆を見やすいような位置に飾っておくんだぞ……?」


「わかった」


「オレは大通りの方へ行ってここのおいし水のことを伝えて来るからな」


「行ってらっしゃい」


「ああ」


 そうしておいしい水販売の作戦が始まった。



 ▼ ▼ ▼



 フルケット村・大通り。


 ロードは水売りの宣伝を開始していた。

 歩きながら宣伝しているので、バケツから水を零さないように慎重に動いていく。


「おいしい水で~~す!! 甘くて冷たいおいしいみずで~~す!! え~~今なら何とこのおいしい水~~ただで試飲できま~~す!! よかったらお試しを~~!!」


 一組の家族が前を通る。


「お母さん、、、お水飲みたい……」


「はいわかったわ。すみませんお水を少しいただけませんか?」


 子供の母親がそう話してきた。


「はいどうぞ……お玉いっぱい分ですけど……」


 男の子にお玉を渡す。すると目を輝かせながら飲んで行くのがわかった。


「おいしい、、、まるでフルーツジュースみたい」


「ほう、フルーツジュースとな、、、どれ私にも一口分けてくれないだろうか?」


 父親がそう言う。


「はいどうぞ……」


 水をくんでお玉を渡す。


「んん!? これはおいしい!! 君もう一杯だけ飲ましてくれないか?」


「試飲はここまでです。もし宜しければ、人通りのない村の隅ですが買って行っていただきたい」


「そうか、お前も飲んでみなさいそれでおいしければ買っていくとしよう」


「私は今喉乾いていないけど……」


「ママもママも……」


「わかったわ、では一口だけ……」


「はいどうぞ」


 おいしい水の入ったお玉を母親の方に渡す。そして静かにスススゥーーーーと飲み干していく。


「――おいしいわこれ」


「店はフルーツカフェ・トロピカンの前です」


 お店の位置を指を差して教えてあげる。


「わかったありがとう」


 家族連れ連れがスワンのいる方へと歩きだして行った。


「お兄さん、わしにもくれんかね? 客引きをしていて、もう喉がカラカラでいっぱいいっぱいなんじゃ……」


「いいですよ……」


 おいしい水を含んだお玉を差し出してあげる。そうするとおいしいらしく店の名前を聞きに買い出しに行ってくると言う。


 今度はお金持ちそうな商人が試飲する、すると何故か頼んでもいないのにフルーツをどっさりくれると言うのだが、断って代わりにお店の場所を伝えると直行して行った。


 お次は賑やかな観光客、はしゃぎすぎて疲れたところを通りかかったので水を試飲させる。すると元気が出たのか店の情報を与えるとすぐさま駆けだして行くのだった。


 他にも村で働く土木関係の人、花を売る花屋の人、果物を売る果物屋さんの人などに配り続けていった。

 そうしてバケツ一杯のおいし水を配り終えると、日暮れになっていた。

 そろそろスワンのところへ帰ろうとしていた矢先、フルーツの試食があったのでそれを食べておいしかったので、懐に忍ばせておいたリンゴと交換し帰っていくのであった。


(皆、スワンの飲料店で喜んでくれているといいんだけどな)

(果物、たくさん収穫があるといいなぁ~~)


 バケツを持ったまま伸びをしながら帰るのであった。

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